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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
歴史に名を残した悪女
しおりを挟む「嫌われ者の悪役令嬢の癖に!! 私のアレクを返しなさいよ!!」
余裕がなくなって来たわね。過去世の呼び方になってるわよ、糞女神。昔から思ってたけど、ほんと人間臭い神よね。それも、残念さが酷い方のね。
ヒステリックに怒鳴っている間も、攻撃は続いている。ヒステリックさが上がるほどに、攻撃力も上がっている。作戦通りね。我ながら、地味でセコい作戦を思いついたと思うわ。
最初はスピード勝負だと、殿下も私も思っていたのよ。だって、どんなに人間臭くても一応神だからね。実力差はどうしてもある。学園の地下にいた大蛇も、実はAランクの魔物だった。アレが何匹も出て来た後にラスボス相手は、さすがに殿下と一緒でもキツイからね。インディー様がいても。だから、持久戦は不利だと思っていた。
でも、今は私たちだけじゃない。神獣様が同行してくれてる。これってかなり大きいわよ。
だから、戦い方を変えた。
より確実に、糞女神を追い込む方法に。セコくて地味だけどね。弱い者には、それなりの戦い方があるのよ。傍から見たら、眉を顰めるやり方でも勝てばいいのよ。勝てばね。
結界は神獣様に任せて、私と殿下は次々と蛇を退治していく。最高のコンビネーションでね。それが、却って糞女神の勘に触るのがわかっててね。
「生意気なのよ!! 人間のくせに!! アリエラ!!」
懐かしいわね、その名前。
今まで一番の神力の放出量ーー
「俺の最愛に指一本触れさせるか!!」
殿下が叫ぶ。それは、心からの叫びのように私には聞こえた。叫びと同時に、蛇の胴体が縦に裂かれる。
大蛇は冷たい床に触れると同時に黒く光り消えた。
さすがに、連続はキツイわね。でも、確実に神力は減ってきている。屋敷を覆い尽くしている邪悪な力の炎が、下火になってきたのを感じた。
それも、演技かもしれないけど……
そんな弱気な考えが頭を過る。それを振り払うと、私は言い放つ。
「もう、それで終わり? 首を洗って待っていなさい、糞女神。アレクと私が貴女に引導を渡してやるわ」
「無事辿り着けると思ってるの!? おめでたい頭ね。そこまで言うのなら、待っててあげるわ、アリエラ」
その声と同時に攻撃が止んだ。
大きく息を吐き出してから、私と殿下は後ろを振り返る。
「大丈夫ですか?」
「怪我はないか?」
インディー様に尋ねた。いくら戦闘に慣れていても、これはキツイでしょ。
「……大丈夫です。それよりも、アレク……? アリエラ? それって……」
インディー様の疑問は当然よね。殿下が私に視線を向ける。私は軽く頷いた。
「インディー、それは、俺たちの過去世の名前だ」
どこか緊張した声音で、殿下は静かに告げた。
「……では、殿下は嘗て勇者だったと……そして、マリエール様は勇者を殺した、最強最悪の悪女なのですか……」
最強最悪の悪女ね……
そう、歴史書には記載されているわね。ある意味、歴史に名前を残したわけだけど、さすがに、それを知った時は暫く落ち込んだわ。
「まぁ、確かに殺したといえば殺したわね。私たち心中しましたから」
「心中!?」
インディー様の目が驚きで見開いている。
「そう、心中。無理心中ではありませんよ。理由は身分差を儚んでですね。そういえば、悲恋に聞こえますね」
「十分、悲恋だろ。元々、俺が勇者と呼ばれる前から愛し合っていたんだ。アリエラが公爵令嬢。俺はただの平民。身分差があった。勇者になったのも、アリエラと結婚するためだ。だが、いざなり、魔王を倒すと、当時の聖女と俺に勇者の力を与えた糞女神が反対しだした。アリエラは魔女だから駄目だと。神と聖女の言葉に国は無条件に信じた。その後は容易に想像出来るだろ」
「だから、心中を?」
「ああ。そうしなければ、俺たちは一緒になれなかった。アリエラは国に殺されただろ」
逃げ出した次の日に捕まるはずだった。その数日後は死刑されてたわね。心中しても、結局、一緒にはなれなかったけど。
「魔女は当時、市中引き回しのうえ火炙りの刑でしたからね。でもまさか、私が勇者を殺し、無理心中したことにされてたとは……」
「体裁を保つためだな」
でしょうね。とても腹立たしいけど。悪者を仕立てることで、勇者の死に対するダメージを最小限したのよ。代わりに、私は徹底的に攻撃された。今もね。だって、子供が悪いことをすると、「アリエラが迎えに来るよ」って親が叱るんだからね。マジ、へこむわ。
「…………だから、殿下とマリエール様は、昔からどこか通じるところがあったのですね」
憑き物が落ちたかのような表情でインディー様は呟いた。
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