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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします

至急教えてください

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 ドアをノックしようとしたら、中から聞こえるのはアルフ義兄様と義母様の慌てた声だった。

 どうやら、私が消えたことに気付いたようだ。責められてる騎士様たちは災難ね。別に彼らは仕事をサボってたわけじゃないのに。原因は私だけど。

 私はドアをノックした。と同時に、ドアの横に控えていた騎士は私の存在に気付いたようだ。驚愕する騎士を横目に、私はさっさとドアを開け室内に足を踏み入れる。マリアとアインも一緒に。

「義母様、アルフ義兄様、私をお探しでしょうか?」

 声を掛けると同時に魔法を解いた。

「「マリエール!?」」

 義姉様から聞いていたとはいえ、今の私を見て即座に名前を呼ぶなんて。きっと、マリアとアインがいるからね。

「はい。ご無沙汰しております」

 私は軽く頭を下げる。

「…………本当に、マリエールなの? どこも、怪我はない?」

 義母様は私を抱き締め、そう尋ねる。背中に回り掛けた手を止め、下におろした。そんな私の様子を、アルフ義兄様と義姉様はなんとも言えない表情で見ていた。フランクは険しい表情をしている。

「大丈夫ですわ、義母様。あれぐらいのレベルで私がヤられることはありませんわ」

「だとしても!! これ以上、無理はしないで!! 心配なのよ……とても、心配なの」

 義母様の声は震えていた。心から私を心配してくれてる気持ちが伝わってくる。それでも、私は……

「申し訳ありません……」

 可愛くない返事しか返せなかった。

「…………間違いなく、マリエールだわ。それで、どうしてこの姿に?」

 判断した理由がそれって、ちょっと複雑な気持ちになるわね。それは横に置いといて、尤もな質問よね。

「そのことについては、義母様でもお話することはできません」

 下手に嘘を吐いて、この人たちを誤魔化せるなんてはなから思わない。なら、こう答えるしかないわ。

「……言えないのね」

「申し訳ありません」

 同じ言葉を繰り返す私を、義母様は真正面から見詰めると、小さく溜め息を吐いてから答えた。

「…………わかったわ。もう訊かない。一緒に、家に帰りましょ」

 当然のように誘われた。

「それは、できません」

「何故?」

「やるべきことがありますので」

「それは何? と訊いても、教えてくれないのね」

 悲しげにそう問う義母様に、私は軽く頷く。フランクの表情はいっそう固くなる。

 フランクにとったら、半々でしょうね。自分たちの態度が原因なのと、胡散臭さで。そりゃあそうよね。王太子殿下の婚約者が姿を変え、隠密行動しているのだから。

「…………申し訳ありません。ただ、勘違いなさらないでくださいませ。義姉様の言葉を遮った護衛騎士のせいではありません。あくまで、私の私用です。もし、彼を罰するとお考えならば、止めて頂きたい。反対に、報奨を与えるべきだと私は思います。何故なら、彼は護衛騎士としての職務を全うしただけなのですから。マリアとアインの件は、親族でも内緒にしなければなりません。それほどの事柄です」

 そう告げると、義姉様がポツリと呟くように言った。

「マリエールは家族だわ」

「そう思って頂き、心から嬉しいですわ。……確かに、私はグリード公爵家の人間です。義姉様の義妹ですわ。でも……この領地に一度、それも四年前に訪れただけ。それも、一日足らずしか滞在しておりません。領地に足を向けない義理の妹が、姿を変え領地に来ている。誰にも内緒で。護衛も付けずに。普通、それだけでも十分怪しいですわ。なのに、例の誘拐未遂事件が起きた。私を誘拐犯の仲間とは疑わなくても、かなり疑わしい存在だったでしょう。私でも疑いますわ。タイミングが良すぎるもの。そう思いませんか?」

 そう問い掛けると、義姉様は難しい顔をしながら黙り込む。アレフ義兄様も義母様も。

「……マリエールの言う通りだな」

 アレフ義兄様が苦笑いをしながら告げた。

 これで、護衛騎士たちは咎められることはない。ホッと胸を撫で下ろす。

 間違いは正さないとね。彼らの思惑は別でも。……それにしても、そんなに驚かなくてもいいでしょ。そんなに意外だった? 彼らの中で、どう思われてるかわかるわね。まぁいいけど。

「それはそうと、私が公言できないように、魔法誓約を結びたいのですが……宜しいですか?」

「「「「魔法誓約!!」」」」

 えっ、何で、そんなに驚いてるの!? 当然の処置だよね。な、何で泣きそうになってるの!? フランクもアレフ義兄様も、そんな悲痛そうな表情をして。私、そんなにおかしなこと言った!? 誰か教えて!!




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