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第四章 リンメル・ベス

72.血の繋がり ※

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 テオドルスと隣国の王女との結婚式は明後日に迫っていた。

 もうすでに王女はノルン帝国の宮殿に到着し、滞在している。若き二人の男女は、日中はバラ園でお茶をしたり、お互いの国について語り合ったりしているらしい。


「本当にストレスだ……君との時間が減っていて悪いね」
「……っあ、んぅ…ッ」

 テオドルスが私を突き上げる度に重たい手枷が音を立てた。

 この穏やかな皇子が、実は側妃を幽閉していて、夜な夜なその身体を甚振っていることを花嫁は知らない。隠し通すつもりなのだろうか。それとも、隠すつもりもないのか。

「見てくれ、ほら……俺は君の愛する男によく似てる」

 私の手を取って自分の顔へと近付ける。
 初めこそ似ていると思っていた顔立ちは、日を追うごとにかけ離れていった。ヴィンセントはこんな表情をしない。彼は私をここまで追い詰めたりはしない。

 テオドルスから向けられる感情は、狂気を孕んでいた。

「似てない…貴方は似ていないわ!」
「ジュディ、君がいけないんだ。君が駆け落ちまがいのことをするから、俺から逃げようとするから…」
「駆け落ちなんてしようとしていない!貴方の妄想よ!」
「嘘を吐くな……!」
「っああ…!いやっ、テオ、やめてっ……んあッ」

 後ろから身体を掻き抱き、勢いよく腰を打ち付けられれば、腹の奥が焼けるように熱くなった。

 ヴィンセントが訪ねてきた夜から、テオドルスの狂愛は激しさを増した。部屋の中でも鎖に繋がれて、廊下にはどこから連れて来たのか悪党まがいのガラの悪い男たちが監視役として配置された。

 もうほとんど、自由など無かった。

 私は自分が金持ちの家の犬猫になった気分で居ようとしたけれど、犬猫の方がよっぽどマシと思えた。だって犬猫は主人にこんな風に抱かれたりしない。気が遠くなるほど続く乱暴な行為は、愛と呼ぶには暴力的だった。

「っく…ジュディ!出そうだ、お前もイけ、ほら……!」
「いやっ、ああ、激しい…ッ……あ、ああぁっ」

 一際深くを抉った肉塊は、ドクッと大きく脈打って熱い熱を吐き出した。テオドルスは彼が予告した通りに私への配慮をやめて、遠慮なく膣内へ射精するようになった。

 私は、彼には内緒で避妊薬を飲んでいる。
 家から持って来た荷物に紛れていたそれは、娼館で働いていた時に飲んでいたものだった。しかし、当たり前だけど数は限られている。この薬がなくなってしまえば、私はどうしたら良いのか。

 彼の子を身籠れば、もう此処から出ることは出来ない。
 生まれる子供は愛人の子として日陰の人生を歩む。


「ああ…ジュディ、楽しみだ」

 恍惚とした表情でテオドルスは私の腹に手を置く。
 さわさわと撫でる大きな手に恐怖を覚えた。

「君にとっても良いことだろう?俺たちの子供は、君の愛するヴィンセント・アーガイルと血の繋がりを持つ。君は俺を介して、ヴィンセントと繋がるんだ」

 否定も肯定も出来なかった。

 自分が注ぎ入れた種が無事に芽吹くことを祈るようにテオドルスは私の腹に口付けを落とす。その小さなキスがだんだんと上へ上がって来て、私の肩が再びシーツに沈んだ時、私はこれからまた始まる地獄を思って涙を流した。


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