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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
決別
しおりを挟む「……意外だったな」
並んで廊下を歩いていると、ポツリとカイン殿下、いえカインが呟く。
「何がです?」
「まさか、グリード公爵が膝から崩れ落ちるとは思わなかった」
間近で、私と公爵様を見てきたカインにとって、その反応は驚いたでしょうね。疑問を抱くのももっともだと思う。私はさほど驚かないけど。
「そうですね……それなりには、愛情はあったと思いますよ。おそらくあの瞬間まで、公爵様は修復できると信じていた。それができないと気付かされたから、崩れ落ちたのでしょうね」
「それって、あまりにも身勝手だろ!? 一切、護らなかったのにか? 学園で問題が起きた時、矢面に立っていたのはマリエール自身だろ。それに抗議文も、マリエールが口にして始めて送っていた。今回の件もだ。唯一、護ったといえるのは、マリエールを保護した時だけだろ?」
憤慨しているカインに、私は苦笑する。
「確かに、そうですね……でもあの時、私は嬉しかったのです。初めてでしたから。大人の男性に抱っこされたのは。同じ目線で話し掛けてくれたのは、公爵様が初めてでした」
今でも、不意に思い出すことがある。たぶん、私は一生忘れないだろう。あの温もりと声、そして抱っこされた高さから見た光景を。
愛情はあった。そのことを否定はしない。
「そうか……」
「ええ」
「……あいつは、大事なことを見落としていたんだろうな。だから、失うことになった」
少し考えたあと、淡々と告げるカインの言葉に私は小さく頷く。ほんと、カインって人をよく見ているわ。
愛情がなくて放置していたわけじゃない。今までの子育てもその方法だった。それで上手くいっていた。多少問題が起きても、処理し導けていた。だから、自信があったんだと思う。
そしてそれが、間違いだと気付いた時には、回復ができないまでに、私の心は離れていた。故に距離をとった。
ただそれだけのことーー。
「そうですね。その方法が成り立つのは、フォローがあってのことですわ。フォローも一切なく、放置し続けられた。人の心は強くはありません。自分を護ろうとします。結果として、心が離れ、期待しなくなった。それだけのことですわ」
公爵様の子育てが、それなりに上手くいっていたのは、お母様のフォローがあったから。でも、王都の屋敷にはお母様はいない。フォローする者が誰もいない。執事や従者にその役目は重すぎる。そもそも、彼らの仕事じゃないからね。
常に、公爵様は私の行動を把握していた。私がどこにいるかも把握していた。影を使って見張らせていたからね。
それは愛情があったからなのか、それとも、問題を起こされたくはないからなのか……今となっては訊けないことだけど、少ない会話の端々に、温かいものを感じていたのよ。
放置することのは子供を信用しているからだと、公爵様は考えていた。信じていた。でもね、年端のいかない子供を放置し続けるのはどうかと思う。必要な時に、手を差し伸べることができたうえで放置するならまだ話はわかるけどね。
一度離れた心が戻ることは難しい。とてもね。
私はこの決断が間違っているとは思わない。
どっちにせよ、私はもう二度と公爵様の前には姿を現すことはないだろう。絶対にね。
☆☆☆
最後まで読んで頂きありがとうございます。
とても励みになります。
お気付きの方も多いと思いますが、実は新作を連載中です。
タイトルは【こうなったら、頑張るしかないでしょ~両親大好きっ子平民聖女様とモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ~】です。
第一回きずな児童書大賞に参加しています。初の児童書ですね。
話の内容はタイトルからわかるかな。
これからも一生懸命書いていきますので、応援宜しくお願い致します。
応援ありがとうございます!
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