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物語

16.理解不能の狂気に晒されて

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 イザベルの言動は余りにも幼稚で、横暴で、乱暴で身勝手。

 あれは何? あれでは、話にならないわ。

 綿密な調査の意味は?
 忙しい義父様に、時間を取ってもらった意味は?
 日程、馬車の改良、配送される魔法薬物を予測し、中和剤を作った苦労は?

 何もかも意味を成していなかった。



 なんなのよ!!
 ジェフロアを責めたくなった。

 人は理不尽に暴れる会話不能な自分と違うものとは会話を望まないらしい。 と、ティアは思わず冷静に自己を分析していた。



 彼女は5年前から成長していないのだろうか?

 成人の祝いが聖女デビューに奪われたあの日。


 人々は

 無邪気なイザベルの様子に微笑んでいた。
 色んな物に興味を持つ様を純粋だと和んでいた。
 その微笑みが愛らしいと褒め讃えた。

 だけれど言い換えれば幼稚の一言で収まる。

 今の彼女はどうだ?

 幼い口調は尊大さと傲慢さを纏った。
 無邪気と言う名の無神経は今も健在だ。
 幼い無責任さは、他力本願が加わった。

 結局、彼女は変わっていないのかもしれない。

 なら……予定していた話し合いは無理だと言う事になる。 お互いの意見を交わし、妥協点を探らせ、折り合いを提案しあう事で対等である状況を意識させようと思って居ましたのに……。

 段取りが壊れ、予定が破綻し、私もまたイザベルほどではないとは言え戸惑いを覚えていた。



 思考を放棄しジェフロアに幼子のように縋りボロボロと嘆くイザベルを見れば、ティアはあらゆる事を諦めてしまっていた。 諦めて済む問題ではないと言うのに。

 ここまで話にならないなんて……。
 計画の立てようが無いわ。

「助けて、助けてよぉおお」

 繰り返されるイザベルの言葉。
 ジェフロアに叫び、縋るイザベル。

 そんなイザベルを抱きしめ、幼子を宥めるように髪を撫で、背を撫でる様子は、2人に嫌悪しかない私にだって、ジェフロアがイザベルの心を納めようと必死なのだと分かる。



「イザベル。 大丈夫、大丈夫だから」



 そう語るジェフロアも顔色が悪く怯えていた。 ただ、弱弱しくもヒステリックに叫び続けるイザベルのためだけに正気を保っているようにすら見える。

 幼い頃からジェフロフを知っているティアは思う。

 心を乱し暴れる事無く、良く耐えている。

 それもイザベルのために、彼女だけを思ってなのだろうから馬鹿馬鹿しい。 ……なぜそう言えるのか? だってジェフロフは私を全く見ようとしていないから。



「なぜ、可哀そうなイザベルを責める」



 ジェフロアが言う。
 もはや、苛立ちおよりも呆れが先立つ。

 だが、それでいい。 今は口を開くときではない。



「なぜ、オマエはイザベルを愛さない」

「はぁ? 何故愛せると思うのよ!!」

 つい声をあらげてしまった。

「彼女は聖女だ」

「そうね、国が定め、神聖皇国が定めた立派な聖女様ですわ」

「そんな偉大な方が、悪魔によって惑わされ、堕天したらどうする!!」

 繰り返されるティアを責める言葉。
 だが、ジェフロアの言葉は、ティアに向けられては居なかった。

 全ては、イザベルを慰めるため。

 ジェフロアの視線はイザベルに向かい。
 責める声もどこか甘い。

 それは逃げようとするイザベルに聞かせるように。 ジェフロアは、ティアが全部悪い。 イザベルは悪くないと続けていた。

「イザベルは、オマエのように強くはない。 弱い人間なんだ……。 どうして、弱い者をそうやってイジメる。 追い込む。 お前には慈悲と言うものはないのか? 彼女は聖女なのだぞ、敬意と言うものがないのか?」

「それは、私の言葉ですわ。 何をすれば、彼女に敬意を慈悲の心を抱けると言うの?」

「くだらない嫉妬をするな!! イザベルは聖女だ……無邪気に愛され、愛する事でその力を発揮する特別な人なんだ。 薬を使ったのだって、オマエが嫉妬し僕たちの関係を認めず、僕たちの手を取る事を拒むことが予想できたから。 仕方がなかったんだ。 今からでも協力をしろ!!」

 何を言っているの?
 訳が分からないわ……。
 頭がオカシクなりそうだわ。

「嫉妬? 何に嫉妬する訳? この国と、神聖皇国の法を破り、裁かれ、落ちるだろう聖女様に嫉妬するような事はないわ」

 そう言えば、言語にならない金切り声が響いた。

「ジェフ、ジェフロア!! た、助けて……お願い。 怖い、怖いのよ」

「ティア!! いい加減にしろ!! こんなにも怯えるイザベルを責めて楽しいのか!!」

「お願い、ジェフロア。 私を助けて、狂いそうだわ……怖いの……」

 ジェフロアの身体に触れ背伸びをするように縋りつくイザベルは震え怯え……そして唇同士を重ね合わせた。

 今も私とジェフロアの婚約は継続中で、それでも!! 婚約者である私の前でイザベルはジェフロアの唇を奪い触れた。 貪るように、獣のように必死の様子でぴちゃぴちゃと舐めれば、答えるようにジェフロアもまた舌を絡めて深い口づけをする。

 息が止まるような……深い口づけ。
 唾液の絡む音が響き、言葉は無い。

 イザベルの手はジェフロアの股間に触れ、離れた唇は唾液に濡れ甘えるように懇願する。

「お願い、私を助けて……」

 イザベルは、空いていたもう片方の手で、ジェフロアの手を自らの両足の間へと誘う。 決して見て言いたいものでは無いが……逃げるつもりもなく、冷ややかな視線をティアは二人に向けていた。

 動揺したら負けのような気がしたから。

 ジェフロアは、イザベラの秘部へと手を差し入れ、水音を立てながら……視線はティアへとジッと見つめて来た。 そこに情愛等は欠片だって見られない。

「何よ……」

「こんなにも哀れなイザベル様を、オマエは可哀そうだと、愛おしいとは思わないのか」

 ぁ、ぁ、あっ……。

 中がかき混ぜられるのに合わせて、声を漏らし恍惚な表情を浮かべていた。 水音が激しくなると共に、イザベルの声は甲高くなり、快楽に追い込まれているだろう事が予測できる。

「何時まで、私は、この馬鹿らしい空間に居ればいいのかしら?」

「哀れなイザベルを慰めようとは思わないのか? これほどにも、追い詰められ自らを壊さぬよう必死に縋るイザベルの必死さを愛おしいとは思わないのか?」

「思う訳ないでしょう。 アナタは、私の婚約者なのよ!!」

 好きと言う思いは無いが、それでも叫ばずにいられなかった。

 余りにも理解不能な行動を前にして……どんな相応しい言葉があると言うのだろうか? やがて、イザベルは背筋を伸ばすように、身体を強張らせていく。

 視線を背ければ負けな気がしたが……どうして見ていられると言うのだ……。 ティアは視線をそらそうとした。 その瞬間……イザベルと視線が合う……、弄られぐちょぐちょに濡れた下部をジェフロアに向け、腰を振りながら、快楽を求めながら……イザベルは恍惚の表情を浮かべながらティアに手を伸ばしてくる。

 だが、次の瞬間にはまた甲高い絶叫が轟いた。

「あぁあああ!! お願いよ! 私を愛してぇええぇえ」

 絶頂を前に向けられる声は、ジェフロアではなくティアに向けたもの。



 ティアは訳が分からず狂いそうだと思った。
 それでも、ティアは、冷静を装う。

 向けられる懇願、伸ばされる手に触れる気には欠片も無い。
 ティアが出来るのは、ジェフロアに対して軽蔑の視線を向ける事だけだった。
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