今日もお嬢様はままならない

minmi

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第2章

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 コンコンと扉を叩けば返事がないことに心配になり、まさかまた倒れていらっしゃるかもしれないと慌てて声をかけ部屋に入る。

 「お嬢様っ!大丈ーーー良かった」

 窓際でちょこんと椅子に座りスヤスヤと眠りについている少女の姿にホッと息をつく。
 気持ち良さそうに眠るその表情は、あの日見た辛そうなものではなく幸せそうだった。

 「風邪を召されますよ」

 開いた窓から入る風邪は夏場には涼しいものだが、それも長く続けば風邪を引いてしまう。
 声をかけてみるが反応はなく、これはかなり疲れてしまっているのだろうと起こさないよう抱き上げるとそっとベッドに運ぶ。

 「何も出来ず申し訳ありません」

 ここ最近食欲が落ちた彼女の体は小枝のように細く儚気だ。
 元々軽くはあったが、更に軽く感じるその腕の重みに情けなくなる。
 自惚れだがここまで彼女が頑張るのはきっと自分のためだろう。
 あの日、第3王子との婚約話しを主人に聞き困惑したが、その方法ならば叶うかもしれないという可能性にセバスも賭けたのだ。
 自分も彼女を愛してしまった。
 申し訳ございませんと頭を下げる自分にならば絶対に幸せにしろと言われたことを今も忘れてはいない。
 そんな主人との約束も、セバスの気持ちも知らぬまま頑張る彼女の姿に愛しさが募るばかりだ。

 「もっと甘えて下されば宜しいのに」

 あれほど好きだ愛していると後ろをついて回ってくるのに、いざ目の前に立てば恥ずかしさに俯き頬を赤く染める。
 最近は勇気を出してか緊張に震えながらも出してくる両手が本当に愛おしい。
 そのまま抱きしめ愛を伝えたくなるが、それは立場も彼女の意思も無視するもので出来ない。
 伝えたところで問題はなさそうでもあるが、それで自分からも家族からも距離を置かれては困る。

 「今だけ、今だけですから」

 そう言い訳しながらも腕の中の少女を抱きしめれば、その温もりと愛しさに手が離せなくなる。
 自分がこうも欲深いとは思ってもみなかった。
 生涯結婚もせず仕事に、主人に、仕えて終わるだけだと思っていたはずが、ここまで歳の離れた少女を愛しく思うことになるとは。

 「……うん、?……セバス?」

 起こしてしまったかと慌てて離れようとするが、ギュッと胸元を掴まれ引き寄せられる。

 「お嬢様?」

 「ふふ、いい夢」

 どうやら寝ぼけているだけのようだと息をつくと、自分からもそっと頭を撫でてやる。
 気持ち良さそうに擦り寄ってくる姿は猫のようでとても愛らしく、しかし触れる体の柔らかさと成長した胸の膨らみに少々慌てた。
 時が経つにつれ成長する少女はこの2年でかなり女性らしくなってきた。
 テティからは「女の子はあっという間に成長しちゃいますからね」と言われてはいたが納得である。
 未だ少し幼さが残りながらも大人っぽくなった顔つき、柔らかく膨らみつつある体はもう大人だろう。
 この歳にもなって女性を手にするとな思っていなかったが、この美しい少女……いや女性を自分のだけのものにしたいと思ってしまう。

 「愛しております」

 ハッと気付いた時には遅くそう声に出してしまったが、まだ夢の世界にいるだろう彼女は嬉しそうに微笑むとーー

 「私も。私もセバスがだーい好き。待っててね。あとちょっと、あとちょっ…と、だ….から……そし、たら……」

 「…………」

 再び夢の中に旅立った彼女をベッドに横たえると自分もベッド端に力尽きたように腰を下ろし頭を抱える。

 「これ以上こんな老いぼれを夢中にさせてどうするつもりですか…」

 寝ぼけ眼の可愛いらしい言葉だがその表情はもう一人の女性であり、その美しさに見惚れてしまった。
 これほど美しい女性に全身で愛を囁かれ惚れない方がおかしいだろう。

 「ここまで私を夢中にさせたんですから責任はしっかりととってもらわなければ」

 歳だ立場だと気にしていた自分が恥ずかしい。
 ここまで言われて漸く彼女の言葉が信じられた。
 正しくは信じていなかったわけではない。
 信じて突き進むための覚悟、絶対に手離さないという決心が漸くついた。
 彼女がこれからどうなろうと受け止め、絶対に手を離しはしない。

 「覚悟して下さいね」

  気持ち良さそうに寝息を立てる彼女の額にそっと口付けを落とすと、お茶の準備をしているだろうとテティを呼びにいくのだった。
 


 「(旦那様大丈夫かしら?)」

 セバスに囲われるお嬢様を想像し、寂しさに涙を流す旦那様の姿が思い浮かぶテティであった。
 
 「(セバスさんすごい嫉妬深そうだしなぁ)」

 
  

 
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