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日曜日の飲み会 1

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 翌日はゆっくり起きて、そのままベッドでイチャイチャした。
 俺が、してもいいよ? と言ったら「それは夜な?」と言われて、それだけでドキドキが止まらなくなった。
 午後に家を出て、ずっと約束していたパンケーキを食べに行った。
 なかなか選べない俺に、冬磨が「また来ればいいじゃん。な?」と笑った。そして「悩んでんのどれ? どっちも頼んで半分食べたら交換しようぜ」と優しく微笑んだ。
 どうしよう。すごいすごい恋人っぽいっ。
 
「冬磨」
「ん?」
「大好きっ」
「……かわい」
 
 冬磨が破顔した途端、周りの女の子たちがはっきりと騒ぎだした。
 男同士で来てる人なんて俺たちしかいなかったけど、そういう意味で目立つんじゃなく冬磨が一人で注目を浴びていた。
 きゃあきゃあ騒ぐ女の子たちに気分が沈んでいく。
 そんな俺に気づいた冬磨が、テーブルの上で堂々と恋人繋ぎをして周りに見せつけた。
 一瞬シンとなって、ざわざわしだして、そしてまたきゃあきゃあ言いだした。やっぱり冬磨はゲイとか関係なく女の子にモテるんだな……。
 また気分が沈みそうになったけど、笑顔で顔を上げた。冬磨に心配かけるからもう気にしない。冬磨がどれだけモテたって今は俺の彼氏だもん。

 パンケーキのあとは映画を観て、少しブラブラしたあと見慣れた場所に連れてこられた。
 この先にあるのは……。

「と、冬磨?」
「んー?」
「今日は……バー休みだよ?」

 日曜日はバーは休みだ。なのになんで……。このまま行ったらバーだよね?

「俺さ、たまにマスターと日曜日にバーで二人で飲むんだ」

 えっ、そうだったんだ。客としてだけの付き合いじゃなかったんだ。
 全然知らなかったから本当に驚いた。

「今日は三人で飲もうってことになってさ。お前と付き合ってからはずっと会ってなかったから、すげぇ久しぶり」
「えっ、本当? やったっ。マスターに会えるっ」

 答えてから、はたとなった。

「……えっと、俺のことは……知ってるの?」
「付き合ってることは話してあるよ」
「……そっか。じゃあ……えっと、このままの俺でも……びっくりしないんだよね?」

 ビッチ天音じゃなくてもびっくりしないんだよね? 
 そのことも知ってるんだよね?
 恐る恐る冬磨を見上げると、ニヤッと笑って恐ろしいことを言った。
 
「びっくりさせたくて行くんだよ」
「う……嘘でしょ……?」

 冬磨が楽しそうに笑って鼻歌を歌い出す。
 嘘でしょ嘘でしょっ。どうしようっ。マスターの前でどう振舞ったらいいの? 最初は? このまま? ビッチ天音?
 わからなくてオロオロした。

「ど、どうしよう、ねぇ冬磨、どうしたらいい? 最初からこのままでいい? それともビッチ天音で行ったほうがいい?」
「好きなほうでいいよ。どっちでも面白いから」

 ふはっと楽しそうに笑って俺の頭をクシャッと撫でた。 

「と、冬磨ひどいよっ。俺困ってるのにっ」
「ごめんごめん。可愛くて。ほんと、どっちでもいいよ。天音の好きなほうで」

 ひどいよ冬磨っ。そんな丸投げっ。
 答えが出ないままバーに着いちゃった。
 どうしようどうしようっ。
 ビッチ天音で初めて冬磨に会った日に、すでにマスターには見破られてた。せっかく人違いで通したのに、それもバレちゃうんだ……っ。どうしよう……恥ずかしすぎる……っ。

「天音? 顔色悪いぞ? マスターに知られるの、そんなに嫌だった?」

 ビルの入口で、冬磨が心配そうに俺の顔を覗き込む。

「い……嫌とかじゃなくて……。は……恥ずかしすぎて……っ」
「なんで? すげぇびっくりするとは思うけど、なんも恥ずかしくねぇって」

 うん。あの日に見破られてなければ、ここまで恥ずかしくなかったかもしれない。
 それに、ずっと騙してたってことだから……申し訳ないな……。

「んじゃ、行くぞ? 大丈夫か?」
「……ん、大丈夫」

 冬磨がふわっと優しく笑いかけてくれて、緊張が少しやわらいだ。
 冬磨が、繋いでる手をぎゅっと握り直してビルの中に進んで行く。
 考えたって仕方ない。今さらビッチ天音の演技をするのは素の自分でいるよりも恥ずかしいし、だったらもう覚悟しよう。マスターには会いたいもん。
 久しぶりにマスターに会える。すごく嬉しい。恥ずかしいけど……。

「マスター? いる?」

 冬磨がバーのドアを開くとカランとベル音が響く。

「おお、いらっしゃい。久しぶりだな」
「ほんと、久しぶり」

 わ……久しぶりのマスターだ。元気そう。よかった。

「天音も久しぶりだな? 元気だったか? おー、手なんか繋いじゃってまあまあ」

 マスターは繋いだ手をチラッと見てから俺たちの顔をニヤニヤと眺めた。

「あ……えっと……ぉ久しぶり……デス……」

 ビッチ天音じゃないとどうしても敬語になってしまう。もう最後の方は消え入りそうな声になった。

「ん? どした天音。なんか元気ない? ……とは違うか……?」

 なにか変だと気づいたマスターが首をかしげて俺を見る。
 冬磨がクスクス笑って「天音は元気だよ」とそれだけ伝え、俺の手を引いてボックス席に座った。
 ここに座るのは初めてだ。いつもカウンターだったから新鮮で、キョロキョロと周りを見る俺にマスターが笑った。

「なんかすごい雰囲気変わったな? 冬磨、お前どんな魔法使ったんだ?」
「そんなの愛に決まってんだろ?」

 繋いだ手にチュッとキスをしてそんなことを言う冬磨に、俺は一気に顔が熱くなった。マスターの前なのに……っ。二人きりじゃないのに……っ。

「ぐぁ……っ、誰だよ、お前っ。本当に冬磨かっ?」

 冬磨に驚くマスターが俺を見て目を見開いた。

「え、天音? え、本当に天音か? 顔真っ赤じゃん。え……冬磨も天音も別人……どうなってんだよ」

 俺だけじゃなくて冬磨も……。あ、俺のためにわざと大袈裟にしてくれたのかな。
 そう思って問いかけるように冬磨を見ると「ん? どした?」といつも通り優しく微笑む。
 あれ、いつも通りだった。やっぱりわざとじゃないのかも。
 ……そっか。いつも通りの冬磨も、マスターから見ると別人なんだ。
 
「マスター、これ二人分」
「お、まいど」

 テーブルに料理を並べ終わったマスターに、冬磨が財布からお金を支払った。
 えっ、ダメだよ。さっきパンケーキ代も払ってもらったのに、ここの分もなんてダメだ。

「冬磨、俺が払うっ」
「今日は宅飲み程度だから気にすんな」
「でもっ」
「お前の稼ぎは全部貯金。生活費も支払いも全部俺。何度言ったら分かるんだよ、早く慣れろ」

 と頭をくしゃっと撫でられた。
 そうだった。一緒に住むようになってすぐに冬磨がそう決めた。俺の給料はおこづかい程度に財布に入れて、後は貯金しとけって言われたんだった。
 だから、ほとんど使っていなかった口座を二人用の預金口座にした。
 でも、まだ給料日も来てなくて、そんなことすっかり頭になかった。

「わ、忘れてた……」
「忘れんなよ」

 ふはっと笑う冬磨に胸がぎゅっとなる。冬磨かっこいい……。

「おい、ちょっと待て。何いまの会話。お前らもしかして一緒に住んでんの?」

 取り分け用のサーバーやトング、箸を手に戻ってきたマスターが驚愕の顔で俺たちを見て目を見開いた。そんなマスターに冬磨は平然と「うん住んでる」と答える。

「は……マジでどうなってんの? 急展開すぎるだろ」
「そう?」

 とまた平然と冬磨が答えたけれど、ですよね、急展開すぎですよね、と脳内で同意した。

 
 
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