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31話 終わりを告げるシュークリーム

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 全部終わって、セイマネは全員に心からの謝罪を送ってくれた。
 ただ、彼女もノルくんのことを応援するひとり。
 オタクの仲間として、やっぱり彼女考え方を否定するのは違うと思うんだ。

 だから、お互いの気持ちが辛くない範囲で決着をつけたかった。
 私の魔法で気持ちが少し落ち着いたみたいで、セイマネとちゃんと話し合いができた。
 今までの考え方をすぐに変えるのは難しいから、少しずつ、ゆっくり。

 それで、おじさんね。
 ラクシャサには変身能力があって、私たちが最初に会ったあの姿は擬態だったみたい。
 あのあと、ダンジョンの最奥で拘束されたおじさんがいたんだよ。
 軽いパニック状態になってたけど、特にケガもなく無事だった。
 街まで送り届けると、サグズ・オブ・エデンのみんなに泣きながらお礼を言ってた。
 
 一番びっくりしたのは、バドさんたちがこの街を出て行くのを、ふたりが率先して止めたことかな。
 今回の一件で考え直してくれたみたい。
 急に手のひらを返したように見えるかもしれないけど、私は進歩だと思う。

 あの戦いが終わってから、確かにこの世界で変化が起こったんだよ。
 おじさんたちが街のみんなに呼びかけ、セイマネがファンの子たちに呼びかけ。
 サグズ・オブ・エデンのイメージ回復のために動き始めたんだ。
 
 時間はどれだけかかるかわからないけど、きっといい方向に歩けてると思う。

「──ここ、ふたりは来たことあるんだよなー。俺は初めてなんだけどなー」

 わざとらしく、ノルくんが口を尖らせて言う。
 確かに、グラさんと来たことあるけどさ……。
 しかも、そのことバラしちゃったの私だけどさ……。

 助けを求めてグラさんの方へ視線を送るけど……。
 ダメだ。シュークリームに夢中で、私のことなんか眼中にないや。

 というわけで、あれから数日。
 私たちは、例のシュークリーム屋さんに足を運んでいた。
 いつか来ようと思ってたけど、やっとオフの日に大行列に並んでここまでありつけた。
 この前、私とグラさんがふたりで来たことに対して拗ねたノルくんを連れてくるのは、本当に大変だった。

「ま、いいや。俺はみんなで食べることに意味があると思う。三人でこの店に来るのは初めてだもんな。だから、今日が初シュークリームの日だ」

 ──俺はリーダーだから、腹いっぱいになるまで食べるぞ、と。
 私の方へ向けてくれた笑顔が本当に眩しかった。
 ちゃっかり、私たちがふたりでシュークリームを食べたことを根に持ってるみたいだけど、そこがまたかわいい。

 機嫌を治して、ノルくんが幸せそうにシュークリームを頬張る。
 ノルくんらしいポジティブシンキングで、今日も和やかな時間が流れる。

「あーもう。リーダーを気取るなら、口の周りについたクリームぐらいなんとかしてくださいよ。ハッキリ言って、みっともないです」
「そんな言い方ないだろ、ウマいもんを好きなように食べてなにが悪いんだ」
「食べること自体は問題ないんですが、食べ方の話をしているんです。あなたがそんなだと、同じパーティーに所属している私までだらしない、と思われたらどうするんです」
「思われないだろ。みんな仲良くていいパーティーだなって思うはずだ」
「さあ、どうだか。そう思っているのはあなただけかもしれませんよ? ね、コヤケさん」
「違うよな、コヤケさん!」

 ノルくんは真剣な顔で、グラさんは余裕たっぷりで聞いてきた。
 正直、私はこんなに微笑ましい日常を見せてくれるんなら、どっちでもいいよ……。
 ほんと、平和すぎて泣けてくる。この時間が、一生続いたらいいのにな。

「……あっ」

 刹那。
 頭にモヤがかかって、意識が遠のいていく。
 視界も霞んで、ノルくんとグラさんの顔がいいことしかわからない。
 これ、私があっちで死んじゃったときと同じ感覚だ……。

 ……ああ、そっか。これで、本当に私の役目は終わったんだ。
 それってつまり、ノルくんの死亡フラグをへし折れたってことでいいんだよね?

 もうあなたのそばにはいられないけど、画面の向こうでちゃんと応援してるからね。
 またあなたの元気な姿を見られるだけで、私はじゅうぶん。

「コヤケさん! コヤケさ──」

 ノルくんの声が聞こえるけど、遠くになっていく。
 推しと一緒に冒険して、推しに名前を呼んでもらえて。
 こんな満足できることある?

 ありがとう。あなたのことを推せて本当によかった。

 ひとつ心残りがあるとするなら、本当のことをふたりに話せなかったことかな。
 あんなにお世話になったのに、隠しごとをしたままになっちゃって。

 でも、私の存在を忘れてくれた方がみんなを混乱させずに済むからその方がいいのかな。
 でも、一緒に冒険したことを無駄にはしたくない。
 でも……でも……。

 ──あ。

 なんてことを考えているうち。
 完全に意識が途切れ、私の中でなにかが切れた気がした。
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