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第七章 痺れを切らした婚約者が襲来しました
平常運転ですね
しおりを挟むカイン殿下は私の腕を掴むと強引に立たせた。
「じゃあ、早速行くぞ」
「どこに?」って訊こうとしたら、遠くから女性の金切り声が聞こえてきた。このての声、何度か聞いたことがあるわ。
うん、視線を向けなくてもわかるよ。王女様、完全にカイン殿下のことをストーカーしてるね。かなり重症のタイプとみた。普通、学園の敷地内の端っこに現れたりはしないわよ。マジ引くわ……カイン殿下も変な人に好かれたものね。見た目だけはイケてるから。
『マリエールはそれ以上のことをされているだろ?』
神獣様がぼそっと呆れながら突っ込みをいれてきた。
「あっ、そういえばそうですね」
それが平常運転だったので、少し感覚が鈍っていたのかも。うん、されてたね。常に私がいる位置を把握されてたし、盗聴もされてた。私の方が酷いよね。それにしても、自分に対しては鈍っていたのに、他の人がすることに引くのはおかしな話よね。
そんなことを考えながら、のほほんと会話をしていたら、騷しい声が一段と大きくなった。王女様って走るんだ。すっごい必死ね。ちょっと笑えるんだけど。
その必死さはわかるけど、今、私たちが対峙するのは避けたほうがいいわね。一応、私変装してるし。いらん、火の手が上がりそうだわ。
「マリエール、走るぞ」
カイン殿下は掴んでいたままの手を放し、今度は手を強く握ると走り出した。指を絡めて繋がれると、走りにくいんだけど。
それでも、私たちに付いて来れる人ってまず学園内にはいない。なので、あっという間に逃げ切ることができた。
人気がないのを確認してから、カイン殿下は私を抱き寄せ耳元で言った。あまりにも手慣れてたから、抵抗できなかったよ。
「邪魔が入ったが、行くか。ちゃんと、掴まってろよ」
いや、転移魔法で行くのはわかったけど、こんなに密着する必要性ないよね。そう反論したいけど、術の行使中だから我慢した。
飛んできた場所は、見慣れた部屋だった。ここ最近は、全く来ていなかったけど。
「……全然、変わっていませんね」
「ここには寝に帰るだけだったからな」
「あ~神殿の地下にいたようですからね」
ちょっと不快感を込めて言ってやった。
「マリエールの傍が一番落ち着くんだから仕方ないだろ」
そんなことを言われても、ちっともときめかない。
「…………何もしてませんよね」
コレ大事なことだからね。さすがに、大聖女様の前や大神殿の中で、そんな破廉恥なことは訊けないからね。
「俺が意識のない女に何かするヤツだと思っているのか?」
不機嫌そうにカイン殿下は答える。
その様子じゃあ、何もなかったんだね、ほんとよかった……二か月後悪阻になったら、マジで洒落になんない。ホッと胸を撫で下ろす。
「するヤツだと思ってるから、マリエールは訊いているのではないか」
この話はここまでにしようと思ってたのに、神獣様がカイン殿下を煽ってきた。
当然、カイン殿下はスルーしないよね。神獣様が相手なら特に。
「俺が獣だと言いたいのか!!」
殺気がぶつかる、ぶつかる。
小物品が触れずに壊れたよ。いきなり王宮で起きた異常事態。慌てて、近衛騎士が飛び込んで来たよ。でも、何もできずに固まっている。まぁ、この殺気を浴びればそうなるよね……
近衛騎士たちがあてにならないのなら、しょうがないわね。私は扉の近くに置いてある花瓶を持ち上げると、カイン殿下と神獣様の元に戻った。どうするかわかるよね。
「いい加減にして下さい!!」
中身を全部ぶち撒けてやった。
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