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新婚生活編

17.爺ちゃんからの贈り物

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「瞬ちゃん宛になんか宅急便届いてたよ」
俺は彗に言われてリビングのテーブルの上に置かれた段ボール箱に目を向けた。
差出人の欄には俺の爺ちゃんの名前が記載されている。
「なんか嫌な予感がするな…」
俺がダンボールと睨めっこしていると彗が
興味津々といった様子で覗き込んできた。
俺は恐る恐るガムテープを剥がし、中身を確認する。
「……わぁ」
中から出てきたのは2人分の男物の浴衣だった。下駄や巾着までセットになっている。
1つは紺色の生地に縦縞が入ったシンプルなデザインで、もう片方はグレーの無地だった。
「俺こんなの頼んでないぞ」
「あ、見て。手紙が入ってるよ」
俺が首を傾げていると、彗が封筒を指さした。

『瞬介へ
彗くんとは仲良くやってるか?
花火大会にはこの浴衣を着て行きなさい。
あと盆には必ず実家に帰ること。
じいじより』

達筆で書かれた文章を読み終えた俺は思わず頭を抱えた。
「爺ちゃん……相変わらず勝手なことばかり」
「いいじゃん、折角用意してくれたんだしさ。お祭りデートしようよ」
彗は俺の隣で呑気ににこにこ笑っている。
「……あれ、でもこの文面おかしくないか?まるで俺たちが花火大会に行くって知ってたみたいな…」
「そりゃそうだよ。俺が爺ちゃんに伝えたもん」
「は!?いつのまに!?」
俺が驚いて声を上げると、彗は何食わぬ顔でスマホを操作し始めた。
「ほらこれ見て」
画面を見るとそこにはメッセージアプリが表示されている。
『源じいちゃん』と書かれたトークルームには祖父と思われる人物とのやり取りが残っていた。
『今度瞬介くんと花火大会に行きます!』という彗のメッセージに対し、祖父は芸能人のボイス付きスタンプを連打していた。

「…あのジジイいつの間にスマホデビューなんてしたんだ…?俺には教えてくれなかったぞ」
しかも機能を存分に使いこなしているところが妙に腹立たしい。
俺は彗からスマホを取り上げると、トークルームをひたすら遡ってみた。

『瞬介とラブラブしとるか?』
『ワシが新婚の頃は婆さんと毎晩のように愛し合っていたぞ』
『何か困ったことがあったら遠慮せずに連絡しなさい。彗くんももうワシの大切な家族だからな』

などという内容が延々と続いていた。
過剰に絵文字を使ってくるところも、やたらと顔文字のチョイスが若いところも何もかもがムカつく。
時折、孫を心配するような祖父らしい言葉も混ざってはいたが大半はろくでもない内容であった。
どうやら祖父は彗の恋路を全力で応援するつもりらしい。
そんな祖父に対してノリよく返信をしている彗のコミュ力の高さにもただ感心する。
しかし、いくらスクロールしてもそのやりとりの殆どが俺の惚気話であることに気付き段々気恥ずかしくなってきた。

「なんだよこれ…」
ツッコミどころが多すぎて追いつかない。
「瞬ちゃんの家族ってほんとみんな面白いよねぇ」
彗が隣で楽しげに微笑んでいるのを見て、俺は溜め息をつくしかなかった。
「でもまじで嫌だったらちゃんと言えよ。俺から爺ちゃんに伝えるから」
「ううん。俺、両親以外の身内知らないからさ。むしろこういうの嬉しいんだよね」
「……そっか」
「それに瞬ちゃんの話も沢山できて楽しいしね」
「なんだそりゃ」
俺は照れ隠しにそっぽを向いたが、頬が緩むのを止められなかった。
俺はこの日初めて祖父に感謝の気持ちを抱いたかもしれない。

「そ、そういや俺、浴衣の着付け?なんて分かんないぞ」
「それなら大丈夫!俺が着せてあげるから」
「えっお前そんなことまで出来んの?」
「うん、昔母さんに仕込まれたから」
彗はそう言って得意げな表情を浮かべた。
そう言えば小学校あたりまでは毎年夏祭りの時に彗の母さんに浴衣を着せてもらっていたっけ。
まさかこんな形でまた着ることになるとは思わなかった。

「楽しみだねぇ、花火大会」
「ああ」
成人してから初めて彗と2人で行く花火大会。
きっと忘れられない思い出になるだろう。
俺は浴衣を眺めながらそんなことを考えた。
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