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6章 居場所
53.父様が、私に内緒で死ぬわけない 01
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これは……想定していなかった私が悪い……かもしれない。
精霊ギルドを遠くに眺め、脱兎のごとく逃げ出す小精霊を見た。
うん、最近奴ら役立たずが過ぎる。
もともと私にとっては意味の無い連中だけど、アレでは精霊使いが精霊使いとして役立たないじゃないか……。 ロノスは小精霊が私に関わる事を禁じていたが、わざわざ逃げるように距離を取らせる事はなかった。 自分の意志で関わらなければ関わりすぎなければ、情を交わさなければ、欲を出さなければ結果的には良いのだけれど……それが出来ないから遠ざけていると聞いた事がある。
私はチラリとヴェルを眺め見た。
「ヴェルは精霊に嫌われている?」
言えば、ヴェルはただニッコリと笑うだけ。 まぁ、ケガレに半堕ち状態だった時、魔力補給にと精霊食べていたものね。 嫌われていても仕方がないか。
何がどうしたかと言えば、精霊ギルド運営の食堂に向かっていけば、精霊が一斉逃亡したのが見えたのだ。 とは言え、他の場所ではまだ食事ができるような状況ではない。 材料をどこかで調達してミカゲ先生のところに行こうか? そんなことを考えていれば、大騒ぎの精霊ギルドから人が出てきて、私を見つけたギルド長は動きを止めたから、私はシュタッと右手を上げる。
「ご飯を食べさせて!!」
そんな風に言えば、苦笑しつつ何か食べさせてもらえると思っていた。
小精霊が私を避けるため精霊ギルドとは余り相性が良くないものの、ケガレに弱り、魔力不足に弱り、存在が不確かになった小精霊を助けた貸しがある。
「何をしているんだ!!」
ものすごい剣幕で、ギルド長は声を荒げ駆け寄ってきて、息をきらしながら私に向かって声を大に叫んだ。 怒鳴るように声を荒げた。
「リヨン・オルコット公爵が亡くなったと言うのに、何処で何をしていたんだ!!」
「はっ? あり得ない。 それよりご飯」
じっと見つめれば、じっと見返され、ヴェルに抱きしめられて腕で抱きしめるように目を塞がれた。
「何?」
「なぜか不快なものを感じましたので」
私は肩を竦め、手をゆっくりと払い退ける。
「父様が、私に内緒で死ぬなんてありえないから」
言いなおせば、ギルド長は眉根を寄せ、可愛そうなものを見るような視線を私に向けてくる。 だから私は溜息をついた。
「父様が私の知らない場所で勝手に死ぬ訳ないじゃない。 私が言っているの。 私が!!」
強く言えば、ギルド長が狼狽えた。 もし父様が死ぬようなことがあれば、父様は何かするはずだ……。 私を放って、私の未来を放って勝手に死ぬはずがない。
「だが……」
魔力脈を使えば父様を探す事も出来るだろうし、話しかける事も出来るだろう。 だけど流石に今、ここで、そんなことをするわけにはいかない。 そんなことをすればヴェルの存在があからさまになり過ぎる。
「帰る……」
踵を返し、ギルドの建物へと背を向けようとすれば、ヴェルの腕で妨げられ、引き寄せられ、腕の中に柔らかく抱き寄せられる。
「主は聖女だが、人間だ。 身体を休める事も、食事をとる事も必要だ。 落ち着け」
「落ち着いている。 落ち着いているから!! 私は何時も通りだよ」
背の高いヴェルを見上げるように、顔を上げれば額に口づけられる。
「こんな時に!!」
そう怒れば、自分の中に矛盾がある事を理解した。 そして、溜息をつき振り返りギルド長に話しかけた。
「話を聞かせてもらえるかな?」
「あぁ、食事もだそう」
そして私は、いくつもの騎士団が国内に散らばり、被害、魔力量、ケガレの調査をしている中、父様が率いる騎士団の屍が見つかった事を知らされた。
「それは本当に父様なの?」
親子だから分かるはずだなんて言わない。 ただ、私の中ではありえなかったのだ。
父様は、私と同じ蜂蜜色の派手な髪色で、私以上に騒々しい人だけど、闇に紛れるのがやけに上手い。 カクレンボをすれば、私が鬼だったはずなのに、背後に回った父様に捕まえられて、なぜか何時も父様が負けていた。 普通にやっても負ける気等ないのに、何時もそんなおかしな負け方をして、私に勝ちを譲っていたのだ。
そんな父は、国を出る前夜、私の元にやってきた。
闇夜に紛れてやってきた。
魔人が解放されたことで、国中から魔力を集め、ケガレを集め、私がケガレを浄化し、彼が魔力鉱脈を作り出す。 その仕組みは崩壊してしまった。 今でも魔力脈とヴェルの繋がりが切れた訳ではないけれど、それにだけ集中しシステムと化していた時とは訳が違う。
だからと言って、一瞬で終わった侵略のせいで、あれだけの被害のせいで、来週に、来月に、ケガレた精霊が増大し、ケガレた精霊を受け入れる魔物となれる素養を持つだけの存在が生まれるはずがない。 身体を持たないまま魔物化、ゴーストとなれるだけの存在に精霊が進化するはずもない。
まだ、この国には魔物は存在しえない。
私だって万が一は考えていた。 だから、ルデルス国から奪ったロノスの影響下にない炎の小精霊にケガレを浄化するように命じてある。
ケガレは、水に溶かす事ができる。 大地に封じる事ができる。 風に流す事ができる。 炎で燃やす事ができる。
ルデルス国は華やかに見えて貧乏だ。 それは、それこそはジュリアン王子が言っていた通り魔物がいないから、魔物の生まれる要因であるケガレが存在しえないから、魔力系の莫大な富を得る事ができない。
「意味の無い事を、馬鹿げている」
出発前夜、私は振り回される父様に怒った。
「エリアルが、意味の無い事と言うのなら意味がないのでしょう。 それでも、騎士の姿を見れば落ち着く人がいる。 復興に助力すれば、未来への不安から解放される。 人から生まれるケガレが減る。 なら、私達は騎士としての務めを果たすべきでしょう」
「父様の役目は、私の側にいて、私を守る事ではないの? 部下に任せておけばいいでしょう。 どうせ、騎士団が出向くようなことなんてないんだから」
「ですが民を守るのもまた騎士の貴族の役目。 それに、ちゃんとエリアルを守るための護衛を置いていきますよ。 貴方が寂しくないように、貴方と仲の良い騎士を置いていきましょう」
「いらない。 私は強いから」
拗ねてソッポを向けば、頭が撫でられ笑われる。
「未だ、私に背後を取らせるのに? エリアルは強いけど、隙が多い。 そんな貴方を心配せずに済むように部下を側においてください。 私は王家を信用していません。 そして貴方の大丈夫も信頼していません」
笑いながら言われるから、私はニヤリと笑って見せた。
「大丈夫だよ。 私はね、強い精霊っぽいものと契約を交わしたから。 ビル、出てきなさい!!」
一応偽名で呼びながら。 呼び出しながら、アレ交わしたっけ?? と、思ってしまう。 まぁ、いいや。
控えていたヴェルが姿を見せ、気配を現した。 突然に現れたように見えたのだろう、父様はヴェルに敵対行動をとり、小回りの利く短刀を抜く。 ヤバイとおもったけれど、以外にもヴェルは寛大で
「主の安全は私が保証しよう。 お前の部下が、お前自身が守るよりも余程安全だ。 安心して行くがいい。 人の掟に縛られた者よ」
……寛大……だったと思う。
そして、父様は寛大とは程遠かった。
「エリアル。 拾った場所に捨ててきなさい」
精霊ギルドを遠くに眺め、脱兎のごとく逃げ出す小精霊を見た。
うん、最近奴ら役立たずが過ぎる。
もともと私にとっては意味の無い連中だけど、アレでは精霊使いが精霊使いとして役立たないじゃないか……。 ロノスは小精霊が私に関わる事を禁じていたが、わざわざ逃げるように距離を取らせる事はなかった。 自分の意志で関わらなければ関わりすぎなければ、情を交わさなければ、欲を出さなければ結果的には良いのだけれど……それが出来ないから遠ざけていると聞いた事がある。
私はチラリとヴェルを眺め見た。
「ヴェルは精霊に嫌われている?」
言えば、ヴェルはただニッコリと笑うだけ。 まぁ、ケガレに半堕ち状態だった時、魔力補給にと精霊食べていたものね。 嫌われていても仕方がないか。
何がどうしたかと言えば、精霊ギルド運営の食堂に向かっていけば、精霊が一斉逃亡したのが見えたのだ。 とは言え、他の場所ではまだ食事ができるような状況ではない。 材料をどこかで調達してミカゲ先生のところに行こうか? そんなことを考えていれば、大騒ぎの精霊ギルドから人が出てきて、私を見つけたギルド長は動きを止めたから、私はシュタッと右手を上げる。
「ご飯を食べさせて!!」
そんな風に言えば、苦笑しつつ何か食べさせてもらえると思っていた。
小精霊が私を避けるため精霊ギルドとは余り相性が良くないものの、ケガレに弱り、魔力不足に弱り、存在が不確かになった小精霊を助けた貸しがある。
「何をしているんだ!!」
ものすごい剣幕で、ギルド長は声を荒げ駆け寄ってきて、息をきらしながら私に向かって声を大に叫んだ。 怒鳴るように声を荒げた。
「リヨン・オルコット公爵が亡くなったと言うのに、何処で何をしていたんだ!!」
「はっ? あり得ない。 それよりご飯」
じっと見つめれば、じっと見返され、ヴェルに抱きしめられて腕で抱きしめるように目を塞がれた。
「何?」
「なぜか不快なものを感じましたので」
私は肩を竦め、手をゆっくりと払い退ける。
「父様が、私に内緒で死ぬなんてありえないから」
言いなおせば、ギルド長は眉根を寄せ、可愛そうなものを見るような視線を私に向けてくる。 だから私は溜息をついた。
「父様が私の知らない場所で勝手に死ぬ訳ないじゃない。 私が言っているの。 私が!!」
強く言えば、ギルド長が狼狽えた。 もし父様が死ぬようなことがあれば、父様は何かするはずだ……。 私を放って、私の未来を放って勝手に死ぬはずがない。
「だが……」
魔力脈を使えば父様を探す事も出来るだろうし、話しかける事も出来るだろう。 だけど流石に今、ここで、そんなことをするわけにはいかない。 そんなことをすればヴェルの存在があからさまになり過ぎる。
「帰る……」
踵を返し、ギルドの建物へと背を向けようとすれば、ヴェルの腕で妨げられ、引き寄せられ、腕の中に柔らかく抱き寄せられる。
「主は聖女だが、人間だ。 身体を休める事も、食事をとる事も必要だ。 落ち着け」
「落ち着いている。 落ち着いているから!! 私は何時も通りだよ」
背の高いヴェルを見上げるように、顔を上げれば額に口づけられる。
「こんな時に!!」
そう怒れば、自分の中に矛盾がある事を理解した。 そして、溜息をつき振り返りギルド長に話しかけた。
「話を聞かせてもらえるかな?」
「あぁ、食事もだそう」
そして私は、いくつもの騎士団が国内に散らばり、被害、魔力量、ケガレの調査をしている中、父様が率いる騎士団の屍が見つかった事を知らされた。
「それは本当に父様なの?」
親子だから分かるはずだなんて言わない。 ただ、私の中ではありえなかったのだ。
父様は、私と同じ蜂蜜色の派手な髪色で、私以上に騒々しい人だけど、闇に紛れるのがやけに上手い。 カクレンボをすれば、私が鬼だったはずなのに、背後に回った父様に捕まえられて、なぜか何時も父様が負けていた。 普通にやっても負ける気等ないのに、何時もそんなおかしな負け方をして、私に勝ちを譲っていたのだ。
そんな父は、国を出る前夜、私の元にやってきた。
闇夜に紛れてやってきた。
魔人が解放されたことで、国中から魔力を集め、ケガレを集め、私がケガレを浄化し、彼が魔力鉱脈を作り出す。 その仕組みは崩壊してしまった。 今でも魔力脈とヴェルの繋がりが切れた訳ではないけれど、それにだけ集中しシステムと化していた時とは訳が違う。
だからと言って、一瞬で終わった侵略のせいで、あれだけの被害のせいで、来週に、来月に、ケガレた精霊が増大し、ケガレた精霊を受け入れる魔物となれる素養を持つだけの存在が生まれるはずがない。 身体を持たないまま魔物化、ゴーストとなれるだけの存在に精霊が進化するはずもない。
まだ、この国には魔物は存在しえない。
私だって万が一は考えていた。 だから、ルデルス国から奪ったロノスの影響下にない炎の小精霊にケガレを浄化するように命じてある。
ケガレは、水に溶かす事ができる。 大地に封じる事ができる。 風に流す事ができる。 炎で燃やす事ができる。
ルデルス国は華やかに見えて貧乏だ。 それは、それこそはジュリアン王子が言っていた通り魔物がいないから、魔物の生まれる要因であるケガレが存在しえないから、魔力系の莫大な富を得る事ができない。
「意味の無い事を、馬鹿げている」
出発前夜、私は振り回される父様に怒った。
「エリアルが、意味の無い事と言うのなら意味がないのでしょう。 それでも、騎士の姿を見れば落ち着く人がいる。 復興に助力すれば、未来への不安から解放される。 人から生まれるケガレが減る。 なら、私達は騎士としての務めを果たすべきでしょう」
「父様の役目は、私の側にいて、私を守る事ではないの? 部下に任せておけばいいでしょう。 どうせ、騎士団が出向くようなことなんてないんだから」
「ですが民を守るのもまた騎士の貴族の役目。 それに、ちゃんとエリアルを守るための護衛を置いていきますよ。 貴方が寂しくないように、貴方と仲の良い騎士を置いていきましょう」
「いらない。 私は強いから」
拗ねてソッポを向けば、頭が撫でられ笑われる。
「未だ、私に背後を取らせるのに? エリアルは強いけど、隙が多い。 そんな貴方を心配せずに済むように部下を側においてください。 私は王家を信用していません。 そして貴方の大丈夫も信頼していません」
笑いながら言われるから、私はニヤリと笑って見せた。
「大丈夫だよ。 私はね、強い精霊っぽいものと契約を交わしたから。 ビル、出てきなさい!!」
一応偽名で呼びながら。 呼び出しながら、アレ交わしたっけ?? と、思ってしまう。 まぁ、いいや。
控えていたヴェルが姿を見せ、気配を現した。 突然に現れたように見えたのだろう、父様はヴェルに敵対行動をとり、小回りの利く短刀を抜く。 ヤバイとおもったけれど、以外にもヴェルは寛大で
「主の安全は私が保証しよう。 お前の部下が、お前自身が守るよりも余程安全だ。 安心して行くがいい。 人の掟に縛られた者よ」
……寛大……だったと思う。
そして、父様は寛大とは程遠かった。
「エリアル。 拾った場所に捨ててきなさい」
応援ありがとうございます!
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