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第一章:セシリア、10歳。ついに社交界デビューの日を迎える。

第11話 兄姉の『やらかし』を聞いて

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 2人の『やらかし』話を順番に聞き終わると、セシリアは少し考える素振りを見せた。

 2人の話を要約すると、つまりはこういう話らしい。

「つまりキリルお兄様はオルトガン伯爵家の名前に寄ってきた自尊心が高いばかりで実績の伴わない侯爵を返り討ちにしたのですね?」
「そうだね。セシリーは中々に的を射た言い方をする」

 セシリアの声に、キリルがフッと笑ってそう答える。

 その満足げ、かつどこか楽しげな表情を覗かせた彼に、セシリアは小さな疑問を抱いた。
 するとマリーシアがサラリと答えてくれる。

「侯爵は未だに自派閥に取り込む事を諦めていないみたいですからね」

 マリーシア曰く、行動には起こしてこないまでも虎視眈々と、狙っている気配はするらしい。

 それを聞いて、セシリアはやっと納得した。

 おそらくあれは『いつも何かと目障りな相手が的を射た言い方で簡略化されたからこそ』の笑いなのだろう。


 そんな兄を何やら珍しく子供っぽく見えて、セシリアも思わず笑ってしまった。

 しかしそれも一瞬だ。
 セシリアは次にマリーシアを見遣る。

「そしてマリーお姉様は、貴族として社交界デビューしたにも関わらず貴族の礼儀さえ弁えられない令嬢の高いプライドと、我欲が強い伯爵の利己を利用して、家ごと蹴散らしたのですね?」
「その通りよ」

 ズバリそう言った妹に、マリーシアはキッパリと答えた。

 柔和な笑みがその本質を覆い隠そうとするが、そこには妹の言葉の辛辣さに見合うだけの見切りが見える。

(マリーお姉様は、よほどかの家の事が嫌いらしい)

 なんて事を思いながら、セシリアは「うーん」と、2人の話から自身が巻き込まれるかもしれないものの正体を想像し始める。

「という事は、私もお2人と同じ様な絡まれ方をされる可能性があるという事ですね?」
「そうね、残念ながら」

 その答えを肯定したのはマリーシアだ。
 これまたキッパリと言い放った妹に、キリルは苦笑しながらも肯定する。

「まぁあくまでも『やらかし』は、相手が起こした言動への対処だからね。こちらが気を付けるのは難しいけど……。巻き込まれる『覚悟』はしておいた方が良いと思うよ」

 今度はキリルの声だ。

 そんな兄姉からのありがたい助言に、セシリアは素直に頷いておいた。



 丁度そんなやり取りを終えた頃。
 まるで時間を読んでいたかのように、乗っていた馬車が停止した。

 今まで話に集中していて全く馬車の外を気にしていなかった自分に気が付いて、セシリアは窓から外を見遣る。


 目の前には大きな門が聳え立っていた。
 どうやら門番に一度止められたようである。

 セシリアが「何事だろう」と外を眺めていると、それを見かねたのか。
 こんな声が掛けられた。

「王城に入る前に、招待状の有無を確認しているのだと思います」

 その声の主は、今の今まで気配を完全に断っていたもう1人の同乗者、キリルの専属執事・ロマナだ。

 おそらく「兄妹の話の邪魔をしない様に」という配慮でずっと気配を消していたのだろう。
 しかし。

(彼の事、完全に忘れていたわ。流石は次期当主の専属執事、という事なんでしょうね)

 場の雰囲気を壊さずに常時主人のすぐ近くにいる事が、執事の責務でもある。
 そういう意味でいうと、彼はもう既に一端の執事だ。

 彼は歳がキリルの一つ上、今年16歳になる。
 16ともなれば成人年齢だが、それでもこの若さで彼ほどのスキルを持つ者は早々居ない。

 しかしそんな事は、周りと自家を比べる機会に恵まれなかったセシリアには知る由もない。


 因みに、しばらくすると馬車は再び走り出した。
 どうやら彼の説明は正しかったようである。



 門を抜けると、窓の外の景色がガラッと変わった。

 広がるのは、整備された白い石畳と綺麗な庭園。
 石畳に沿う形で作られた庭園には、冬の花・スイセンやサイゼリア等が咲いた花壇がある。


 その花々を眺めながら、セシリアはふと独り言ちた。

(面積は王城内の方が広いけど、花の手入れや管理の技術レベルはうちとあまり変わらないみたいね)

 果たして王宮庭師の質が低いのか。
 それともオルトガン伯爵家の庭師の質が高いのか。

 この正解も、今のセシリアにはまだ分からない。
 

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