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第10話 はからずも治験成功(Gの代わりに人間で)

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この家には私以外誰もいない。私は、誰も見ていないことをいいことに、そっと手をかざした。

誰も知らない、王家も知らない私の力。

伯母さまだけが知っていて、顔色を変えていた。

「絶対に、絶対に黙っているんだよ? 知られたらお前の人生は狂っていく」

幻の魔力。治癒の力というそうだ。

知っていたら婚約破棄なんかあり得ない。でも、解放してくれてありがとう。

私は魔力持ち。
この力自身が、呪いかも知れないけど、今は自由に使わせてもらう。

手をかざす。ほんのり熱が溜まってきて、だんだん熱くなってくる。

傷口からは、ポコっと黄色っぽいねっとりした液体が顔を出した。これがダメ。体を腐らせていく。

手に力を込め、体内から、引っ張り出すと、少しずつ流れ出てきた。

最初はねっとりしていたものが、だんだんと粘度が薄れて、サラサラの透明な液体になり、最後には何も出なくなった。

「よし」

呪いの素を外に出したのち、傷口をふさぐ。これは皮膚が引きれて痛むだろう。

「う……」

意識がない痩せ騎士が小さな声でうめいた。
かわいそう。

ケガは治した。ケガが元で発生した毒素も、私の誇る栄養ドリンクを飲めば、いずれ回復するでしょう。

「とりあえず……とりあえず、今、出来ることをしなくては」

私は戸棚に走った。

ジュース以外の商品開発も考えていたのだ。栄養ドリンクとか、滋養強壮剤とか。ジュースだって、売れなくなるかも知れないもの。真冬にドン冷えジュースなんか絶対飲まないと思う。

体にいいようにと願って作った自慢のドリンク類は、効果バツグンのはず。

欠点は、いずれも恐ろしくマズイことだった。
でも、気絶しているなら文句は言わないだろう。

私は騎士様の口をナイフでこじ開けた。

「今、助けるわ」

私はジュースに溶かした強力栄養ドリンクを、口に流し込んだ。

「ゴプぅ」

騎士様は反応した。よかった、意識が戻った。

「マ、マズイ。舌、しびれる。死ぬ」

「良薬、口に苦しよ。少し我慢して」

私は励ました。男子が軽々しく弱音を吐いちゃいけないわ。

「し、死んだ方がマシ……マズッ……」

せっかくの薬をそこまで悪様あしざまに言うか、コイツ。

もう少し飲ませようと薬瓶のラベルを見ると、『しびれ薬』になっていた。

しまった。間違えた。この前、しびれ薬も作ってみたんだっけ。どうして町の家の方に持ってきたんだっけ? あ、そうそう。Gが出たんだった。Gに効くかどうか調べようと思って……

「し、しびれる……」

おお。効果の治験が図らずもできてしまったわ……

マズイ。私はバキューム魔法でしびれ薬を引き出して、口の中を水で洗った。余計な手間が増えてしまった。私のバカ。

それから、薬瓶のラベルをよく確認してから、再度挑戦しようとした。

しかし、敵は抵抗する。

「いらん」

「大丈夫。今度はしびれないから。苦いだけよ」

私はなだめるようにやさしく言った。

「いらんわっ」

「わがまま言わないの。お姉さんの言うことを聞きましょうね」

変なことを言ってしまった。

痩せ騎士様は、痩せ騎士とも思えない力で大抵抗してきた。右手を取られて、思うように口に入れられない。素直に飲めっちゅうねん。元気になるためには仕方ないでしょ!

「口移しなら飲んでやる」

誰がそんなキモいことするか。

「悪いこと言う口は、こうですよ」

私は優しくさとした。こう見えても私には魔力がある。右手を取られても左手があるさ。騎士様の口を魔法でこじ開け、特大スプーンで特製栄養剤を騎士様の口に押し込み、無理矢理ごっくんさせた。ザマアみろ。

私の右手をつかんでいた騎士様の手が力を失ってポトリと落ち、白目をむいて頭がぐらりとなった。

あれ?

今度はラベルの張り間違い?

心配になった私はあわてて騎士様の口をもう一度のぞき込んだ。

途端にぱくりとやられた。
キスされた。舌と舌が触れた。

「げっ。苦い」

しかも痺れが残っている。

「マッズー」

私は言った。本気でマズイ。地獄の食べ物だ。

ケッと言う声がして、騎士様が薄目を開けて私を見ていた。

「ひでーことしやがる。わかったか……」

なにをー。私はあんたを助けようと思って……

しかし今度こそ、騎士様は気を失ったらしい。ゴトっという音がして、頭が床にぶつかった。目は閉じられて、手足から完全に力が抜けていた。




*****(いらない)用語解説*****
(読んで不愉快になるかもしれないと、第六感の働く方は、ご遠慮ください)

Gとは。
今や全国区になりつつある茶色や黒の翅を持つ異世界恐怖生物を指す隠語。
一番の恐怖は、いきなりの飛翔行動。




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