39 / 107
暗雲
第37話 旭陽のご褒美(中)
しおりを挟む
他のスライムとは大きさも色も違う。
だがそれ以上に、何だか弱弱しく見えた。小さいからってわけじゃないと思うんだが。
暫くじっと見つめてから気付いた。
魔力に関してまだまだ鈍い俺でも察せるほどに、体内の含有量が少ない。
さっきの奴とは違って、俺が見つめても思念の声を発することもない。
「発生してからずっと動いてなかったヤツの記憶に残ってる人間ってのは、どういう意味を持ってると思う?」
弱って見えるスライムについて考えていると、旭陽の手に視界を遮られた。
顔を近付けてきた男が、吐息に笑みを含ませて囁く。
「どう、って……たまたま通り掛かったことがある、とか」
反射的に答えたが、すぐに家臣の言葉を思い出した。
違う。それより、『誰かが世話をしていた』って言ってたじゃないか。
「……弱ってる魔族を見かけて、助けてくれた?」
「晃は本当に生っちょろい頭してんなぁ」
表情を明るくした俺に、冷や水をぶち撒けるような言葉が浴びせられた。
「なに……」
むっとして反論しようとするが、褐色の腕が首に絡んできて驚きに声が詰まる。
人前でのキスには慣れてしまっていても、流石に複数人の前で密着されるのはまだ羞恥が勝る。
慌てる俺の耳に口を押し付けて、低い声が注ぎ込まれた。
「人間が、力の弱い魔族を幽閉して実験をしてたんじゃねえかって話をしてんだ」
――頭の中を、呼吸を阻害するほどの鎖に繋がれてぐったりと伏していた旭陽の姿が過ぎった。
仮の話じゃない。
俺がこの世界で初めて見た、件の男に献上された時の光景だ。
そんなことをする人間がいるのかと言いたいのに、瞬時に甦った過去の影響で否定の言葉が出てこない。
「――……」
何も言わない俺の耳元で、低い笑い声が言葉を続ける。
「お前が寝てる間にちと見てきたがな。俺がこっちで最初に見た場所――あの『元王筋』の居住区だけ、前と比べて不自然に一帯の魔力が濃かったぜ。
ま、何か普通じゃねえことをヤってたのは間違いねえだろうなァ」
「……事実だろうな?」
惑う俺の反応を楽しんでいる声に、返答は自然と低い音となった。
表情が見えない顔を掴み、目の前まで強引に引き寄せる。
旭陽は、やっぱり笑っていた。
「お前が、確かに、そう感じたんだな?」
一音一音、はっきりと念を押す。
睨むような目付きの俺と視線を合わせて、気負いなく旭陽が「ああ」と肯定した。
「調査を。事実であったなら、俺の元に連れて来い。関係者全員だ」
旭陽の目を見たまま、黙って見守っている家臣に命令を下す。
「……はっ!」
彼らの意見を聞くことすらしなかったが、誰も尋ね返してはこなかった。
静かながら迅速に室内の空気が動く。
外に出て行く男たちを見ようとすれば、逞しい腕がまた視界を遮ってきた。
今度は頭を両腕で抱え込まれ、完全に何も見えなくされる。
「……疑わねえんだな?」
軽い調子の声は、腕に包み込まれた状態では少し遠く聞こえた。
「お前は他人で遊ぶ為に、嘘も真実も同じだけ吐くだろ。
……端から聞いててもどっちなのかは区別が付かないけど、自分自身では判別できてる。物事の正偽を見誤らない」
視界の全てを奪っている腕を掴み、力を込めていく。
ぎりぎりと爪を食い込まされても、旭陽は制止してこない。
「嘘ならそれでいい。――でも、事実の可能性があるなら。確認しなくちゃならない」
頭の隅で、地球で生きていた頃の記憶がちかちかと瞬いた。
自分が人間だと信じていたかつての生活。
俺を育ててくれた人たちの顔。
数少ない、片手で足りるほどの友人。
俺は、自分が人間だった過去の感覚を捨てきれていない。
自分が魔族たちの王だってことは理解しているし、彼らを大切にも思い始めている。
それでも、無意識のうちに自分を人間の側に置いて考えてしまうことが間々ある。
だとしても。
「俺は、魔王だから」
魔族の、王として。彼らを傷付けるものから、守らなければ。
自分に言い聞かせるため、決意を言葉にする。
「殺すのか?」
「――――」
ふと笑いを収めた声に尋ねられて、咄嗟に声が出なかった。
――そこまでは、したくない。
本当に、俺の民を使って実験なんてされていたとしたら。
それがどんな理由であっても、許すわけにはいかない。
それでも、人の命を奪うことはしたくない。
人間の意識がまだ抜け切らないから、というのはこの際関係ない。
ただ誰かの命を奪う決断を、極力下したくないというだけだ。
だって人も、それ以外の生き物も、誰だって必死に生きている。
罪を犯したとしても、被害を受けたスライムたちも生きている。
生きて償わせるほうが良いんじゃないか――などと。
自分の考えがどんなに甘いのか、よくよく自覚はしている。
害を与えられた可能性が高い者の心境を軽んじてしまっているかもしれない。
それでも、死を与える方法だけは選びたくない。
何故だろうか。分かっているのに、今回はそれが妥当だって。
自分でも不思議なくらいに『死』という現象が嫌いだ。
昔から、他者を害する想像をしただけでも吐き気がするほど強い忌諱感を感じてしまう。
悩む俺を、腕の隙間から旭陽が見下ろしている。
静かな黄金が、やけに強い光を放っている気がした。
「……旭陽、」
「なあ、晃」
静寂を保つ瞳に、高揚の光が瞬いた気がした。
気になって尋ねてみようとするが、先に旭陽が話し出す。
「連中の食料について、知恵を貸せって言ってたよなァ」
「連中……ああ、スライムたちのか? 言ったけど」
何を考えているのか聞きたかったが、男が口にしたのは俺個人の興味よりも優先すべき話題だった。
すぐに答えると、腕が解けて旭陽の顔がはっきりと見えるようになる。
男らしい顔には、いつもの皮肉げな笑みが乗っていた。先程の、不思議な熱を伴った光は見えない。
見間違いだったんだろうか。
何処か含みがある表情として映ったのも、気の所為だろうか。
「人間をくれてやりゃあいい」
旭陽が首を捻って、後方のスライムたちに顔を向けた。
俺もつられて視線を向けた。半透明のピンクが、さっきと変わらず数百体犇いている。
「人間共の中でも、昔『高貴な血筋』とやらだった連中は皆一様に魔力持ちだぜ。
自分たちで起こした問題を、本人たちに解決させるだけだ。魔力を食われる程度だしなァ」
「……魔力が尽きればどうなるんだっけ?」
「仮死状態になるだけだが、それでも魔力を奪われ続けりゃ変わりに生命力が削れて死ぬな」
さらっと言われて、思わず顔が引き攣った。
「それは……死罪と変わらないんじゃないか……?」
「良いじゃねえか。首を落とすより資材の有効活用が出来るぜ」
良い案だろうとばかりに笑われて、頭が痛みを発し始める。
そういう問題じゃないんだよ……! 普通に人間を資材呼びしてるし……!
けど仲間に甘く人間に厳しい魔族にこの案を聞かせたら、満場一致で採用されそうだ。
困り顔で唸っていると、旭陽が背後に手を伸ばす。
何処か元気のない動きで腕に飛び乗ってきたのは、さっき見た桃紅色のスライムだった。
「晃ぁ。この系統色の効果、知ってるか?」
甘く語尾を伸ばした声で、旭陽が俺の名前を呼ぶ。
褐色の手から、俺の手へと桃紅色が伝ってきた。ぴり、と肌に淡い刺激が走る。
「少し発色が違うが、この色の連中は他種族の体液から栄養を取り込む。その為に体の粘膜に催淫と弛緩効果があったり、性感を煽る技巧に長けてたり……
体の作りが異なる場合が多い此処の番にとっては、夜の強い味方って感じなんだが」
こん、と長い指がスライムの体を軽く叩いた。指先が半透明の体に軽く埋まる。
……そんなアダルトな性質までいたのか、スライム……。
「普通に放出するより、体液――特に、精液が含む魔力のほうが凝縮されてるんだぜ」
にや、と楽しげに旭陽が犬歯を覗かせる。
つまり、スライムたちに人間を性的に食わせろと。
うん、まあ……それなら、まだ死ぬとも限らないか。生きられるとも限らないけど。
でも本当に、新種であるこいつらも体液から魔力を得られるんだろうか。
未知の領域すぎて、つい心配になってくる。
スライムたちに向けた視線で、旭陽もすぐに俺の懸念を理解したらしい。
「心配なら試してみりゃいいじゃねえか」
「……えっ」
大きな手が桃紅色を掴み上げて、俺の手に押し付けてくる。
そのまま、スライムを乗せた俺の手を自分の下肢へと持って行った。
「っ!? ま、待て旭陽……!」
「……ンだよ」
何故か積極的な男の力に逆らえば、不満そうに眉を寄せて鋭い眼光を向けられる。
「お、俺以外に触らせる気か!?」
動揺して、思わず本音を叫んでしまった。
旭陽はといえば、きょとんとした顔になって目を丸くしている。
「……お前、玩具とか嫌いなやつだっけ」
「それは別に良いけど! 俺が扱うからだろそれは!」
いや、こっちにそういう類の玩具とかあるのか分からないから使ったことないけどな!?
何が何だか分からなくなってきて、混乱しながら旭陽の肩を掴んだ。
丸めていた目を戻した男はといえば、おかしそうに笑って俺の手に腰を押し付けてくる。
「なら、晃が扱ってやりゃいいだろ……」
低く囁かれると同時に、手に乗っている半透明がぐにゃりと弾力性を大きく崩した。
手が流動体の体に包まれる。皮膚を伝って、体の中に何かが繋がった感覚がした。
「あきら」
首筋に熱い唇が押し付けられた。
もう殆ど反射的に欲が昂れば、手に纏わり付いていた桃紅がぶるりと震えた。
褐色の体を覆う服の隙間に、液体状になったスライムが潜り込む。
何故か、素肌に触れた感触が俺の手に伝わってきた。
「ッん……」
旭陽が微かに吐息を零す。
撫でてやりたいと思えば、するすると桃紅色が太腿を伝い下りていくのが分かった。
だがそれ以上に、何だか弱弱しく見えた。小さいからってわけじゃないと思うんだが。
暫くじっと見つめてから気付いた。
魔力に関してまだまだ鈍い俺でも察せるほどに、体内の含有量が少ない。
さっきの奴とは違って、俺が見つめても思念の声を発することもない。
「発生してからずっと動いてなかったヤツの記憶に残ってる人間ってのは、どういう意味を持ってると思う?」
弱って見えるスライムについて考えていると、旭陽の手に視界を遮られた。
顔を近付けてきた男が、吐息に笑みを含ませて囁く。
「どう、って……たまたま通り掛かったことがある、とか」
反射的に答えたが、すぐに家臣の言葉を思い出した。
違う。それより、『誰かが世話をしていた』って言ってたじゃないか。
「……弱ってる魔族を見かけて、助けてくれた?」
「晃は本当に生っちょろい頭してんなぁ」
表情を明るくした俺に、冷や水をぶち撒けるような言葉が浴びせられた。
「なに……」
むっとして反論しようとするが、褐色の腕が首に絡んできて驚きに声が詰まる。
人前でのキスには慣れてしまっていても、流石に複数人の前で密着されるのはまだ羞恥が勝る。
慌てる俺の耳に口を押し付けて、低い声が注ぎ込まれた。
「人間が、力の弱い魔族を幽閉して実験をしてたんじゃねえかって話をしてんだ」
――頭の中を、呼吸を阻害するほどの鎖に繋がれてぐったりと伏していた旭陽の姿が過ぎった。
仮の話じゃない。
俺がこの世界で初めて見た、件の男に献上された時の光景だ。
そんなことをする人間がいるのかと言いたいのに、瞬時に甦った過去の影響で否定の言葉が出てこない。
「――……」
何も言わない俺の耳元で、低い笑い声が言葉を続ける。
「お前が寝てる間にちと見てきたがな。俺がこっちで最初に見た場所――あの『元王筋』の居住区だけ、前と比べて不自然に一帯の魔力が濃かったぜ。
ま、何か普通じゃねえことをヤってたのは間違いねえだろうなァ」
「……事実だろうな?」
惑う俺の反応を楽しんでいる声に、返答は自然と低い音となった。
表情が見えない顔を掴み、目の前まで強引に引き寄せる。
旭陽は、やっぱり笑っていた。
「お前が、確かに、そう感じたんだな?」
一音一音、はっきりと念を押す。
睨むような目付きの俺と視線を合わせて、気負いなく旭陽が「ああ」と肯定した。
「調査を。事実であったなら、俺の元に連れて来い。関係者全員だ」
旭陽の目を見たまま、黙って見守っている家臣に命令を下す。
「……はっ!」
彼らの意見を聞くことすらしなかったが、誰も尋ね返してはこなかった。
静かながら迅速に室内の空気が動く。
外に出て行く男たちを見ようとすれば、逞しい腕がまた視界を遮ってきた。
今度は頭を両腕で抱え込まれ、完全に何も見えなくされる。
「……疑わねえんだな?」
軽い調子の声は、腕に包み込まれた状態では少し遠く聞こえた。
「お前は他人で遊ぶ為に、嘘も真実も同じだけ吐くだろ。
……端から聞いててもどっちなのかは区別が付かないけど、自分自身では判別できてる。物事の正偽を見誤らない」
視界の全てを奪っている腕を掴み、力を込めていく。
ぎりぎりと爪を食い込まされても、旭陽は制止してこない。
「嘘ならそれでいい。――でも、事実の可能性があるなら。確認しなくちゃならない」
頭の隅で、地球で生きていた頃の記憶がちかちかと瞬いた。
自分が人間だと信じていたかつての生活。
俺を育ててくれた人たちの顔。
数少ない、片手で足りるほどの友人。
俺は、自分が人間だった過去の感覚を捨てきれていない。
自分が魔族たちの王だってことは理解しているし、彼らを大切にも思い始めている。
それでも、無意識のうちに自分を人間の側に置いて考えてしまうことが間々ある。
だとしても。
「俺は、魔王だから」
魔族の、王として。彼らを傷付けるものから、守らなければ。
自分に言い聞かせるため、決意を言葉にする。
「殺すのか?」
「――――」
ふと笑いを収めた声に尋ねられて、咄嗟に声が出なかった。
――そこまでは、したくない。
本当に、俺の民を使って実験なんてされていたとしたら。
それがどんな理由であっても、許すわけにはいかない。
それでも、人の命を奪うことはしたくない。
人間の意識がまだ抜け切らないから、というのはこの際関係ない。
ただ誰かの命を奪う決断を、極力下したくないというだけだ。
だって人も、それ以外の生き物も、誰だって必死に生きている。
罪を犯したとしても、被害を受けたスライムたちも生きている。
生きて償わせるほうが良いんじゃないか――などと。
自分の考えがどんなに甘いのか、よくよく自覚はしている。
害を与えられた可能性が高い者の心境を軽んじてしまっているかもしれない。
それでも、死を与える方法だけは選びたくない。
何故だろうか。分かっているのに、今回はそれが妥当だって。
自分でも不思議なくらいに『死』という現象が嫌いだ。
昔から、他者を害する想像をしただけでも吐き気がするほど強い忌諱感を感じてしまう。
悩む俺を、腕の隙間から旭陽が見下ろしている。
静かな黄金が、やけに強い光を放っている気がした。
「……旭陽、」
「なあ、晃」
静寂を保つ瞳に、高揚の光が瞬いた気がした。
気になって尋ねてみようとするが、先に旭陽が話し出す。
「連中の食料について、知恵を貸せって言ってたよなァ」
「連中……ああ、スライムたちのか? 言ったけど」
何を考えているのか聞きたかったが、男が口にしたのは俺個人の興味よりも優先すべき話題だった。
すぐに答えると、腕が解けて旭陽の顔がはっきりと見えるようになる。
男らしい顔には、いつもの皮肉げな笑みが乗っていた。先程の、不思議な熱を伴った光は見えない。
見間違いだったんだろうか。
何処か含みがある表情として映ったのも、気の所為だろうか。
「人間をくれてやりゃあいい」
旭陽が首を捻って、後方のスライムたちに顔を向けた。
俺もつられて視線を向けた。半透明のピンクが、さっきと変わらず数百体犇いている。
「人間共の中でも、昔『高貴な血筋』とやらだった連中は皆一様に魔力持ちだぜ。
自分たちで起こした問題を、本人たちに解決させるだけだ。魔力を食われる程度だしなァ」
「……魔力が尽きればどうなるんだっけ?」
「仮死状態になるだけだが、それでも魔力を奪われ続けりゃ変わりに生命力が削れて死ぬな」
さらっと言われて、思わず顔が引き攣った。
「それは……死罪と変わらないんじゃないか……?」
「良いじゃねえか。首を落とすより資材の有効活用が出来るぜ」
良い案だろうとばかりに笑われて、頭が痛みを発し始める。
そういう問題じゃないんだよ……! 普通に人間を資材呼びしてるし……!
けど仲間に甘く人間に厳しい魔族にこの案を聞かせたら、満場一致で採用されそうだ。
困り顔で唸っていると、旭陽が背後に手を伸ばす。
何処か元気のない動きで腕に飛び乗ってきたのは、さっき見た桃紅色のスライムだった。
「晃ぁ。この系統色の効果、知ってるか?」
甘く語尾を伸ばした声で、旭陽が俺の名前を呼ぶ。
褐色の手から、俺の手へと桃紅色が伝ってきた。ぴり、と肌に淡い刺激が走る。
「少し発色が違うが、この色の連中は他種族の体液から栄養を取り込む。その為に体の粘膜に催淫と弛緩効果があったり、性感を煽る技巧に長けてたり……
体の作りが異なる場合が多い此処の番にとっては、夜の強い味方って感じなんだが」
こん、と長い指がスライムの体を軽く叩いた。指先が半透明の体に軽く埋まる。
……そんなアダルトな性質までいたのか、スライム……。
「普通に放出するより、体液――特に、精液が含む魔力のほうが凝縮されてるんだぜ」
にや、と楽しげに旭陽が犬歯を覗かせる。
つまり、スライムたちに人間を性的に食わせろと。
うん、まあ……それなら、まだ死ぬとも限らないか。生きられるとも限らないけど。
でも本当に、新種であるこいつらも体液から魔力を得られるんだろうか。
未知の領域すぎて、つい心配になってくる。
スライムたちに向けた視線で、旭陽もすぐに俺の懸念を理解したらしい。
「心配なら試してみりゃいいじゃねえか」
「……えっ」
大きな手が桃紅色を掴み上げて、俺の手に押し付けてくる。
そのまま、スライムを乗せた俺の手を自分の下肢へと持って行った。
「っ!? ま、待て旭陽……!」
「……ンだよ」
何故か積極的な男の力に逆らえば、不満そうに眉を寄せて鋭い眼光を向けられる。
「お、俺以外に触らせる気か!?」
動揺して、思わず本音を叫んでしまった。
旭陽はといえば、きょとんとした顔になって目を丸くしている。
「……お前、玩具とか嫌いなやつだっけ」
「それは別に良いけど! 俺が扱うからだろそれは!」
いや、こっちにそういう類の玩具とかあるのか分からないから使ったことないけどな!?
何が何だか分からなくなってきて、混乱しながら旭陽の肩を掴んだ。
丸めていた目を戻した男はといえば、おかしそうに笑って俺の手に腰を押し付けてくる。
「なら、晃が扱ってやりゃいいだろ……」
低く囁かれると同時に、手に乗っている半透明がぐにゃりと弾力性を大きく崩した。
手が流動体の体に包まれる。皮膚を伝って、体の中に何かが繋がった感覚がした。
「あきら」
首筋に熱い唇が押し付けられた。
もう殆ど反射的に欲が昂れば、手に纏わり付いていた桃紅がぶるりと震えた。
褐色の体を覆う服の隙間に、液体状になったスライムが潜り込む。
何故か、素肌に触れた感触が俺の手に伝わってきた。
「ッん……」
旭陽が微かに吐息を零す。
撫でてやりたいと思えば、するすると桃紅色が太腿を伝い下りていくのが分かった。
10
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました
志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」
そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。
その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。
罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。
無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。
そして、リシェリードは宣言する。
「この死刑執行は中止だ!」
その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。
白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる