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43 お付き合い
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「ということで、マルセルと付き合うことになった」
「よかったですね!! 私も応援した甲斐がありました!」
「雪音ちゃん、ちょっと声がでかい」
早速、雪音ちゃんに報告に行けば、彼女はバンザイして喜んでくれた。
マルセルは、まだ仕事が残っているとか言って早足に去って行った。思えば、俺は誘拐まがいの事件に巻き込まれたばかりであった。そちらの方もマルセルが色々と対処しなければならないのだろう。お忙しいことで。
てなわけで。
ひとり取り残された俺は、雪音ちゃんの部屋へと駆け込んだ。イアンもまだ戻らない。この興奮を伝えたくて、感情のままに語って聞かせれば、雪音ちゃんはニヤニヤ顔で聞いてくれた。
「でもよかったんですか?」
「なにが?」
「なにがって。カミ様、マルセル殿下相手にめっちゃキレてたじゃないですか。GPSの件とか、神様扱いとか、監禁とか? あと絶交してたのはどうなったんですか?」
「あぁ、それ」
確かに、マルセルとの間には色々なごたごたがあった。けれども。
「別にもういいかなぁ。だって俺、マルセルのこと好きだし」
「吹っ切れ方がすごい」
若干引いてしまう雪音ちゃんは、けれどもすぐに笑顔に戻ると「お祝いしましょう!」と非常にハッピーな提案をしてくる。
それを受けて、雪音ちゃんの護衛さんである例の茶髪青年がお茶の準備をしてくれる。
こうして俺は、めでたくマルセルと恋人になった。
※※※
「なんでさ、寝る前になって俺の部屋に来るの? 下心でもあるのか?」
「どうしてそういうことを直球で訊いてくるんですか」
その日の夜。
当然のような顔で、部屋にやって来たマルセルを仁王立ちで出迎える。
先程までイアンが一緒に居たのだが、マルセルの姿を見てから出て行ってしまった。
あとは就寝するだけという時間なのに、マルセルはかっこいい。じっと顔を見つめていると、彼は照れたように頬を掻く。
「下心を持ってはいけませんか?」
拗ねたように問われて、ちょっとドキッとしてしまう。
「いや、ダメというわけでは」
こっちまで照れくさくなって、ふいっと視線を逸らす。なにこの空気。恥ずいからやめてほしい。
そうして互いに無言で佇む。マジで気まずい。今すぐ叫んで、このもどかしい空気を壊してやりたいくらいである。
でも喉の奥でつっかえたように、言葉が出てこない。え、俺なんでこんなに緊張してんの。ライブの時でさえ、ここまで緊張したことはないぞ。
内心パニックになっていると、マルセルが動いた。
「とりあえず、座りませんか」
「そ、そうだね」
勧められるがままに、ベッドに腰掛ける。俺のベッドだけど。我が物顔で「どうぞ」と言ってくるマルセルに、ツッコんでいる余裕はなかった。
そうしてふたり並んで座ってみる。緊張を誤魔化すように、足をぶらぶらさせていると、マルセルの手が俺の手に重ねられた。
「ミナト様」
顔を覗き込まれて、心臓が音を立てる。
「マルセル、あの」
「ん?」
「ミナトって、呼んでいいよ。その、様付けはちょっと」
もう俺は神様ではない。だから呼び捨てでいいと伝えると、マルセルが俺の肩に腕をまわして引き寄せてくる。こてんと、マルセルの肩に寄りかかるような形になり、顔に熱が集まる。
「ミナト」
「っ!」
不意に呼ばれて、息を詰める。なにこれ。めっちゃ恥ずいんだけど。
ばくばくとうるさい心音に、まともにマルセルの顔を見ることができなくなる。色々と限界で、黙り込んでいると、突然ベッドに押し倒された。
「え、ちょ」
「ミナト。いい?」
やめろ馬鹿! ミナトとか呼ぶな! いや呼べと言ったのは俺だけどさ。やっぱりダメだ。撤回したい!
ひぇ、とパニックになる頭でそんなことをぐるぐると考える。今すぐに呼び捨て禁止にしたいが、言葉が出てこない。
そんな俺に覆い被さってきたマルセルは、相変わらず顔が良かった。ぐっと眉間に皺を寄せて、なにかを堪えるような顔をして見せるマルセルに、こっちが照れてしまう。
そうして慈しむように、俺の頬に手が添えられたところで。
気が付いた。
「え、マルセル。ちょっと待って」
「待たない」
「いや待て!」
声をあげるが、マルセルは止まらない。そうしてキスされそうになった瞬間、俺はありったけの力でマルセルの胸を押し返した。
「ちょっと待った!!」
「……なんですか」
びっくりしたらしいマルセルは、ようやく動きを止めた。
「もしかしてだけどさ、マルセルおまえ」
「はい?」
「俺のこと、抱こうと思ってる?」
「……え、それ以外になにが?」
目を見張るマルセルは、意味がわからないと怪訝な顔をしている。意味がわからないのはこちらの方だ。マルセルを退かして、ベッドの上に座り込む。ここはすごく大事なところである。妥協はできない。
いまだに怪訝そうに首を傾げるマルセルを見据えて、指を突きつけておく。
「なんで当然のように自分が抱く側だと思っているわけ? 俺がマルセルを抱く可能性については考えないわけ?」
「……は?」
真顔になってしまうマルセルは、俺の記憶にある中で、一番低い声を発した。文句でもあんのか、こら。
「よかったですね!! 私も応援した甲斐がありました!」
「雪音ちゃん、ちょっと声がでかい」
早速、雪音ちゃんに報告に行けば、彼女はバンザイして喜んでくれた。
マルセルは、まだ仕事が残っているとか言って早足に去って行った。思えば、俺は誘拐まがいの事件に巻き込まれたばかりであった。そちらの方もマルセルが色々と対処しなければならないのだろう。お忙しいことで。
てなわけで。
ひとり取り残された俺は、雪音ちゃんの部屋へと駆け込んだ。イアンもまだ戻らない。この興奮を伝えたくて、感情のままに語って聞かせれば、雪音ちゃんはニヤニヤ顔で聞いてくれた。
「でもよかったんですか?」
「なにが?」
「なにがって。カミ様、マルセル殿下相手にめっちゃキレてたじゃないですか。GPSの件とか、神様扱いとか、監禁とか? あと絶交してたのはどうなったんですか?」
「あぁ、それ」
確かに、マルセルとの間には色々なごたごたがあった。けれども。
「別にもういいかなぁ。だって俺、マルセルのこと好きだし」
「吹っ切れ方がすごい」
若干引いてしまう雪音ちゃんは、けれどもすぐに笑顔に戻ると「お祝いしましょう!」と非常にハッピーな提案をしてくる。
それを受けて、雪音ちゃんの護衛さんである例の茶髪青年がお茶の準備をしてくれる。
こうして俺は、めでたくマルセルと恋人になった。
※※※
「なんでさ、寝る前になって俺の部屋に来るの? 下心でもあるのか?」
「どうしてそういうことを直球で訊いてくるんですか」
その日の夜。
当然のような顔で、部屋にやって来たマルセルを仁王立ちで出迎える。
先程までイアンが一緒に居たのだが、マルセルの姿を見てから出て行ってしまった。
あとは就寝するだけという時間なのに、マルセルはかっこいい。じっと顔を見つめていると、彼は照れたように頬を掻く。
「下心を持ってはいけませんか?」
拗ねたように問われて、ちょっとドキッとしてしまう。
「いや、ダメというわけでは」
こっちまで照れくさくなって、ふいっと視線を逸らす。なにこの空気。恥ずいからやめてほしい。
そうして互いに無言で佇む。マジで気まずい。今すぐ叫んで、このもどかしい空気を壊してやりたいくらいである。
でも喉の奥でつっかえたように、言葉が出てこない。え、俺なんでこんなに緊張してんの。ライブの時でさえ、ここまで緊張したことはないぞ。
内心パニックになっていると、マルセルが動いた。
「とりあえず、座りませんか」
「そ、そうだね」
勧められるがままに、ベッドに腰掛ける。俺のベッドだけど。我が物顔で「どうぞ」と言ってくるマルセルに、ツッコんでいる余裕はなかった。
そうしてふたり並んで座ってみる。緊張を誤魔化すように、足をぶらぶらさせていると、マルセルの手が俺の手に重ねられた。
「ミナト様」
顔を覗き込まれて、心臓が音を立てる。
「マルセル、あの」
「ん?」
「ミナトって、呼んでいいよ。その、様付けはちょっと」
もう俺は神様ではない。だから呼び捨てでいいと伝えると、マルセルが俺の肩に腕をまわして引き寄せてくる。こてんと、マルセルの肩に寄りかかるような形になり、顔に熱が集まる。
「ミナト」
「っ!」
不意に呼ばれて、息を詰める。なにこれ。めっちゃ恥ずいんだけど。
ばくばくとうるさい心音に、まともにマルセルの顔を見ることができなくなる。色々と限界で、黙り込んでいると、突然ベッドに押し倒された。
「え、ちょ」
「ミナト。いい?」
やめろ馬鹿! ミナトとか呼ぶな! いや呼べと言ったのは俺だけどさ。やっぱりダメだ。撤回したい!
ひぇ、とパニックになる頭でそんなことをぐるぐると考える。今すぐに呼び捨て禁止にしたいが、言葉が出てこない。
そんな俺に覆い被さってきたマルセルは、相変わらず顔が良かった。ぐっと眉間に皺を寄せて、なにかを堪えるような顔をして見せるマルセルに、こっちが照れてしまう。
そうして慈しむように、俺の頬に手が添えられたところで。
気が付いた。
「え、マルセル。ちょっと待って」
「待たない」
「いや待て!」
声をあげるが、マルセルは止まらない。そうしてキスされそうになった瞬間、俺はありったけの力でマルセルの胸を押し返した。
「ちょっと待った!!」
「……なんですか」
びっくりしたらしいマルセルは、ようやく動きを止めた。
「もしかしてだけどさ、マルセルおまえ」
「はい?」
「俺のこと、抱こうと思ってる?」
「……え、それ以外になにが?」
目を見張るマルセルは、意味がわからないと怪訝な顔をしている。意味がわからないのはこちらの方だ。マルセルを退かして、ベッドの上に座り込む。ここはすごく大事なところである。妥協はできない。
いまだに怪訝そうに首を傾げるマルセルを見据えて、指を突きつけておく。
「なんで当然のように自分が抱く側だと思っているわけ? 俺がマルセルを抱く可能性については考えないわけ?」
「……は?」
真顔になってしまうマルセルは、俺の記憶にある中で、一番低い声を発した。文句でもあんのか、こら。
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