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番外編

裏ではこうなっていた

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(カイ視点)



 今日はフィリア嬢が、生まれたばかりの妹、レイチェルを見にいらっしゃる日だ。そう思うと今朝は早く目が覚めた。朝稽古を早めに済ませて準備をする。あのフィリア嬢が我が家にいらっしゃるのだと思うと変に落ち着かない気分になった。

「おはよう、レイチェル」

 妹の部屋に行き、まだ喋ることもままならない彼女に挨拶をすると、彼女はもう起きていたらしく「うー」と挨拶らしきものを返してくれた。賢い子だと我が妹ながらに思う。なぜか最近は遠い目をしているように見えるが、それでも彼女はいつも何やらこちらの言葉を理解しているような反応をするのだ。

「今日は大切なお客様がいらっしゃるからよろしく頼む」

「うー」



 そんなやりとりをして少し経った後、フィリア嬢がいらっしゃった。普段よりも目を輝かせたその姿からレイチェルのことを楽しみにしてくださっていたのがよく分かって、俺は少し頬が緩んだ。彼女のことをよく知らない人は、凛として見える姿からは予想もつかないこんな可愛らしい姿なんて見ることもできないのだろう。そう思うと得をした気分だ。


「か、か、可愛いぃ……」

 妹との対面を果たすとフィリア嬢はそうこぼした。それを聞くと部屋にいた者は全員笑顔になる。しかし……

「うっ、うっ、うああああああぁ」

 いつも大人しいレイチェルが泣き始めてしまった。予測していなかった事態に慌ててしまう。せめてもとかけた言葉はむしろフィリア嬢を落ち込ませるものになってしまった。どうにかできないものかと頭の悩ませていたその時だった。


ボンッ


 悪夢の始まりを告げるその音がなったのは。

 音からして屋敷の敷地内のどこかが爆破されたことが予想できたので、俺は急いでその現場を探した。そしてそれはすぐに判明した。屋敷の門だ。よくも武術で名を馳せる我がアルブラン家の敷地を堂々と表から攻撃してくれたものだ。俺は怒りに震えながらも怪我人がいないかの確認、鎮火の指示を速やかに行なった。爆破だけが犯人の目的とはどうにも考えづらい。次の襲撃がある可能性も考えて行動を急がなければならなかったのだ。

「カイ様!二階の方から煙が!」

 言われるがままに二階を見ると確かに煙が上がっていた。ただ炎があがっているようには見えない。目眩しか?だとしたら……二階といえばレイチェルの部屋がある。つまりフィリア嬢がいらっしゃる場所だ。生まれたばかりのレイチェルに狙われる理由はない。……そうか、狙いはフィリア嬢だったのか。俺は急いで二階に向かおうとした。


「おっと……二階には行かせねぇよ?」

「っ何者だ!」

 振り向いた先にいたのは体のほぼ全体が黒いローブに覆われた見るからに怪しい男だった。

「何者だろうとあんたには関係ないね」

 嫌味ったらしい笑みを浮かべると男は俺に向かって襲いかかってきた。少しだけできた隙で周りの様子を伺うと同じような格好の男たちが屋敷の者に襲いかかっている。くそ、足止め要員か。一刻も早くフィリア嬢のもとへ行かなくてはならないというのに。

 それから十数分。なかなか決着がつかない。もうとっくにフィリア嬢は攫われてしまっているかもしれないというのに。早く助けに行かなければ、早く早く……そう思うたびに神経が削られていくような感覚だった。援護などろくに無い状態が続き、正直限界も近かった。何か……この状況を変えるものは何かないのか……?





「よく耐えたカイ。衛兵、この者たちを早急に捕らえよ!」

「「「「はっ」」」」

 響き渡る声に振り向けばそこにいたのは衛兵を引き連れたルークベルト王子殿下だった。


「……で、殿下。なぜ、ここに」

「クライン家に用があったのだがその帰りにアルブラン家の方角から煙が上がっているのが見えたんだ……無事で良かった」

「無事……いえ!フィリア嬢が攫われてしまった可能性が高いです!」

「っフィリア嬢が……?」


 殿下と共に急いでレイチェルの部屋に上がると我が家の侍女たちが気を失っており、フィリア嬢の侍女は大量の血を流して倒れていた。レイチェルは顔に布がかけられた状態でずっと泣いている。そしてそこにはもうフィリア嬢の姿はなかった。

「くそ!カイ、すぐに医者を呼べ!応急処置は俺がしておく」

「はい!」

 爆破の時点で医者を呼ぶように指示は出しておいたのでそう時間はかからなかった。しかし……

「フィリア嬢は一体どこに……」

「それなら心当たりがある」

「本当ですか、殿下!」

「ああ。これがあの伯爵の企てだとするなら、奴の性格からしても連れて行かれる場所はただ一つ、伯爵の母方の実家の屋敷だけだ」

「確かあそこは……」

「もう没落した家だ。だが屋敷だけは残っている。誰も使うことなく、な」

「つまり人攫いには最適な場所、ということですね」

「ああ。俺はすぐにそちらに向かう。お前にはここの後始末を頼みたい」

「かしこまりました。くれぐれもお気をつけて」

「ああ」



 それから数時間後、ルークベルト殿下は確かにフィリア嬢を連れて帰ってきた。ただ俺はどうしてもフィリア嬢の顔を見ることができなかった。俺がもっと適切な行動をとれていたなら、あの時部屋を離れなければ、こんなことにはならなかった。その思いが消せるはずがないのだから。



「……カイ様?」

「俺の、せいですね」

 こちらの様子を伺うその姿に返せた言葉はそれだけだった。

「……私は、そうは思っていません。カイ様は必死にお屋敷を守ろうとしていらっしゃいました。それをどうして責めることができるでしょうか」

「ですが」

「ではまたいつか、私が同じような危機に陥った時に助けてください。私もこんな目には合わないように気を付けますが、もしもの時には」

 その言葉と共に浮かべられた儚い笑顔に誓った。二度とこの人を危ない目になんか遭わせやしないと。


 それから俺は毎日の稽古をさらに厳しいものにした。ただ闇雲に剣を振るうではなく、目指すものがあるおかげで、目の前の霧が晴れたようにただ強さだけを追い求めることができる。だが、そうやって身につけた力によって俺がルークベルト殿下の護衛に任命されたというのはまた別の話になる。



○○○○○○○○○○○○○○○○○○


 ルーク様はルーク様で毒入りのお茶事件からずっと情報をかき集めていました。それ自体はゲームの世界でも変わらないので、やっぱりレイチェルとラナのファインプレーは大きかったりします。
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