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66:もう後戻りはできない

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部屋に戻り、スノーと順番に入浴し、着替えを行う。
下着を身に着け、ガーターベルトをつけ、そこに短剣(スティレット)を装備する。

くるぶしまでの紺色のワンピースを着て、いつも通り、十字架のペンダントをつけ、白のベールを身につける。

ワンピースのポケットに、聖書の代わりに忍ばせた物。それは眠りの香(こう)。そして即効性のある眠りの香の欠片が入ったお守りだ。

身支度を整えた瞬間。
もう後戻りはできないと、決意が固まった。
深呼吸を終えた後。
改めてアルベルトの今晩の警備状況を、頭の中でまとめる。

ゴースト退治が無事終わったとはいえ、いきなり夜遊びをしようとはならないので、アルベルトの就寝時間は22時だ。

そして眠るアルベルトの警備に就く三騎士は……。

22時~24時:マルクス
24時~3時:ミゲル
3時~6時:ルイス

眠らせるのはマルクスとミゲル。
かなり打ち解けているマルクスなら、私の言葉を信じ、なんの疑いもなく香を焚いてくれるだろう。ミゲルもとても紳士的にふるまってくれるし、香を渡せば喜んで焚いてくれるはずだ。

ミゲルの部屋を尋ねるのは、23時過ぎ。
その時間なら24時からの警備に備え、仮眠を終え、起きて準備をしていると、アズレークは言っていた。となると城の巡回をちゃんとしているとアピールするために、22時過ぎに部屋を出よう。

スノーは既に仮眠中。私は何をするか悩んだが……。
空白の時間ができると、ついアズレークのことを考えてしまう。だから聖書を読むことにした。

読むことにしたのだが。
目は文字を追っている。
でも頭の中では、アズレークのことを考えている。

計画を遂行する決意は、固まっているのに。
どうしてもアズレークのことを考えてしまう。

これではダメだ。
私は立ち上がり、部屋の電気を消す。
この部屋をアルベルトの寝室に見立て、動きの再確認を行う。

ベッドに近づき、即効性のある眠りの香の欠片が入ったお守りをかがせる。姿勢を確認し、仰向けでなければ調整をする。ベッドに乗る前に、短剣を顕現させる。そしてベッドに乗り、鞘から剣を抜く。剣を振り上げ、振り下ろす。

この一連の動作を、時間がくるまで、何度も何度も行った。



22時過ぎに部屋を出て、巡回を開始する。
ゴースト退治を行った、中庭、青い塔、小ホール、厨房、遊戯室と見て回る。歩きながら、廊下やいつも朝食をとる部屋などものぞくが、ゴーストはいない。

何度か警備の騎士に遭遇した。一瞬ドキッとする。
だが領主ヘラルドから私のことを聞いているからだろう。

会釈されるだけで、何も言われない。

安堵しつつ、三騎士の元に、剣の騎士ミゲルの部屋へと向かう。

途中、王太子の騎士にも声をかけられた。巡回していることを伝えると、あっさり納得される。護衛を申し出られるかと思ったが、さすがにそれはない。私はただの令嬢ではなく、ゴースト退治ができる聖女。よって護衛は不要と考えたのかもしれない。何より自身の持ち場を、緊急事態でもないのに、勝手に離れるわけにはいかない。そう、判断したのかもしれない。

ミゲルの部屋に着いた。
扉をノックして、名を名乗ると……。
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