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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
只今、解体中
しおりを挟むゾクッ。
寒気が走った。
「どうかしたのか?」
神獣様が目敏く気付き尋ねる。
「寒気が……」
「風邪か?」
「う~ん、この感じは風邪ではありませんね」
説明しにくいのだけど、なんとなく違うのよね。風邪とは。となれば、理由は一つよね……
神獣様も察したのか、とても嫌そうな声を上げた。
「……あいつか」
よくわかってらっしゃる。
「たぶん、見ているのでは」
内容が内容だけに、自然と小さい声になるけど、神獣様にははっきりと聞こえているから大丈夫。
「本当に、大丈夫か?」
神獣様って、意外と良識人なんだよね。人じゃないけど。そう尋ねる神獣様も、殿下が私に対して直接何かするとは思ってはいない。ただ、見えない所で、色々進行しそうなのが心配なだけ。例えば、監禁とか。
「たぶん、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます、神獣様」
断言できないのが悲しいわね。それでも、ニコッと微笑みながら答える。
元から拗れた関係ですからね。それプラス、拗れた時間が長過ぎます。今から、一般常識内の範囲にもって行くことは無理でしょ。もしできるのなら、とうに矯正してますわ。
やや危ない内容は、口に出さずに胸の内で。
「まぁ……そうだが」
打算もなにもなく、親身になって心配してくれる神獣様。
胸の当たりがほんわかと温かくなる。
「おいっ!? 顔と動作があってないぞ!!」
幸せに浸っていると、無粋な声が水をさす声がした。ジョン君だ。
「ちょっとは空気読んでくださいよ、ジョン君」
文句を言いながら魔猪を解体中。
まずは、風魔法で魔猪の首をスパンと切断する。後で牙も採取しないとね。討伐の証拠になるし、売ればお金になるからね。でもその前に、ナイフを魔猪の腹に突き刺し、素早く内蔵を取り出さないと。せっかくの肉が臭くなっちゃう。
隣では、神獣様が口元を真っ赤に染めて魔猪の肉に舌鼓中だし。
二頭討伐したから、大きい方を神獣様に。といっても、どっちもニメートル超えているからね。食べごたえあるわ。腐ると困るから、余った分は下処理をしてから凍らせて保存しないとね。
「いやいや、何で、俺が怒られてるんだよ!?」
真っ青な顔で怒鳴るジョン君。フランクは黙々と作業を手伝ってくれてる。両手を真っ赤に染めてないのはジョン君だけ。
「文句を言っている暇があったら、手伝ってください。血の匂いにつられて、魔物が来たら困るでしょ」
内蔵を片手にジョン君に言うと、ジョン君は小さく顔を横に振りながら、消えるような声で「……無理」と呟く。
あ~これ以上突っ込んだら、倒れるパターンだわ。思わず、ジョン君の上司に視線を向ける。
「……フランクさん」
言いたいことわかるでしょ。
「これでも、だいぶんマシになった方だ。以前は、腹を割いたのを見ただけで倒れてたからな。内蔵を見ても倒れないのは、かなりの進歩だ」
苦笑しながら、フランクは答える。
マジ。駄目駄目でしょ。私もさすがにここまでとは思わなかったわ。
「騎士の採用試験、ハンターランクがB以上ないと資格がなかったのでは?」
言っている意味を理解したのか、更にフランクの苦笑が深くなる。
だって、討伐した証拠に、魔物の体の一部を持ち帰る必要があるのだけど、ジョン君にできたの?
「なんとか、牙と耳は切り落とせたようだ」
その時の様子が目に浮かぶわ。さぞかし、へっぴり腰でビクビクしながら作業したんだね、ジョン君。
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