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3章

42.はた迷惑な勧誘

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 国政に関しては業務になれた文官達が行っているから問題はない。 だけど王や大臣、他国に対して実力を発揮していた者達は3年前に全員殺されたため、ホワイトウェイ国は外交が弱い。

 3年も空白があったのだ欠点に気付く者は多く、王位就任3周年の祝賀会を前に外交に強いファング商会を取り込もうと王権に関わる者達が動き始めたのだ。

 ファング商会の幹部達は、各派閥から勧誘され始めた。
 だが、商会が国と組んでも、公爵家と組んでも利益は無い。

 そう思っていた。

 商会に務める者は、その地位が低くても家族の衣食住まで保証しており、裏切る者は無いだろうと考えていたのだ。 能力が低い者にも生活の保障を、能力が高ければ贅沢を与えていた。



 それでも……。
 人は裏切る。

「本当に鬱陶しい!! 毎日毎日コバエのようにまとわりついてきやがる!!」

「兄さん、随分とお疲れのようね」

 苛立つダニエルに嫌味を返すドナも疲弊していた。

「従業員の半分を貴族に持っていかれて、3割が貴族に恐怖し逃げ出した!! 折角今まで育てて来たのに全てが台無しだ!!」

「別によろしいのではありませんか? 不義理な者等、不安材料にしかなりませんからね。 お嬢様をお守りする価値を持つ者だけが残ればいいのよ」

「だが人前に出ている者達はそんな単純な話じゃない。 日々業務妨害に悩まされている。 なのに!! アイツ等は話し合いは一切受け付けず、地位と権力を盾に暴力と言う手段を奪ってくる!! 相手が貴族って言うだけでだ!!」

「声を荒げてどうなると言うのよ!!」

「オマエだって声を荒げているだろうドナ!!」

「ウルサイわね!! お黙りなさい!!」

 そう怒鳴り合いをする程に、兄妹にも精神に影響が出ていた。

 毎日、毎日、数時間おきに現れる勧誘人。 褒めて、宥めて、賺して、甘い提示、そして脅し……深夜に襲い、家族に暴力をふるう。 客人が来れば嫌がらせをし国と公爵家に目を付けられたと慌てて逃げた。

 そして、クリスティアを誘拐しようとした。

「もう、仕事にならない……」

「でも、お嬢様についていけば飢える事はないわ」

「そんな退屈な生き方をしたくはないんだがなぁ……背負う者が多くなると……訳が分からない。 商売人なんて性に合わないのかもしれないなぁ……」

 そう言いながら、ダニエルはソロリソロリと移動する。
 白い小さな影を捕まえるために、そして白い影は走り出す。

「止まれ!!」

 捕まらない距離。
 だけど、未練が逃げ切る事を拒否してしまう。

「頼みたい事がある!!」

 声を大きく呼び止めれば、小さな白い塊がとまった。

「何? 僕は……その、ご飯を貰えればときただけだ」

「なら、逃げなくても良く無いですか? それより……チビにあって……いや、側にいて下さいよ。 それより、日々小さくなっていってません?」

「大きいと目立つから仕方がない。 それで……何かあったのか?」

 きっかけがあれば戻れるとカインヴェルは思ったけれど……クリスティアの心を悩ませるようなきっかけなら必要無いとも思っていた。





【王宮】


「陛下……力をお借りするには、陛下自身に説得していただかなければ……われわれではお手上げです」

「役立たずが!!」

「彼等は、力があります。 財産もあります。 他国の知識もあります」

「ふざけるな!! 我が国より劣る他国の知識が何の役に立つと言うんだ!! 庶民等薄汚いドブネズミのようなものだ!! 忘れたのかマルコムの裏切りを!!」

「だからこそ、陛下が見極めて下さい。 陛下だけが頼りなのです」

 王が何故仕事をしなければいけない?
 エドワードはそう考えるような男だった。

「陛下……陛下がお話をしていただくのは、とても美しい少女です。 少々幼くはありますが商会にとって重要な人物と言う話です。 どうか力をお貸しください」

「美少女?」

 嬉々として王は問いかけた。

 国中から美男美女を集めたが、王である自分に相応しいと思える者は居なかった。

「嘘だったら覚悟しろよ」

 イライラとした様子で脅したが、自信満々な様子を見せれば……ニヤリと王は笑った。

「狩りも悪くはないかもしれない。 着替えよう」

 そう言って王は立ち上がり、衣装部屋へと向かった。

「陛下が出向くのは交渉のためであって、捕らえるためではありません。 ご理解頂いておりますか?!」

 王は、後を追う部下の声等全く聞こうとしなかった。





【王都中央町】

 今の王都中央は停滞以下の状況と言っていい。
 それが余りにも酷かった。

 貴族は自分の目にする範囲だけを綺麗にし、そして……汚い物は見て見ぬ振りをしている事を知った。 商売人、職人、それらが動かない事を国はただの汚物として片付けていた。 

 別に……私は困らないけど……。
 それはクリスティアの本音。

 大切な者以外は大切でない。

 ご先祖様の記憶には、家の無い者に対して炊き出しを行うと言うものがあった。 だけど、それは余り良い風には思えなかった。

 食事は毎日するものだし、気まぐれに1食食事を振る舞われてどうなると言うんだろう? そう思ったから、衣食住の衣類を提供する事にした。 気候が大きく変動したのだから、気候にあった衣類が必要となるだろうから。

 ソレをきっかけに利用価値のある人を救う。

 商会の名を出し、私達はアナタ達を気にかけてますと言う態度を取る。 そうすれば、働く気のある人は声をかけて来るだろうと思った。

 衣類、靴、下着。

「こんなものより食べ物を寄越せ!!」

 そんな事を言うものも居たけれど。

「食事は毎日必要なのだから、働きなさい」

 その後は、職業相談、面談のために町に訪れている。



 焼け跡のままの都市に、場違いな豪華な馬車がやってくれば見ただけで逃げたくなるのは仕方がないと言うものだ。

 目立ちたがり屋で、趣味が悪い……。
 そんな人間は避けるのが良いだろう。

 派手な服だった。
 暑くはないの? と……そんなゴテゴテと飾り立てた服。

「あぁ言う人は避けた方がいい」

 私は護衛を伴い馬車から逃げ出した。 だが、ソレはお見通しだったようで、人海戦術の元で呆気なく道を塞がれ……ソレを排除しようにも……

「この国の王が会いに来てやったのだ。 光栄に思え」

 その一言で私達は逃げるのを諦め、私達は地面に片膝をつき頭を下げた。

「顔を見せろ」

 私が受けた礼儀作法には、国王に通用するようなものはなく、結果として言われた通りに顔を上げた。

「これは……これはいい……気に入った。 まだ、幼いが、あと数年もすればきっと美しく育つだろう。 いい……これは本当にいい」

 ニヤニヤ笑う様子が……怖かった。

「このような場所にどのような理由でいらしたのですか?」

「オマエが欲しい」

「彼女は社長の大切な子です。 例え国王陛下であっても好きに出来ると思わないで下さい」

「薄汚いドブネズミが偉そうに」

「私の大切な子達を、ドブネズミ等と呼ばないで下さい」

「美しいのは見た目だけで礼儀と言うものは備わっていないらしいな」

「ファング商会は国内でも最も大きな税を払っております。 それに貴族達の生活を支えている。 例え王であっても機嫌を損ねる事は避けられるべきではありませんか?」

 伸ばされた手から避けるため、護衛がクリスティアを後ろに下がらせようとすれば、国王の護衛が武器を抜き、そして……襲い掛かってきた。

 反撃は最小限で、私は小脇に抱えられ逃げ出され、そしてこの逃亡の過程で護衛がケガをした。 いえ……追いかけて来る大勢の人を転ばせる何かが無ければ、きっと逃げ切る事も出来なかっただろう。



 だから恐怖で動けなくなってしまった。

 怖い……。
 私のせいでケガ人を出したくない。
 私の近くにいたから、ケガをした……。
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