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1──波乱の幕開け
1 後悔
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****♡Side・黒岩
人は誰しも一度はやり直したいと思ったことがあるのではないか?
それは恋愛だったり、今しがた回したガチャだったり、人生そのものということもあるだろう。
黒岩は今まさにそういった状況にいた。
「なんでこうなるかな」
(株)原始人、通称株原は主に自社で開発した商品を自社の店舗で展開している会社である。その商品は雑貨や食品など多岐に渡るが、何をどう間違ったのか【大人向けのコンセプト】のはずが【アダルト路線】に向かってしまった変わった会社でもある。
黒岩 櫂は入社二年目で営業部所属。同期入社の唯野 修二と営業成績トップを争うような仲にいた。
唯野と言えば容姿端麗、物腰は柔らかく男女問わず人気のある人物。
真面目で誠実と言う言葉も、彼にはよく似合っている。
今まで愛と性欲が切り離され、独り歩きしていたような黒岩も例外なく彼に惹かれた。しかし今更行動を改めたところで唯野に見向きされるはずもなく、交際を申し込んだところ玉砕したのだ。
『今は仕事に慣れたいから』
だが断る理由を聞いて嫌われているのではないとポジティブに考えた黒岩は、諦めなかった。
そんな黒岩に転機が訪れたのは、飲み会でのこと。
酔って罠に嵌められそうになった彼を助けたことにより、たまに二人で呑みに出かけるような仲にまで発展したのである。唯野は決して誰かと二人きりになることはない。何に用心しているのか分からないが。
そんな彼と気軽に二人きりになれる。自分は特別だと思ってしまっても仕方ないのではないだろうか?
昨日は疲れていたせいもあって宅呑みにした。
きっとそれがいけなかったに違いない。
『お前って、いつもニコニコしてて疲れない?』
酒が入っていたからだろうか。いつもは避けている話題を思わず口にしてしまった。彼が無理して頑張っていることは知っていたのに。
『そりゃあ、疲れるよ。でも、頑張らないと』
テーブルに頬杖をつき、呟くように零す彼。
弱音を吐けるような相手がいないのだろうと思った。
『なんでそんなに無理すんの』
『社会に出たら頼れるのは自分自身だけだろ。黒岩だってそんなの分かってるじゃないか』
”営業部なら、なおさらそうじゃないの”と続けた彼。
黒岩はそんな彼を切なげに見つめていた。
我が社の社長は人の能力を見抜く力に優れていると有名だった。一部の人間はそうやって部署に割り振られる。唯野も黒岩もその一人だった。
『社長はホントに俺が営業に向いていると思っているんかな』
ため息を零す唯野。
『そう言えば、唯野は社長のお気に入りだという噂があるけれど』
『そんなのデマだよ。話したことすらないし』
唯野が嘘をついているとは思えない。きっとそうなのだろうと黒岩は思った。
『唯野は部署を移動したいのか?』
『できればね。商品部とか管理系に行きたいよ』
『ああ、仕入れね』
見目麗しい彼を営業に置くのは悪くない方針だとは思う。ただ、人には向き不向きというものがある。人と話すことが苦手ではなくとも、交渉の必要が出てくるのであればまた違うだろう。
『俺、絶対営業向いてないよ』
いつになく弱音を吐くのは、場所が家だからだろう。外では人の目を気にする彼。常識的で良識を持った彼には弱音を吐くこともハードルが高いのだろうか。
『愚痴ってごめん。今日はとても酔っているみたいだ』
『いいよ。泊っていくんだろ』
『ん』
誰かと二人きりになるのを避けるような彼が自分の家に泊る選択をするのが嬉しかった。
──俺はどうかしていたんだ。
じゃなきゃ、あんなこと。
ここまでゆっくりと距離を詰めてきたはずなのに、酔っていたせいか自分は踏み外してしまったのである。
「あんなことするつもりはなかった」
黒岩は額に手をやると項垂れた。
謝って許してもらえるとは思えない。何せ彼は真面目で誠実な人物。相手にも同じことを望む。
彼が好きだから変わりたいと思った。せめて彼に対しては誠実でいたいと思っていたのに。
人は誰しも一度はやり直したいと思ったことがあるのではないか?
それは恋愛だったり、今しがた回したガチャだったり、人生そのものということもあるだろう。
黒岩は今まさにそういった状況にいた。
「なんでこうなるかな」
(株)原始人、通称株原は主に自社で開発した商品を自社の店舗で展開している会社である。その商品は雑貨や食品など多岐に渡るが、何をどう間違ったのか【大人向けのコンセプト】のはずが【アダルト路線】に向かってしまった変わった会社でもある。
黒岩 櫂は入社二年目で営業部所属。同期入社の唯野 修二と営業成績トップを争うような仲にいた。
唯野と言えば容姿端麗、物腰は柔らかく男女問わず人気のある人物。
真面目で誠実と言う言葉も、彼にはよく似合っている。
今まで愛と性欲が切り離され、独り歩きしていたような黒岩も例外なく彼に惹かれた。しかし今更行動を改めたところで唯野に見向きされるはずもなく、交際を申し込んだところ玉砕したのだ。
『今は仕事に慣れたいから』
だが断る理由を聞いて嫌われているのではないとポジティブに考えた黒岩は、諦めなかった。
そんな黒岩に転機が訪れたのは、飲み会でのこと。
酔って罠に嵌められそうになった彼を助けたことにより、たまに二人で呑みに出かけるような仲にまで発展したのである。唯野は決して誰かと二人きりになることはない。何に用心しているのか分からないが。
そんな彼と気軽に二人きりになれる。自分は特別だと思ってしまっても仕方ないのではないだろうか?
昨日は疲れていたせいもあって宅呑みにした。
きっとそれがいけなかったに違いない。
『お前って、いつもニコニコしてて疲れない?』
酒が入っていたからだろうか。いつもは避けている話題を思わず口にしてしまった。彼が無理して頑張っていることは知っていたのに。
『そりゃあ、疲れるよ。でも、頑張らないと』
テーブルに頬杖をつき、呟くように零す彼。
弱音を吐けるような相手がいないのだろうと思った。
『なんでそんなに無理すんの』
『社会に出たら頼れるのは自分自身だけだろ。黒岩だってそんなの分かってるじゃないか』
”営業部なら、なおさらそうじゃないの”と続けた彼。
黒岩はそんな彼を切なげに見つめていた。
我が社の社長は人の能力を見抜く力に優れていると有名だった。一部の人間はそうやって部署に割り振られる。唯野も黒岩もその一人だった。
『社長はホントに俺が営業に向いていると思っているんかな』
ため息を零す唯野。
『そう言えば、唯野は社長のお気に入りだという噂があるけれど』
『そんなのデマだよ。話したことすらないし』
唯野が嘘をついているとは思えない。きっとそうなのだろうと黒岩は思った。
『唯野は部署を移動したいのか?』
『できればね。商品部とか管理系に行きたいよ』
『ああ、仕入れね』
見目麗しい彼を営業に置くのは悪くない方針だとは思う。ただ、人には向き不向きというものがある。人と話すことが苦手ではなくとも、交渉の必要が出てくるのであればまた違うだろう。
『俺、絶対営業向いてないよ』
いつになく弱音を吐くのは、場所が家だからだろう。外では人の目を気にする彼。常識的で良識を持った彼には弱音を吐くこともハードルが高いのだろうか。
『愚痴ってごめん。今日はとても酔っているみたいだ』
『いいよ。泊っていくんだろ』
『ん』
誰かと二人きりになるのを避けるような彼が自分の家に泊る選択をするのが嬉しかった。
──俺はどうかしていたんだ。
じゃなきゃ、あんなこと。
ここまでゆっくりと距離を詰めてきたはずなのに、酔っていたせいか自分は踏み外してしまったのである。
「あんなことするつもりはなかった」
黒岩は額に手をやると項垂れた。
謝って許してもらえるとは思えない。何せ彼は真面目で誠実な人物。相手にも同じことを望む。
彼が好きだから変わりたいと思った。せめて彼に対しては誠実でいたいと思っていたのに。
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