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1──波乱の幕開け

0 のばした指先

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****♡Side・??

 涙伝う頬に指先を伸ばせば、その手は握り込まれた。
 これが終焉なのか、それともはじまりなのかどちらにもわからなかったと思う。だが、やっとたどり着いた今が始まりであると願いたかった。
 数度瞬きをする彼の濡れた睫毛。
 ただ、綺麗だなと思った。

 らしくない自分がここにいて、らしくないことをしている。
『彼と別れて一緒に暮らそうか』
 ポロリとこぼれ落ちた言葉に彼は目を見開く。寂しがり屋で頑張り屋の彼の側にいてあげたいと思った。
 上手くいくかどうかなんてわからない。そんなものは試してみなければ誰にもわからない。ダメだった時はまたその時考えればいいのだ。

 そんなことを思いながら彼の顎を捉え口づける。
 室内に流れる淋し気で軽快な音楽は、まるで今の心情を語っているように思えた。
 キスを拒まないものの、同棲に対しては渋っているように見える。まだ駄目なのだろうか。
『忘れられない?』
 彼の心を占めているのが誰なのかなんて言わずとも判っているつもりだ。それを断ち切ったからここにいると言うのは見当違いなのか。

『今の自分は、中途半端だから』
 彼こと唯野 修二はそう言って抱きしめようとしたこの胸を押し返す。

 真面目で物腰が柔らかく、笑顔を絶やさない彼に惹かれた。そうあろうとしているだけなことを知った時、支えてあげたいと思った。
 それなのに彼の心を占めている者が存在する。おおよそ彼に相応しいとは思えない人物が。

 人事異動は自分にとっても彼にとっても転機。
 そうなるはずだった。
 部署が変われば二人には接点がなくなると思った。だがその話を機に二人はつき合いはじめ、同時に一緒に暮らし始めたのだ。
 彼の恋人は忙しい。案の定、寂しそうにしている彼をよく見かけるようになった。チャンスだと思っても不思議はないだろう。

 翌日、彼らを社の屋上で見かけた。一緒にいても幸せにはなれなそうに見えるのに、彼はヤツを選ぶのだろうか。
 それならば奪い取るまで。
 そう呟いて踵を返す。
 だが、彼を巡るライバルはヤツだけではなかったのである。
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