推しが死んでショック死したけど、目を覚ましたら推しが生きてる世界に転生したんだが?~せっかくなので、このまま推しの死亡フラグをへし折ります~

八雲太一

文字の大きさ
29 / 32

29話 絡みゆく魔花の香、煌めく希望の装身具

しおりを挟む

「なんでって……バドさんを追いかけてきたんだから、俺がダンジョンにいるのは当然だろ? それよりも、セイマネこそなんでこに……」
「私だって、ノーブルくんを追いかけてきたんですよ! 言うことを聞いてくれないから、こうして直接連れ戻すしかないでしょ!?」

 ノルくんの言葉に、セイマネが感情を爆発させて言葉を述べる。
 普段の落ち着いた様子からは一転、怒りが露わになってた。
 私たちが街を出たときもそうだけど、この重大な場面でうまくいかないことが本当に気に入らないんだ。
 
 だからこそ、だよね。
 でも、セイマネの思い通りにさせるわけにはいかない。
 この子を止めらない運命、それこそ私にとって──いや、ノルくんにとって最悪な未来だから。

「あなたは私だけを見ていればいい。なのに、あの子についていくし、こんな悪そうな人のことを必死に庇うし……。本当にどうしちゃったの!?」
「俺はどうもしてない! 夢を、俺の存在を証明したくて、冒険者をやってるんだ!」

 ノルくんが自分の夢を語って、やるべきことを伝えた。
 今、こうして冒険者をやってる本質。
 それで少しでも彼女の考えが変わってくれたら。
 推しの、ノルくんが紡いだ言葉なら響くはず。

「そうですか」

 そう、思ったんだけど。
 どこまでも凍てついた、寒気すら感じる声音。セイマネの表情は、一瞬にして色をなくした。
 さっきまであんなに怒っていただけに、その不気味さが強調されてるのかもしれない。

「そんなの知りません。もう、私が知っているあの頃のノーブルくんじゃないんですね……」
「あの、頃……? 俺たち、この前初めて会ったばかりだろ?」

 まるで、ずっと昔からノルくんのことを知ってるみたいな口ぶり。
 でも、ノルくんの様子を見るにそんなことないんだろうね……。

「そう、お話したのはこの前が初めて。ですが、私はずっとずっと前からあなたのことを知っていました。ノーブルくんを初めて見たときから、私ずっと応援してたんですよ? それなのに、あなたは他の人についていってどんどん知らないあなたになっていく……。そんな姿、私はもう耐えられない」

 それはいつからなのか。
 きっとセイマネの中には彼女の世界が広がって、その中心にノルくんがいる。
 絶対的な存在として、長い間在り続けてるんだ。

 その過程でどんどん神格化して、確かなイメージが沁みついてた結果が今。
 彼女の中で確かな理想ができあがってるから、少しのズレが大きな歪みに繋がる。
 それは、セイマネにとって絶対に許されないこと。

「だから、綺麗な思い出のまま、ここで全部終わりにするんです」

 確かに言った。
 終わりにする、と。その言葉に乗せられた確かな重みが、嫌ってほど伝わってきた。
 なにがなんでも、思いを遂げるつもりだ。

 ノルくんに対して、特別な感情を向けるオタクをしてきたからかな。
 セイマネがどれだけ本気なのか、わかっちゃった。

 確かに伝わる、肌を刺すような刺激、恐怖。

 それと同時。
 一層、花の香りが強くなった気がした。
 でもそれは気のせいでもなんでもなく、本当のことだったんだ。
 空気が揺れ、地面が震える。空間全体にまで影響するほど、密度が高まった魔力。
 セイマネのソレは、ヒイロちゃんにも匹敵するほどだった。
 
 そして、宙を漂うのは蔓を思わせる糸の束。
 それはまだ自由を奪われてないサグズ・オブ・エデンのメンバーのところへと伸びて、自由を奪う。
 それだけじゃなくて──

「う、あああ……」

 ──周りのみんな、体を操られ始めた。
 なにがなんだかわからず、お互いに殴り合いを始めた。
 セイマネが直接手を出さなくても、どんどん傷ついて、それすらも気づかないで攻撃を続けるみんな。
 倒れて、無視できないダメージを負った人だっている。
 それでも、止まらない。いや、止まれないって言った方がいいのかな。

「おい、お前ら!! バカなことしてねえで、さっさと目ェ覚ませ!!」

 喉が張り裂けんばかりに、バドさんが叫ぶ。
 だけど、その言葉は誰の耳にも届いてなかった。
 代わりに、セイマネがゆっくりとバドさんに近づいてく。

 絶対に止めないと……!
 でも、理性を失ったサグズ・オブ・エデンのみんなが、道を遮ってうまく前に進めない。
 ランペイジフレイムを使うわけにもいかないし、どうしたらいいの……!?

「こんないかにも悪そうな人たち、いなくなればいいんです。大好きな大好きな家族、とやらの手で逝けるんですから幸せでしょ?」
「ンなわけあるか阿呆が! 家族同士で命の奪い合いすることのどこが幸せだっつーんだ!!」

 体の自由を奪われながらも、バドさんが反論する。
 最もな意見だけど、セイマネは満足がいっていない様子。
 やっぱり、目を細め汚いものでも見るような目でバドさんを見据える。

「言いましたよね、思い出は綺麗なまま終わらせるって。ノーブルくんにもここで散ってもらいます。優しくてかっこよくて、本当に憧れでした。だから、そのまま私の中で永遠に生き続けてください」

 言葉と一緒に、セイマネが指を伸ばす。
 無抵抗なノルくんへ向けて、サグズ・オブ・エデンのみんながじわりと距離を詰めていく。
 虚ろな目で、生気が感じられない顔で。

 これじゃ、アニメの展開と一緒だ……!
 なにも抵抗ができないのは、セイマネに操られていたからだったんだ……!
 アニメではなにが原因でノルくんが死んじゃったのかわからなかったけど、今ならわかる!
 私が絶対に止めてみせる!!

「……ッ!」

 やっぱり、そうだよね。
 目に見えない香りが私の方にも迫ってきたのがわかった。
 蔓のように強度を増した、糸のようなものが伸びている。
 みんなを操る糸が、私の方にも伸びてきた。
 もともと、たくさんの人に囲まれて自由がきかないのに、操られでもしたらそれこそおしまい。

 ──ここまでなの……?

「え……?」

 ──糸が弾かれた。
 ノルくんがくれた、不死のアンクのおかげで。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...