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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします

過去に戻れたら(カイン視点)

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「あぁ!? 近いぞ。蠅は蝿らしく、木や壁に張り付いてろ」

 水晶内に映る映像には、育ちのいい騎士崩れの冒険者が二人映っていた。俺のマリエールと楽しそうに話している。それを見ながら、俺は苦々しい表情で悪態を吐く。じわじわと殺気を放ちながら。

 当然、蝿の正体は把握している。

 忌々しいことに、グリード公爵家の専属騎士だ。そうでなければ、即排除できたものを。もし、愚かにも手を出そうものなら、グリード公爵家の騎士でも許しはしない。腕を切り落として、騎士でいられなくしてやる。構うものか。命を取らないだけましだろ。

 あ~~いつ見ても、どの角度から見ても、マリエールは可愛過ぎる。笑い掛けている相手が俺じゃないのが心底腹立たしいが。それにしても、マリエールは随分気を許しているな。その何気ない表情が男心を擽ることを、マリエールは全然わかっていない。自己評価が低過ぎるからだ。

 何度、可愛いって繰り返しても、惚れた欲目でしか捉えられていないからな。育った環境が悪かったから、仕方ないとは思うが……少しは、警戒感を持っていてほしい。警戒感を持ってもらうために、どうしたらいいのか……ほんと、悩みが尽きないな。

 マリエールの側に、俺以外の男が立つのは許せないが、今マリエールがいる場所が、公爵家の領地内だからな、専属騎士が護衛に付くのは理解できる。できるが、腹立たしくて腹立たしくて仕方ない。頭と心は別物だな。

 マリエールが、あの腹黒神の命で一人行動しているのは気に入らないが、マリエールの身を気遣えば、腹黒神の計らいはちょうど良いタイミングだった。じゃなければ、認めはしない。

 マリエールはいつも頑張りすぎる。疲れを感じないわけじゃないのに、休もうとはしない。いや、休むという行為を知らないのだ。あの厳しい環境の中で生き抜いた故の弊害か……もっと早く、手を差し出せれば……自分自身に腹が立つ。悔しくて堪らない。

「…………過去に戻れたら……」

 俺はマリエールを攫って囲う。どんなに抵抗されても。

「それは犯罪です、殿下」

 従者であり幼馴染でもあるインディーが呆れながら突っ込む。

 声に出していたか……

「声に出していなくても、その顔を見ればわかりますよ。それで、サクヤはどうします? マリエール様の居場所を教えますか?」

 サクヤは王家が付けた、マリエール専属の護衛だ。厳密に言えば、学園長叔父の子飼い。ゆえに、サクヤは糞女神の討伐、邪教徒の本拠地の襲撃には関わってはいない。

「教える必要はない。何も知らないからな。それに、裏切り者はマリエールの側に置きたくはない」

 サクヤは選択し選んだ。

 護衛するマリエールよりも、上司である学園長の命をーー。

「裏切ったわけではないのでは?」

 インディーの言う通りだ。インディーもまた暗部の一人だからな。内心、複雑だと思う。だが、これだけは譲れない。

「サクヤを責めるつもりはない。あの場面において、その選択は間違いではないからな。暗部としては優秀だ。だけど……俺の大切なマリエールを護る者としては失格だ。逆に、マリエールに護られるんじゃないのか。だとしたら、本末転倒もいいところだろ。盾にならないなら、いらない」

 はっきりとそう告げると、インディーは頷き答えた。

「そうですね、わかりました。マリエール様がお戻りになられた時は、サクヤは表面上での護衛に回すよう手配致します」

「ああ、頼む。……インディー」

「はい」

「何故、話さなかった?」

 糞女神と俺たちの関係。過去世アレクの話を、インディーは誰にも話さなかった。父上にも母上にも、そして、叔父にも。

「話してよかったのですか?」

 反対に問い掛けられた。

「いや……それは……」

 言い淀む。正直、困る。

 到底、信じられない話だし、マリエールがアリエラだと知られれば、今以上に好奇で悪意がある視線に晒されるだろう。それだけは避けたかった。糞女神が邪神だったと公表しても、それが民へと浸透するには、かなりの時間が掛かる。その間、マリエールは悪意に晒されるのだ。

「マリエール様をお護りしたいのでしょう。なら、黙っているのが一番いいのでは。陛下と妃殿下は、ある意味納得するでしょうが」

「そうだな。……すまない、インディー」

 俺がそう言うと、インディーが目を丸くし驚いた。

「しおらしい殿下って、初めて見ますね。マリエール様なら、絶対、映像に残していましたね。惜しいことをしました」

 ニヤリと笑いながらそう告げると、インディーは俺に怒鳴られる前に退散した。

 本当に、俺には勿体ない奴だ。

「……魔猪のシチューか、俺もマリエールの手料理が食べたいな。でもその前に、俺とマリエールの邪魔をする奴を潰さないとな」

 誰も居なくなった室内で、俺はポツリと呟く。水晶の中で笑っているマリエールを見詰めながら。

 
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