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29話 絡みゆく魔花の香、煌めく希望の装身具

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「なんでって……バドさんを追いかけてきたんだから、俺がダンジョンにいるのは当然だろ? それよりも、セイマネこそなんでこに……」
「私だって、ノーブルくんを追いかけてきたんですよ! 言うことを聞いてくれないから、こうして直接連れ戻すしかないでしょ!?」

 ノルくんの言葉に、セイマネが感情を爆発させて言葉を述べる。
 普段の落ち着いた様子からは一転、怒りが露わになってた。
 私たちが街を出たときもそうだけど、この重大な場面でうまくいかないことが本当に気に入らないんだ。
 
 だからこそ、だよね。
 でも、セイマネの思い通りにさせるわけにはいかない。
 この子を止めらない運命、それこそ私にとって──いや、ノルくんにとって最悪な未来だから。

「あなたは私だけを見ていればいい。なのに、あの子についていくし、こんな悪そうな人のことを必死に庇うし……。本当にどうしちゃったの!?」
「俺はどうもしてない! 夢を、俺の存在を証明したくて、冒険者をやってるんだ!」

 ノルくんが自分の夢を語って、やるべきことを伝えた。
 今、こうして冒険者をやってる本質。
 それで少しでも彼女の考えが変わってくれたら。
 推しの、ノルくんが紡いだ言葉なら響くはず。

「そうですか」

 そう、思ったんだけど。
 どこまでも凍てついた、寒気すら感じる声音。セイマネの表情は、一瞬にして色をなくした。
 さっきまであんなに怒っていただけに、その不気味さが強調されてるのかもしれない。

「そんなの知りません。もう、私が知っているあの頃のノーブルくんじゃないんですね……」
「あの、頃……? 俺たち、この前初めて会ったばかりだろ?」

 まるで、ずっと昔からノルくんのことを知ってるみたいな口ぶり。
 でも、ノルくんの様子を見るにそんなことないんだろうね……。

「そう、お話したのはこの前が初めて。ですが、私はずっとずっと前からあなたのことを知っていました。ノーブルくんを初めて見たときから、私ずっと応援してたんですよ? それなのに、あなたは他の人についていってどんどん知らないあなたになっていく……。そんな姿、私はもう耐えられない」

 それはいつからなのか。
 きっとセイマネの中には彼女の世界が広がって、その中心にノルくんがいる。
 絶対的な存在として、長い間在り続けてるんだ。

 その過程でどんどん神格化して、確かなイメージが沁みついてた結果が今。
 彼女の中で確かな理想ができあがってるから、少しのズレが大きな歪みに繋がる。
 それは、セイマネにとって絶対に許されないこと。

「だから、綺麗な思い出のまま、ここで全部終わりにするんです」

 確かに言った。
 終わりにする、と。その言葉に乗せられた確かな重みが、嫌ってほど伝わってきた。
 なにがなんでも、思いを遂げるつもりだ。

 ノルくんに対して、特別な感情を向けるオタクをしてきたからかな。
 セイマネがどれだけ本気なのか、わかっちゃった。

 確かに伝わる、肌を刺すような刺激、恐怖。

 それと同時。
 一層、花の香りが強くなった気がした。
 でもそれは気のせいでもなんでもなく、本当のことだったんだ。
 空気が揺れ、地面が震える。空間全体にまで影響するほど、密度が高まった魔力。
 セイマネのソレは、ヒイロちゃんにも匹敵するほどだった。
 
 そして、宙を漂うのは蔓を思わせる糸の束。
 それはまだ自由を奪われてないサグズ・オブ・エデンのメンバーのところへと伸びて、自由を奪う。
 それだけじゃなくて──

「う、あああ……」

 ──周りのみんな、体を操られ始めた。
 なにがなんだかわからず、お互いに殴り合いを始めた。
 セイマネが直接手を出さなくても、どんどん傷ついて、それすらも気づかないで攻撃を続けるみんな。
 倒れて、無視できないダメージを負った人だっている。
 それでも、止まらない。いや、止まれないって言った方がいいのかな。

「おい、お前ら!! バカなことしてねえで、さっさと目ェ覚ませ!!」

 喉が張り裂けんばかりに、バドさんが叫ぶ。
 だけど、その言葉は誰の耳にも届いてなかった。
 代わりに、セイマネがゆっくりとバドさんに近づいてく。

 絶対に止めないと……!
 でも、理性を失ったサグズ・オブ・エデンのみんなが、道を遮ってうまく前に進めない。
 ランペイジフレイムを使うわけにもいかないし、どうしたらいいの……!?

「こんないかにも悪そうな人たち、いなくなればいいんです。大好きな大好きな家族、とやらの手で逝けるんですから幸せでしょ?」
「ンなわけあるか阿呆が! 家族同士で命の奪い合いすることのどこが幸せだっつーんだ!!」

 体の自由を奪われながらも、バドさんが反論する。
 最もな意見だけど、セイマネは満足がいっていない様子。
 やっぱり、目を細め汚いものでも見るような目でバドさんを見据える。

「言いましたよね、思い出は綺麗なまま終わらせるって。ノーブルくんにもここで散ってもらいます。優しくてかっこよくて、本当に憧れでした。だから、そのまま私の中で永遠に生き続けてください」

 言葉と一緒に、セイマネが指を伸ばす。
 無抵抗なノルくんへ向けて、サグズ・オブ・エデンのみんながじわりと距離を詰めていく。
 虚ろな目で、生気が感じられない顔で。

 これじゃ、アニメの展開と一緒だ……!
 なにも抵抗ができないのは、セイマネに操られていたからだったんだ……!
 アニメではなにが原因でノルくんが死んじゃったのかわからなかったけど、今ならわかる!
 私が絶対に止めてみせる!!

「……ッ!」

 やっぱり、そうだよね。
 目に見えない香りが私の方にも迫ってきたのがわかった。
 蔓のように強度を増した、糸のようなものが伸びている。
 みんなを操る糸が、私の方にも伸びてきた。
 もともと、たくさんの人に囲まれて自由がきかないのに、操られでもしたらそれこそおしまい。

 ──ここまでなの……?

「え……?」

 ──糸が弾かれた。
 ノルくんがくれた、不死のアンクのおかげで。
 
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