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55.守ると言う言い訳のもと

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 モソリと動く身体の動きで目を覚ました。

 じっと目と目があった。

 わんっ!!

 吠えたら、整った顔立ちをした俺の特別がビックリしたように目を見開いていた。
 あぁ、可愛らしいと思えば、頬をペロリと舐めてしまう

 きゃぁああああ!!

 そんな使用人の悲鳴が聞こえたが、気にする気などない。 気にする必要等ない。

「うひゃぁ!!」

 ひっくり返って、ベッドから転がり落ちそうになる子の先を回って落ちる前に身体を支えきった。

 わうがうわうわう。

「なんか……ゴメン、驚いた。 夢じゃなかったんだ」

 そう言って、上体を捻り手を伸ばしてくる。

「触れて良い?」

 わんっ!!

 俺の方から頬を摺り寄せれば、満足そうに毛並みに指を絡め撫でてくる。 そして耳元にそっと囁いてくる。

「シグルド様ですか?」

 違うと伝えれば、このまま甘えてくれるんだろうか? そう思ったりもしたが、ヴェルの首筋に俺の首筋を摺り寄せ、静かに是を伝えて見せた。

 くぅ~ん

 ただ、残念なことに今一つ通じている気がしなかったのは、首を傾げて首周りに抱き着いてきたから。

 喋る訳には行かなかった。

 オークランドの民は人と比較すれば五感が恵まれている。 宮殿の中でも古びた入口すら見当たらない場を居場所に選んだ理由は、オークランドの民の五感を狂わせる細工がしてあるから。

 あそこであれば、音が聞こえない。
 あそこであれば、匂いが遮断される。
 あそこであれば、人が訪れない。

 だが、ここはダメだ。

 聞かれているから……。
 俺がいるって知られたらダメだ。
 この子の利用価値は高すぎる。

 わうっ。

 何処かで感じた距離感。
 俺の特別から受ける孤独感。

 そんなものは、もう、存在していない。

 暖かく触れてくる腕が愛おしい。

 ハッキリとは覚えていないのに、今は以前よりもずっと特別だ。

 戸惑いながら、無邪気に俺と言う存在を喜んでいるこの子が可愛らしくて仕方がない。 尻尾をパタパタと振って見せた。 が、幸福は長くは続かない。



 がるぐるうるるるるう。

 唸り声を上げれば、昨日の晩、ヴェルを迎えに来ていた2人のうちの男の方が、大きく声をあげた。

「お嬢様、危険です。 離れて下さい」

「平気よ。 襲う気なら、寝ている間に噛み殺しているわよ。 馬鹿ねぇ。 風呂に入ってくるから、食事の準備をこの子の分もしておいて。 えっと……私と同じものをね。 犬だからって馬鹿にしたら怒るから」

「はぁ……仕方がありませんね」

「あと、風呂に入っている間、喧嘩しないように。 分かった?!」

 そう言って風呂に向かうヴェルの背を見つめる男の視線は、随分と冷ややかに見えた……。
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