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第七章 痺れを切らした婚約者が襲来しました

昔を思い出しました

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『簡単に、貴族籍を返上できるものなのか?』

 私とカイン殿下とのやり取りを黙って聞いていた神獣様が、そう訊いてきた。

「書類が揃えば簡単にできます。役所に提出するだけですから。でもそれなら、かなり時間が掛かりますね。早くて月単位。下手すれば、年単位になります。内密にことを進めるならなおさら掛かるでしょう。まぁバレたところで、邪魔はしてこないと思いますが。大変なのはカイン殿下ですね、辛うじてあった歯止めがなくなりますから」

 現時点で、全然機能していないと思うけど。

 現実問題、その書類作成が結構大変なんだよね。一度出せば取り返しがきかないから、特に。成人していたなら、自分の意思で抜けれるんだけど、残念なことに私はまだデビュタントをしていない。つまり、社会的には未成年ってこと。年齢的にはギリ成人してるけどね。ちなみに、カイン殿下はすでに成人済み。

 叔父様の養子になる前なら、家を出た時点で、喜んで毒親たちは死亡届を提出してくれたと思うけど、叔父様はそんなことしないよね……絶対に。それどころか、反対してくるわ。今も屋敷に帰らず、平民と同じような生活をしているけど、実際に平民になると話は別だし。魔法紙一枚の関係なんだけどね、あるとないとでは違うみたい。

『先に、こやつだけ平民になればいいのでは?』

 神獣様の意見はごもっとも。だけど、私は首を横に振る。

「それは駄目です」

「ああ、駄目だ。平民になるなら、マリエールと一緒でないと意味がない」

 さすがカイン殿下、わかってる。

 結果的に、私とカイン殿下が平民になれればいいから、神獣様の意見は全然アリだよ。でもそれは、私とカイン殿下にとっては悪手なんだよね。

『何故だ?』

 神獣様の疑問に、私はキッパリと言い放つ。

「だってそれじゃあ、攻撃力が半減するじゃないですか。駄目ですよ。そうですよね、カイン殿下」

 私、今、すっごく悪い顔をしてるわね。昔を思い出すわ。

「ああ。俺たちに喧嘩を吹っ掛けてきたんだ、敵に甘い顔は命取り。俺たちを敵に回したことを、心底後悔させてやらなくちゃいけないよな」

 私に同意を求めてきたから、大きく頷く。

 私の前だからいいけど、人前でその顔はアウトですよ、カイン殿下。完全にラスボスで、何人もっちゃってる顔だから。

『…………そうか、平常に戻っただけだな』

 ポツリと呟いた神獣様の言葉が、やけに虚しく聞こえたのは私の気のせいかな。うん、そうしとこう。

「でも正直な話、そんなに時間ありませんよね」

 今回はじっくりと攻めるより、短い時間で攻略すべき件だわ。お父様の説得に時間を掛けてる暇がない。最悪、年跨ぎそう。

「安心しろ、マリエール。どんなことにも、裏道ってあるんだ」

 大勢の人を落とせる王子スマイルで、カイン殿下は言った。内容はとても褒めたものではないけどね。






☆☆☆

 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
 
 読者の皆様の応援のおかげで、日々頑張れてます。

 知っているかもしれませんが、新作を発表しています。初の児童書ですね。

 タイトルは【こうなったら、頑張るしかないでしょ】です。

 内容は、両親大好きっ子平民聖女様とモフモフ聖獣様との出稼ぎライフです。

 もしよかったら、読んでもらえるととても嬉しいです。

 これからも、頑張って書いていきますね。


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