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第4章
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「貴方が娘ならどんなに良かったことか」
「………ありがとうございます」
今日も今日とて王妃様にお茶に誘われたのだが、ここ最近回数が増えているのは気のせいではないだろう。
それがアメリアが卒業を控えているからだとは分かっているのだが、間もなく王子との婚約がなくなるだろう自分がこう何度も訪れるのは周りにどう思われているのか気が気ではない。
「あの子のことはもう諦めました。貴方があれだけ頑張ってくれたにもかかわらずあれではもう無理だったということでしょう」
あのアホさえ現れなければもうちょっとマシになっていたと思うが、それも叶わずバカに戻ってしまったのは運命としか言いようがない。
「あの人の後を継ぐのはシリウスです。レオンもいますから心配はないでしょう」
完全に見放されたようだ。
まぁ見放されただけならまだいいと思う。
「ねぇ知っているかしら?今はあれほど真面目なシリウスだけど昔は本当はヤンチャだったのよ」
「そうなんですか?」
見た目は冷たく、だが最近は本当は優しい人なのでは思い始めていたため驚く。
「そうなのよ。木登りも護衛相手に勝負しに行ったりして。毎日のように泥塗れになって帰ってきてたわ」
今のシリウス殿下の姿と結び付かず想像がつかない。
幼い頃から優秀で部屋で勉強に明け暮れていたと言われた方が信じられただろう。
「けどある日を境にパッタリとやめたわ。不思議に思って聞いてみたら「あの子に恥じない人間になりたい」と言ったの」
「流石シリウス王太子殿下ですね。陛下もさぞ喜んだことでしょう」
兄としての自覚が芽生えたのか、はたまたいつまでもこうしてはいられないと思ったのかは分からないが立派だと思う。
あのバカも見習って欲しいものだ。
「ふふ、そうね。私たちもそれはそれは褒めたものよ。けど話しをよく聞いてみたらその日に会ったご令嬢にーー」
「お話し中失礼します」
噂をすれば何とやら。
今の今まで話題の中にあった人物の登場に何をしたわけでもないが慌てて居住まいを正した。
何も悪いこと言ってなかったよねと自分の発言を思い返しつつ挨拶する。
「話し中すまなかった。丁度貴方と愚弟のことを報告しようと思って来たんだ」
「………先日のことでしょうか?」
「貴方は黙っていて欲しいと言っていたが、あれは私の弟である前に王族でもあるんだ。その立場にいるからにはそれに見合った発言行動をしなければならない」
あまり期待はしていなかったがやはりダメだったらしい。
「どういうことかしら?」
王妃様に聞かれたならば答えぬわけにもいかない。
「………先日教師の方に言われたのです。これ以上庇いだては出来ないと」
その教師はアメリアに言ってきたが、その内容はアメリアではなく婚約者であるバカ王子のことだった。
日々バカになりつつあるバカだがこれ以上成績が落ちるとフォローしようがないと嘆く教師に申し訳なくなった。
何とかしようとアメリアも当人と話しをしたのだが……
「何とかしろ。それぐらい出来なくて何が婚約者だ。何のためにお前なんかと婚約してやっていると思ってる」
「…………」
へぇー。なんか、ね?
「私は忙しいんだ。そんなことを報告する暇があるならさっさと対処したらどうなんだ」
対処しようとしてお前の意味不明な言い訳を今聞いているのだが。
「お前は本当に使えないな。その上可愛げもないなんて女として恥ずかしくはないのか?この私がやれと言っているのだからさっさとーー」
「さっさと何だ?」
「っ!あ、兄上!」
ほーら、バカがバカなことばっかりほざいているからバチが当たったのよ。
いい気味だと心の中で爆笑しながらも、突如現れたシリウス王子に微笑み挨拶をする。
「私の記憶が確かならお前は今自室にいて勉学に励んでいたはずだが?それに加え婚約者であるアメリア侯爵令嬢にかなりの暴言を吐いていたがお前は一体いつからそれほどまで偉くなった?王にでもなった気か?ならば私から陛下に掛け合おう。アーキルが貴方の王位を狙っていると」
「そっ、そんなこと私は一言もーー」
「言ってないと?ボーフォート侯爵家に私たち王族がどれほど世話になっていると思っている?娘である彼女には関係ないと?本来なら既に退学処分にすらなっているだろうお前のために彼女が教師たちに頼み込んでくれたおかげで今も通えているというのに」
「で、ですがそれは婚約者として当たり前のことーー」
「だと本気で思っているならもうすでにお前は王族以前に人としても最低に成り果てている。これ以上の愚行は兄としても偲びないから私が陛下に掛け合い処分が決まるまでお前は部屋で待機していろ」
すごい!カッコいいわシリウス王子!
冷静沈着、次期国王としての威厳もあり少々恐れられているシリウス王子だがバカに振り回されているアメリアにとって彼はいつも救いの手を差し伸べてくれる神のような人だった。
自分が言えないことも代弁してくれているかのようでもう感謝しかない。
「え?で、ですが私はこれからサマンサと街にーー」
救いようのないバカである。
いっそう冷たく目を細めるシリウス王子に、ああコイツ死んだなと心の中で思うのだった。
「………ありがとうございます」
今日も今日とて王妃様にお茶に誘われたのだが、ここ最近回数が増えているのは気のせいではないだろう。
それがアメリアが卒業を控えているからだとは分かっているのだが、間もなく王子との婚約がなくなるだろう自分がこう何度も訪れるのは周りにどう思われているのか気が気ではない。
「あの子のことはもう諦めました。貴方があれだけ頑張ってくれたにもかかわらずあれではもう無理だったということでしょう」
あのアホさえ現れなければもうちょっとマシになっていたと思うが、それも叶わずバカに戻ってしまったのは運命としか言いようがない。
「あの人の後を継ぐのはシリウスです。レオンもいますから心配はないでしょう」
完全に見放されたようだ。
まぁ見放されただけならまだいいと思う。
「ねぇ知っているかしら?今はあれほど真面目なシリウスだけど昔は本当はヤンチャだったのよ」
「そうなんですか?」
見た目は冷たく、だが最近は本当は優しい人なのでは思い始めていたため驚く。
「そうなのよ。木登りも護衛相手に勝負しに行ったりして。毎日のように泥塗れになって帰ってきてたわ」
今のシリウス殿下の姿と結び付かず想像がつかない。
幼い頃から優秀で部屋で勉強に明け暮れていたと言われた方が信じられただろう。
「けどある日を境にパッタリとやめたわ。不思議に思って聞いてみたら「あの子に恥じない人間になりたい」と言ったの」
「流石シリウス王太子殿下ですね。陛下もさぞ喜んだことでしょう」
兄としての自覚が芽生えたのか、はたまたいつまでもこうしてはいられないと思ったのかは分からないが立派だと思う。
あのバカも見習って欲しいものだ。
「ふふ、そうね。私たちもそれはそれは褒めたものよ。けど話しをよく聞いてみたらその日に会ったご令嬢にーー」
「お話し中失礼します」
噂をすれば何とやら。
今の今まで話題の中にあった人物の登場に何をしたわけでもないが慌てて居住まいを正した。
何も悪いこと言ってなかったよねと自分の発言を思い返しつつ挨拶する。
「話し中すまなかった。丁度貴方と愚弟のことを報告しようと思って来たんだ」
「………先日のことでしょうか?」
「貴方は黙っていて欲しいと言っていたが、あれは私の弟である前に王族でもあるんだ。その立場にいるからにはそれに見合った発言行動をしなければならない」
あまり期待はしていなかったがやはりダメだったらしい。
「どういうことかしら?」
王妃様に聞かれたならば答えぬわけにもいかない。
「………先日教師の方に言われたのです。これ以上庇いだては出来ないと」
その教師はアメリアに言ってきたが、その内容はアメリアではなく婚約者であるバカ王子のことだった。
日々バカになりつつあるバカだがこれ以上成績が落ちるとフォローしようがないと嘆く教師に申し訳なくなった。
何とかしようとアメリアも当人と話しをしたのだが……
「何とかしろ。それぐらい出来なくて何が婚約者だ。何のためにお前なんかと婚約してやっていると思ってる」
「…………」
へぇー。なんか、ね?
「私は忙しいんだ。そんなことを報告する暇があるならさっさと対処したらどうなんだ」
対処しようとしてお前の意味不明な言い訳を今聞いているのだが。
「お前は本当に使えないな。その上可愛げもないなんて女として恥ずかしくはないのか?この私がやれと言っているのだからさっさとーー」
「さっさと何だ?」
「っ!あ、兄上!」
ほーら、バカがバカなことばっかりほざいているからバチが当たったのよ。
いい気味だと心の中で爆笑しながらも、突如現れたシリウス王子に微笑み挨拶をする。
「私の記憶が確かならお前は今自室にいて勉学に励んでいたはずだが?それに加え婚約者であるアメリア侯爵令嬢にかなりの暴言を吐いていたがお前は一体いつからそれほどまで偉くなった?王にでもなった気か?ならば私から陛下に掛け合おう。アーキルが貴方の王位を狙っていると」
「そっ、そんなこと私は一言もーー」
「言ってないと?ボーフォート侯爵家に私たち王族がどれほど世話になっていると思っている?娘である彼女には関係ないと?本来なら既に退学処分にすらなっているだろうお前のために彼女が教師たちに頼み込んでくれたおかげで今も通えているというのに」
「で、ですがそれは婚約者として当たり前のことーー」
「だと本気で思っているならもうすでにお前は王族以前に人としても最低に成り果てている。これ以上の愚行は兄としても偲びないから私が陛下に掛け合い処分が決まるまでお前は部屋で待機していろ」
すごい!カッコいいわシリウス王子!
冷静沈着、次期国王としての威厳もあり少々恐れられているシリウス王子だがバカに振り回されているアメリアにとって彼はいつも救いの手を差し伸べてくれる神のような人だった。
自分が言えないことも代弁してくれているかのようでもう感謝しかない。
「え?で、ですが私はこれからサマンサと街にーー」
救いようのないバカである。
いっそう冷たく目を細めるシリウス王子に、ああコイツ死んだなと心の中で思うのだった。
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