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後日談 黄色いシャツの男7 謁見
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マラテラス侯爵夫人が、マグリナの自邸からフリージアの王都にあるロビア家の屋敷まで来たのには訳があった。
言わなければいけないことがあったのだ。
あのね、リナ。いえ、王太子妃様。
あなたが残した薬の数々は、莫大な富を生みながら、国中の隅々までいきわたり始めている。
あなたの商品を専門的に取り扱ってくれる、マックス商会と言う優秀で良心的な商人が付いたなんて、すばらしいわ。ワトソン商会の息子ですって? 良い話ですわ。信用という面でね。
きっと、この商売はじきにとても大きくなるでしょう。
あなたの作った薬はすばらしかったから。
うまくいけば、国家予算の規模になるほどに。
それはきっとあなたを守ることにもなる。莫大な財産を自由にできる王太子妃なら、きっとどんな後ろ盾もいらないでしょう。
でも、その時には、マックス商会には王家の後ろ盾が必要になる。その地位を狙う商人も多いでしょうから。
あなたがマックス商会を守ってあげなければならない。その代わり、莫大な利益が流れ込んでくるわ。
きっと目先は利いても、温厚な方なのでしょう。
利幅の薄い地方へも、必要な人がいるならとあなたの希望を理解して叶えてくれた良心的な商会ですもの。
一度会って、お互いの意思を確認しあった方がいいと思うの。
姪のリナの盤石な地位を願うマラテラス侯爵夫人としては、譲れないところだった。
「絶対に会わせたくない。いくら知らなかったこととは言え、一国の王太子妃の名前を商品につけるってどうなの? 不敬罪だよね? そもそも『リナを探す会』って何? 俺、発見されたくないんだけど。見せたくないし」
問題は、異議を唱えるこの不経済な男である。
仕方がないので、結局、セバスの出番になった。
ある日、マックス商会に見知らぬ一人の男が訪れた。
「マラテスタ侯爵夫人が、今滞在しているフリージアへ商談に来てほしい」と言っていると。
マックスは、マラケスタ侯爵夫人のところから来たと言う、いかにも身分高い貴族の家に長く務めてきたと言う風情の男と面談した。
「商談ならギルドの会長が間に入ってくれています。フリージアの王都まで行く必要はないでしょう。魔術ギルド全体がマラテスタ侯爵夫人の影響下にあるので、ギルドの会長はマラケスタ侯爵夫人の代理人みたいなものです。それに、あのような貴顕の夫人に直接お目にかかるなんて、恐れ多い」
元黄色のシャツの引きこもりマックスは、できたら新しい人に会うのは遠慮したいタイプだった。
「これは実は秘密で、ギルドの会長も知らない話なのですが……」
セバスは人払いをしたマックス商会の客間で言い出した。
「あなたが扱っていらっしゃる薬の数、多いと思いませんか?」
マックスはびくびくしながらうなずいた。
それは他の商人たちからよく指摘されていた。
さすがはワトソン商会の息子だ、どんな引きがあるんだろう、とか、きっとワトソン商会が多額のわいろを使っているに違ないとか、胃に穴が開きそうだった。
義兄は商売の一部をよこせと、会いさえすれば嫌味を言うし。
痩せ痩せから、リバウンドし始めてややふくよかになったマックスの話を、セバスは興味深く聞いた。
多分、ストレスがあるのだろう。
セバスは深くうなずいて同情した。
「どうしてあなたのところに、ギルド長が仕事を任せてくれるのか知っていますか?」
「いえ。実は心当たりは全然……」
確かにパーカー博士は優秀で、マラケスタ侯爵夫人に目をかけられていた。
そのパーカー博士とマックスは親しかったわけだが、縁と言えばそれくらいだ。
「ご縁というものは不思議なものです。思わぬところに転がっているのです」
マックスは澄んだ茶色の目を大きくして、セバスの顔を見つめた。
悪人の顔ではなかった。
「ぜひお越しください。この話の黒幕にご紹介しましょう。いや、ご紹介することはかなわないかもしれませんが、少なくとも納得していただけると思います」
セバスは王都にマックスが泊まる宿を用意していた。
「二週間後にお会いしましょう。私どもはあなたを守りたいのです。聞くところによれば、実家のワトソン商会とも関係はよくないとか」
マックスの表情が固くなった。
「ご家族の確執は時として、他人同士よりも深刻な場合があります。私たちは他人です。商売上の関係しかありません。あなたが儲ければ、私たちにも儲かる。私たちは商売仲間なのです」
言わなければいけないことがあったのだ。
あのね、リナ。いえ、王太子妃様。
あなたが残した薬の数々は、莫大な富を生みながら、国中の隅々までいきわたり始めている。
あなたの商品を専門的に取り扱ってくれる、マックス商会と言う優秀で良心的な商人が付いたなんて、すばらしいわ。ワトソン商会の息子ですって? 良い話ですわ。信用という面でね。
きっと、この商売はじきにとても大きくなるでしょう。
あなたの作った薬はすばらしかったから。
うまくいけば、国家予算の規模になるほどに。
それはきっとあなたを守ることにもなる。莫大な財産を自由にできる王太子妃なら、きっとどんな後ろ盾もいらないでしょう。
でも、その時には、マックス商会には王家の後ろ盾が必要になる。その地位を狙う商人も多いでしょうから。
あなたがマックス商会を守ってあげなければならない。その代わり、莫大な利益が流れ込んでくるわ。
きっと目先は利いても、温厚な方なのでしょう。
利幅の薄い地方へも、必要な人がいるならとあなたの希望を理解して叶えてくれた良心的な商会ですもの。
一度会って、お互いの意思を確認しあった方がいいと思うの。
姪のリナの盤石な地位を願うマラテラス侯爵夫人としては、譲れないところだった。
「絶対に会わせたくない。いくら知らなかったこととは言え、一国の王太子妃の名前を商品につけるってどうなの? 不敬罪だよね? そもそも『リナを探す会』って何? 俺、発見されたくないんだけど。見せたくないし」
問題は、異議を唱えるこの不経済な男である。
仕方がないので、結局、セバスの出番になった。
ある日、マックス商会に見知らぬ一人の男が訪れた。
「マラテスタ侯爵夫人が、今滞在しているフリージアへ商談に来てほしい」と言っていると。
マックスは、マラケスタ侯爵夫人のところから来たと言う、いかにも身分高い貴族の家に長く務めてきたと言う風情の男と面談した。
「商談ならギルドの会長が間に入ってくれています。フリージアの王都まで行く必要はないでしょう。魔術ギルド全体がマラテスタ侯爵夫人の影響下にあるので、ギルドの会長はマラケスタ侯爵夫人の代理人みたいなものです。それに、あのような貴顕の夫人に直接お目にかかるなんて、恐れ多い」
元黄色のシャツの引きこもりマックスは、できたら新しい人に会うのは遠慮したいタイプだった。
「これは実は秘密で、ギルドの会長も知らない話なのですが……」
セバスは人払いをしたマックス商会の客間で言い出した。
「あなたが扱っていらっしゃる薬の数、多いと思いませんか?」
マックスはびくびくしながらうなずいた。
それは他の商人たちからよく指摘されていた。
さすがはワトソン商会の息子だ、どんな引きがあるんだろう、とか、きっとワトソン商会が多額のわいろを使っているに違ないとか、胃に穴が開きそうだった。
義兄は商売の一部をよこせと、会いさえすれば嫌味を言うし。
痩せ痩せから、リバウンドし始めてややふくよかになったマックスの話を、セバスは興味深く聞いた。
多分、ストレスがあるのだろう。
セバスは深くうなずいて同情した。
「どうしてあなたのところに、ギルド長が仕事を任せてくれるのか知っていますか?」
「いえ。実は心当たりは全然……」
確かにパーカー博士は優秀で、マラケスタ侯爵夫人に目をかけられていた。
そのパーカー博士とマックスは親しかったわけだが、縁と言えばそれくらいだ。
「ご縁というものは不思議なものです。思わぬところに転がっているのです」
マックスは澄んだ茶色の目を大きくして、セバスの顔を見つめた。
悪人の顔ではなかった。
「ぜひお越しください。この話の黒幕にご紹介しましょう。いや、ご紹介することはかなわないかもしれませんが、少なくとも納得していただけると思います」
セバスは王都にマックスが泊まる宿を用意していた。
「二週間後にお会いしましょう。私どもはあなたを守りたいのです。聞くところによれば、実家のワトソン商会とも関係はよくないとか」
マックスの表情が固くなった。
「ご家族の確執は時として、他人同士よりも深刻な場合があります。私たちは他人です。商売上の関係しかありません。あなたが儲ければ、私たちにも儲かる。私たちは商売仲間なのです」
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