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65:終わる……のだろうか?

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午後、領主ヘラルドは、昼食の席である提案をしてくれた。それは「まだ案内していない、城の庭園を紹介しましょう」というものだ。これといった予定もなかったので、スノーと私は案内してもらうことにした。

一方のアルベルトは、視察の報告書を書く必要があり、庭園の案内は辞退した。だがミゲルとルイスはアルベルトの護衛につくが、マルクスを私の護衛につけましょうと言ってくれた。

アルベルトは当たり前のように、自身の三騎士の一人を、聖女である私の護衛につけてくれる。悪役令嬢パトリシアの時にはなかった気遣いだ。

もしパトリシアの信仰心が篤く、聖女として目覚めていたら……。アルベルトはカロリーナではなく、パトリシアを選んだのだろうか? あ、でも親同士の政治ゲームの勝敗もあるから……。悪役令嬢パトリシアの運命は、変わらなかったのだろう。

「ご覧ください、聖女オリビアさま、これは初代プラサナス城の領主イシドロの像です!」

庭園の案内をはじめた領主ヘラルドは、饒舌だ。
きっとこの城を訪れた様々な人に、何度もこの庭園を紹介しているからだろう。すべて頭に入っているようで、スラスラと花の名前や木の名前、置かれている彫像の説明をしてくれる。その話に相槌を打ちながら、私はアズレークのことを思い出していた。

アズレークは、小ホールに現れる50体近いゴーストを退治したと、気づいているだろうか? これですべてのゴーストを退治したと、分かっているだろうか。

……抜け目ないアズレークのことだから、すでに把握しているだろう。そして今日、廃太子計画を実行することにも、気づいているはず。

アズレークにとっては、ようやくこの日が来た、という気持ちなのだろうか。早く夜が来ないかと、待ちくたびれているのだろうか。

一昨日は思いがけず、アズレークと再会できた。
でも、もう、本当に会うことはない。
今晩、廃太子計画を無事遂行したら……。
全てが終わる。
終わる……のだろうか?
アズレークはそれで、本当に満足なのだろうか。

どうして最後の最後まで、アズレークのことが気になってしまうのだろう。

何度も。
何度も、魔力を送られることで、アズレークとの距離が近かった。

だからなんというか、情が移ってしまった、とか?

いや、もうアズレークのことを考えるのは、止めよう。もう二度と会えない相手なのだから。

計画を遂行し、自由を手に入れ、新たな人生をやり直そう。

気持ちを切り替えるため、領主ヘラルドの説明に、集中することにした。



待ち遠しい時は、時の流れを緩やかに感じ、避けたいと思う時は、時の流れが速やかになる。

庭園の散策を終えた後、あっという間に夕食の時間になった。

夕食の席で、「ゴーストも退治されましたので、近々舞踏会を開催しようと思います」と、領主ヘラルドがアルベルトに伝えた。元々アルベルト達が王都へ戻る前日に、舞踏会を予定していた。だがその前にも開催すると、勢い込んでいた。

この話を聞いたので、私は食後、領主ヘラルドに声をかける。

「舞踏会も開催されるとのことなので、退治しそびれたゴーストがいないか、今晩は巡回しますね」

廃太子計画を知らない領主ヘラルドは「ぜひお願いします。ありがとうございます」と両手で私の手をつかみ、拝むような仕草をする。ひとまずこれで城内を夜、ウロウロしても怪しまれない。

「しかし、聖女オリビアさま、夜の巡回をお一人で行うのですか?」

「ヘラルドさま、スノーを連れて歩くので大丈夫です。それにヘラルドさまの部下である騎士も、今日からは城内に配備されますよね。王太子さまの騎士もいますし、問題ありません」

そう。護衛のために騎士をつけてもらうことだけは、避けたい。だからさらに付け加える。

「それにいざゴーストが現れた時、私は退治に集中する必要があります。そばに騎士がいると、ゴーストの退治に集中できませんから」

「なるほど。聖女オリビアさま、それは尤もです。承知しました。では護衛の騎士は、不要ということで」

「ええ。不要です」

領主ヘラルドにニッコリと微笑み、自室へと戻った。
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