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兆し

第7話 場違いレガシー(2)

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 その執事は、とても冷静に見えた。
 本当に冷静な気持ちで見ているのか、それとも気持ちをうまく隠せているのかは分からないが、少なくともレガシーには、彼がそう見える。

(年は……僕よりも2、3上かな)

 令嬢付きにしてこんな公の場所まで引っ張り出すには、少し若すぎる。
 しかし彼がセシリア付きなのは相応のスキルがあってこそだという事は、日頃セシリアを眺めるにあたり随所に現れる彼の仕事ぶりを見ても、今の様子を見ても良く分かる。

(主人の『敵』が目の前に来たら、少しは慌てたりしそうなものだけど)

 そんな風に思いながら彼を観察してみるが、特に焦る様子は見えない。

 先ほどから、少し立ち位置を変えただろうか。
 そう思うものの、何だか気のせいな気もする。

(うーん……。彼の様子からは何も情報が得られそうにない)

 そんな風に思い、レガシーは視線をまた2人へと戻す。


 レガシーがよそ見をしていた間にも、両者の話は続いていた。

「……私がこれからその理由を話したとして、その話の内容は貴方を今以上に不快にし、悲しい気持ちにさせるかもしれません。――それでも貴方は聞きたいのですか?」

 セシリアのその声は、話が「セシリアがクラウンの『お願い』を聞き入れる」方向に傾きつつある事を示唆していた。

 そんな状況を鑑みて、レガシーは思う。

(……もしかして僕、邪魔なんじゃない?)

 と。


 しかし彼女がこれから語るだろう事と初めて近くで見るセシリアの社交の仮面を前にして、基本的に他人の事には無頓着な彼にしては珍しく、野次馬根性がニョキっと顔を出していた。


 確かに彼はセシリアの情報を仕入れる為に、他貴族達からこの件についての噂話を聞いた。
 しかしそれは、あくまでも噂だ。

 噂話よりも当事者同士の話の方が情報の信ぴょう性が高いのは必至である。


 その結果。

(話の腰を折るような事さえしなければ、別に此処で聞いていても良いんじゃない……?)

 という考えに彼の思考は落ち着いた。

 そして2人のどちらかに指摘されるまでは黙ってその場に居る事を、レガシーは1人密かに決意する。


 そんな彼の野次馬根性が天に届いたのか。
 幸いにも、誰一人としてレガシーの退場を求めはしなかった。



 ……まぁ、もしかしたら『2人とも、静聴するレガシーの存在を半ば忘れてしまっていた』という事もあったのかもしれないが、その真相は分からない。

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