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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
メンバーによりますね
しおりを挟む「……心配だからに決まっているだろ!!」
狭い小屋の中、声を荒げなくても聞こえてるのに。珍しく義父様は怒っていた。
本当に、私のことを心配してくれたんだと思う。その気持ちを疑ってはいないわ。だって、二週間は有に掛かる道のりを、十日、報せを受けた時間を差し引いて八日間で来てくれたんだから。かなり無理をしたと思う。目の下に隈を作ってるし、少しフラフラしてるしね。心配してくれてるとわかっていても、心から喜べない。素直になれない。日にちが経ち過ぎたわ。
だからか、どうしても固い口調になってしまう。
「大丈夫ですわ。義母様の手紙にも、私が無事であることは書かれていたと思いますが……あぁ、そういうことですね。私の不用意なことを言ったせいですね。申し訳ありません、義父様。私は無事ですので、ご安心くださいませ。ご迷惑をお掛けし、重ね重ね申し訳ありません」
軽く頭を下げ謝罪する。だって、義父様がここにいるってことは、その間、仕事が滞るってことよね。いくら執事のクライシスが優秀でも、最終判断は義父様しかできないし。印を持っているのも当主である義父様だけ。
「そんなことは、今はどうでもいい!! 無事かと訊いているんだ!!」
義父様は私の前まで来ると、ガシッと私の両肩を掴む。その目は真剣だった。
「……ご安心を。無事ですわ。怪我一つしておりません」
私が小さな声でそう告げると、義父様はホッとしたのか、床に座り込んでしまった。
「お、義父様!?」
その姿に、私は戸惑う。
「ならいい。よかった……本当によかった…………」
独り言のように呟く義父様の声が、狭い小屋に響いた。
私は唇をキュッと噛み締める。
勘違いしたらいけない。義父様はとても優しい方だ。一度懐にいれた人間は、なんとしても護ろうとする。犯罪者でもね。だから、領民にとても愛されている。私もその一人に過ぎない。
「そこまで、心配しなくても大丈夫ですわ。ところで、食事はおすみになられましたか? おすみになっていらっしゃらないのなら、一緒にどうです?」
このまま追い出すほど、私は鬼でないわ。それに、この重い空気をなんとかしたかったし。食べている間は話さなくてすむ。ただそれだけ。特に意味はないわ。
「…………いいのか?」
義父様が吃驚した表情で尋ねる。
そういえば、一緒に食事するのは久し振りよね。高等部に飛び級したくらいから機会は減ったけど、アイの事件以後は完全になくなったわね。
「私は別に構いませんわ。ただし、私一人ではありませんが、それで宜しければ」
「構わない」
義父様はどことなく嬉しそうだ。
反対に、フランクとジョン君は嫌そうだけど。頬が引きつってるものね。雇用主と同席。それも、家族問題に巻き込まれたなんて面倒以外ないわ。私が同じ立場だったら、即逃げ出したわね。
「神獣様もよろしいでしょうか?」
神獣様が嫌ならお引き取り願うわ。
「……神獣?」
義父様が目の前にいる白い狼を見詰めながら呟く。ああ、そのことは知らないわね。
「構わぬ。ただ、食べたらさっさと出て行け」
ペットだと思っていた狼が喋ったことに驚きながらも、義父様は騒がず席に着いた。訊かないなら、話す必要はないわね。
私はキッチンに戻り、全員の分のシチューを器によそう。ステーキとパンも。
戸惑う義父様。でも、口元は綻んでいる。
反対に、口元をピクピクと引つらせているのはフランクさんとジョン君。完全に逃げそこなったわね。絶対逃さないけど。覚悟して。最後まで付き合ってもらうから。
「マリエールが作ったのか?」
義父様が訊いてきた。
「シチューだけですけど」
訊かれた内容だけ答える。
「そうか……」
食事中の会話はそれだけ。後は黙々と食べたわよ。
たまには大勢との食事もいいなとは思ってたけど、メンバーによるわね。
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