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第六章 友人からお使いを頼まれました
愛してますよ
しおりを挟む楽しいことには、いつか終わりが来る。
始まりがあれば、終わりがあるのは自然の摂理。
楽しいことが永遠に続くなんて、夢の中の話だけ。
理解はしていたけど、あえて考えまいとしていた。ううん、違う……忘れようとしてたんだ。完全に忘れたりできないのにね。ひょっこりと思い出す。今みたいに。ほんと、私って馬鹿だわ。
思っていたよりも早いけど、そろそろかもしれない。
私の本体の【呪い】が解けるのはーー。
解けたら、私は戻らないといけない。カイン殿下の元に。そして私は、未来の王太子妃として最高位の貴族令嬢へと戻る。
堅苦しい、自分を偽り続ける世界に。
でもそれが、私の現実世界。
今生きているこの世界は、夢の世界。
『ならば、夢と現実を逆転すればよいではないか』
不意に、誰かが私に話し掛けてきた。
後ろを振り返ると、いたのはゼリアス創世神様だった。その横には、神獣様が控えていた。
すぐに私は、ここは本当の夢の中で、ゼリアス様に呼ばれたのだと察した。
『……それが簡単にできるほど、現実世界は単純ではありませんよ、ゼリアス様』
苦笑しながら、私は答える。すると、ゼリアス様は不思議そうな顔をしていて言った。
『そうなのか? ……複雑にしているのは、マリエール、お前たち人間だと思うが』
『複雑にですか……そうかもしれませんね。人間は欲深い生き物ですから』
その中でも、私はトップクラスだと思うけどね。
『マリエールは、カインと共に添い遂げたいと考えているのか?』
今まで、私とカイン殿下との関係性に突っ込んでこなかったゼリアス様が、珍しくグイグイときていることに首を傾げながらも、私は答えた。
『一応、婚約者ですから』
無難な答えかな。
『それを抜きにして、どう想っているのだ?』
『カイン殿下が婚約者でなければ、私は……結婚はしないと思います。恋人という関係にはなるかもしれませんが……そうですね、体の関係はならないと思います。相棒、仲間、その関係性が一番理想的ですね』
『つまり、愛していないんだな』
なぜか、神獣様が訊いてきた。私は首を横に振る。
『愛してますよ。大切な存在には変わりはありません。でも……異性同士が抱くような感情ではないだけです』
愛情の形が変わった気がする。
大昔はあったんだよ。
でも、大昔の時のような感情はと訊かれると、難しい。胸を焦がすような想いは持てない。
というか、よくわからなくなってきたの。これが、私の正直な気持ちかな。それをカイン殿下に話すつもりはないわ。波風を自分からたてる必要ないでしょ。愛情の形なんて様々。別に、恋愛感情が持てなくても夫婦にはなれる。運命共同体だもの。特に、貴族社会ってそうでしょ。珍しくもないわ。
『それが幸せとは、我は思えん!!』
神獣様が怒る。
『神獣様は本当に優しいですね。神獣様の妻になられる方は幸せですね』
私は心からそう思う。そして、羨ましくも思った。
なんでかな、神獣様の隣に私以外の女性が立つのがとても嫌だ。想像するのも嫌。でもそれは、私の我儘。だって……神獣様は、私に同情して、私を心配して、一緒にいてくれるだけだから。そんなことを考えていたら、
『違う!!』
神獣様が、初めて私に向かって声を荒げたの。
どうして? 私、なにかした? 不安な気持ちが一気に押し寄せてきた。神獣様に嫌われるのが、一番怖い。
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