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オーベルシュタイン、二度目の冬
第404話、大事なお話
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空の旅は肌寒く、やはり冬が近いと実感した。
ビッグバロッグ王国とオーベルシュタインの境界にある砦で一泊し、ビッグバロッグ王国へ向けて再び空の旅だ。
今回はまっすぐ王国まで飛んだので、速く到着することができた。
到着したのは、国内にあるドラゴンの発着場。ドラゴンロード王国とは同盟なので、こういった施設もしっかり整備されているのだ。
前回、前々回は使わなかったが、今回は使わせてもらった。
発着場から馬車に乗り換え、エストレイヤ家を目指して進む。
「にゃあ! いい匂いするー!」
「こらこら、観光はまだだよ。まずは俺の実家に帰るからね」
「にゃうー」
馬車の窓を開け身を乗り出すミュアちゃんを抱っこし、頭とネコミミを撫でる。
ウッドはシェリーに抱かれ、ルミナは俺の隣で本を読んでいた。
ミュディは、窓の外を見ながら言う。
「少しこっちも寒いね……やっぱり、冬が近いみたい」
「そうだな……」
道行く人々は皆、けっこうな厚着をしている。
俺たちもコートを着たり、マフラーで暖を取っている。ミュアちゃんにはネコミミニット帽を被せ、ルミナも同じものを被っている。
ウッドは寒いのか眠そうにしていた。
『クァ……ネムクナッテキタ』
「ウッド、眠いなら寝ていいからな? 家に着いたら庭に行っていいぞ」
『ワカッター……』
そろそろ、ウッドやベヨーテは家に連れて行った方がいいな。
俺の家の中に大きな植木鉢を用意して、そこで二人は冬を過ごす。家の中を歩くくらいしかできないけど……外に出ると凍ってしまうのだ。
その点、フンババは寒さに強い。以前、雪で自分の雪像作ってたしな。
馬車は貴族街に入り、坂道を進む。
ミュディの家を過ぎ、貴族街のほぼ頂上にあるエストレイヤ家に到着した。
めっちゃデカい門を抜け、家の前で馬車を降りると、父上の執事であるセバッサンが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。アシュト様、シェリー様」
「ただいま。セバッサン」
「ただいまー! リュウ兄いる?」
「ええ。ご主人様と一緒にいます。すぐにご案内いたします」
「ああ。よろしく……と、ウッド、庭の日当たりがいい場所で根を張っていいぞ」
『クァァ~……ワカッター』
ウッドは大きな欠伸をして、中庭へ。
うーむ。連れてこない方がよかったかな。上空が寒かったせいか、ウッドの元気がない。
肌寒いけど日当たりはいいし、日光浴で元気になるといいな。
荷物を全て任せ、俺たちは兄さんたちのいる客間へ向かった。
セバッサンが客間のドアをノックする。
「失礼いたします。アシュト様たちがお見えになりました」
『おお!! 入れ入れ』
父上の声が聞こえた。
セバッサンがドアを開け、部屋に入ると……。
「帰ったか、アシュト、シェリー」
「おかえり。さぁ、座って休め」
父上と兄さんがソファに座っていた。
「久しぶりだな、ミュディ」
「お姉さま、お久しぶりです」
兄さんの隣にはルナマリア義姉さんが座っている。
そして、驚いたことにヒュンケル兄もいた。席に座らず壁に寄りかかり、俺と目が合うなり片手を軽く上げる。
そして……小さな子供が二人いた。
「ふぁー……いっぱい」
「まま、だれー?」
2~3歳くらいの男の子、女の子だ。名前はスサノオとエクレール。
前に見たときは赤ん坊だったのに、身体も大きくなり髪も伸びている。
男の子はシェリーと同じ銀髪で、女の子は金髪だ。赤ん坊だったころは髪の色なんてわからなかったけど……こうしてみると、スサノオはルナマリア義姉さん、エクレールはリュドガ兄さんに似てるかも。
兄さんは微笑み、俺たちを紹介する。
「スサノオ、エクレール。この二人は父の弟と妹だ。つまり、お前たちの叔父と叔母に当たる」
「おじさま……」
「おばさま……」
エクレールが俺を、スサノオがシェリーを見る。
シェリーはスサノオに近づいてしゃがみ、自分のツインテールをひと房掴んでスサノオと見比べた。
「あたしはシェリーよ。ふふ、あなたの髪、あたしと同じ色ね。リュウ兄やルナマリアさんじゃなくて、あたしやお母さんに似たのかも」
「ほんとだ。えへへ、きれいな色です」
「そうね。あたしも嬉しいわ」
そして、エクレール。
「おじさま、おじさまはパパ……ちちうえの弟なのですか?」
「そうだよ」
「……なんか、あまりにてないのです」
「ぐっ……そ、そうだね」
ちょっとグサッときました。
まぁそうだよな……俺と兄さん、あんまり似てない。
エクレールを撫でると、エクレールはミュアちゃんとルミナを見た。
「ねこ……」
「にゃあ。ミュアだよ」
「……ふん、あたいはどうでもいい」
「ねこみみ、しっぽ……さわっていい?」
「いいよー」
「あたいはヤダ」
ミュアちゃんはエクレールをなでなでし、なぜかリュドガ兄さんの隣にエクレールと座り、尻尾をユラユラさせたりネコミミを触らせて遊び始めた。
ルミナはソファの後ろに座り、持参した本を読み始める。
俺たちもソファに座り、メイドが淹れてくれた紅茶を飲んで一息入れた。
すると、父上が言う。
「さてアシュトよ。何やら大事な話があるとか」
「あ、はい。その、何と言っていいのか……俺とシェリーとミュディの、今後に関わることなんです。実感がないので放置していたんですが、父上や家族たちにはきちんと説明しておこうと思いまして」
「ふむ?……何やら大事なことのようだの」
「はい。できればその、母上にも聞いていただきたいのですが……」
「……一応、呼んでいる」
父上は大きくため息を吐いた。
兄さんは小さく息を吐き、ルナマリア義姉さんは諦めたような表情になる。
すると、兄さんが言う。
「母上は、もう一年以上姿を見ていない」
「うむ……別宅に引きこもって出てこないのだ。わしですら数日に一度くらいしか見ていない」
「な、何ででしょうか?」
兄さんにしては珍しくどうでもよさそうだった。
「恐らく、今さらここに入ることなどプライドが許さないのだろう。ずっと我が子を放置し、結果しか見ようとせず、生まれた孫すら抱こうとしない……母は「リュドガ……」
ルナマリア義姉さんが止めた。
兄さんは口をつぐみ、父上が続ける。
「……今日、必ず顔を出すように伝えた。プライド云々ではない、家族の話すら聞けぬようならば……わしも考えなければならんだろう」
「……お父さん」
シェリーが察したのか、ため息を吐く。
もう、愛情なんてないのかな……正直、俺は顔もほとんど覚えていない。
すると、黙っていたヒュンケル兄が言う。
「……アシュト、どうする?」
「……うん、お願い」
「わかった。おいクロネコ少女、ミュア、スサノオとエクレール。あっちで菓子を準備しているから行こうぜ」
「にゃ! たべる!」
「ん……お腹減った」
「わーい!」
「おかしー!」
ヒュンケル兄は、子供たちを連れて出ていった……って、なんで全員が俺を見る?
リュドガ兄さんが言う。
「……アシュト、その、ヒュンケルの「どうする?」がなぜ子供たちを連れていくことにつながるんだ?」
「え? いや、「これから大事な話をするなら、子供はどうする?」って意味で、俺は「じゃあお願い」って……あれ、わからなかった?」
「お兄ちゃん、熟練夫婦じゃないんだから……」
「うむむ……ヒュンケルとアシュトがここまで通じ合っていたとは。なぁリュドガ、私もお前と心で会話してみたいものだ」
「確かに……なぁアシュト、どうすればいい?」
「いや、普通に……」
ちょっとドン引きレベルの会話だったらしい。
ヒュンケル兄とは子供のころからの馴染みだからこれくらい普通なんだよなぁ。
しばし談笑していると、部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします。奥様をお連れしました」
「……入れ」
父上の声が硬くなった。
セバッサンに連れられ母上が入ってきた。
「…………お久しぶりね、シェリー……そして、アシュト」
「お母さん……久しぶり」
「母上……」
厚手のドレス、シェリーやスサノオと同じ銀髪、手には大きな扇を持ち顔を隠して眼だけをのぞかせている。
兄さんは何も言わず、ルナマリア義姉さんやミュディも何も言わない。
ふと、俺は違和感を感じ取った。
「……アリューシア、こっちに来て座れ。茶を淹れよう」
「ここでけっこう。大事な話があるのなら早く始めてちょうだい。私も暇じゃないので」
母上は、扇で顔を隠したまま……座ることなく立ったまま言った。
これには兄さんが怒る。
「母上。久しぶりに顔を見せた我が子の話が、それほど退屈でしょうか?」
「…………」
「本当に、あなたは「リュドガ……」
またもやルナマリア義姉さんが止める。
母上の登場で一気に不穏な空気になってしまった。
父上はまたもやため息を吐き、俺に言う。
「アシュト、話を始めなさい」
「…………」
「アシュト?」
俺は、母上から目が離せなかった。
リュドガ兄さん、ルナマリア義姉さん、ミュディとシェリー、父上が首を傾げる。
母上も、俺の視線が気になったようだ。
「何か? 母の顔がそれほど懐かしいのかしら?」
「…………母上」
「何? 話があるならさっさと───」
俺は立ち上がり、母上の元へ。
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「アシュト!?」
「お、おい!?」
シェリー、兄さん、父上が驚きの声を上げる。
一番驚いていたのは、間違いなく母上だ。
俺は母上の手を掴む。
扇が落ち、顔があらわになる。
「な、なにを」
「…………」
厚い化粧をしていた。
香水も付けている。
だが……俺は誤魔化されなかった。
「母上、いつからですか……」
「…………」
「…………なんてこった」
顔は化粧で誤魔化しても、この手の細さは誤魔化せない。
それに……俺は薬師だ。怪我人や病人は山のように診てきた。
俺は、確認するように言った。
「母上、あなた……かなり深刻な病気を患ってますね」
「「「「「!?」」」」」
「…………」
全員が驚愕し、俺は父上に言う。
「父上、エリクシールの準備を」
「お、おお……」
「手遅れになる前でよかった。白目が黄色くなっているのがどうも気になってたんです。母上、化粧で誤魔化してますけど、顔の皮膚も黄色くなり始めてボロボロだったんじゃないですか? それに、爪も不自然に反り返っている……人前に出なかったのは病気だったからですね?」
「…………そうよ」
母上は、俺から顔を背けて小声でつぶやいた。
ビッグバロッグ王国とオーベルシュタインの境界にある砦で一泊し、ビッグバロッグ王国へ向けて再び空の旅だ。
今回はまっすぐ王国まで飛んだので、速く到着することができた。
到着したのは、国内にあるドラゴンの発着場。ドラゴンロード王国とは同盟なので、こういった施設もしっかり整備されているのだ。
前回、前々回は使わなかったが、今回は使わせてもらった。
発着場から馬車に乗り換え、エストレイヤ家を目指して進む。
「にゃあ! いい匂いするー!」
「こらこら、観光はまだだよ。まずは俺の実家に帰るからね」
「にゃうー」
馬車の窓を開け身を乗り出すミュアちゃんを抱っこし、頭とネコミミを撫でる。
ウッドはシェリーに抱かれ、ルミナは俺の隣で本を読んでいた。
ミュディは、窓の外を見ながら言う。
「少しこっちも寒いね……やっぱり、冬が近いみたい」
「そうだな……」
道行く人々は皆、けっこうな厚着をしている。
俺たちもコートを着たり、マフラーで暖を取っている。ミュアちゃんにはネコミミニット帽を被せ、ルミナも同じものを被っている。
ウッドは寒いのか眠そうにしていた。
『クァ……ネムクナッテキタ』
「ウッド、眠いなら寝ていいからな? 家に着いたら庭に行っていいぞ」
『ワカッター……』
そろそろ、ウッドやベヨーテは家に連れて行った方がいいな。
俺の家の中に大きな植木鉢を用意して、そこで二人は冬を過ごす。家の中を歩くくらいしかできないけど……外に出ると凍ってしまうのだ。
その点、フンババは寒さに強い。以前、雪で自分の雪像作ってたしな。
馬車は貴族街に入り、坂道を進む。
ミュディの家を過ぎ、貴族街のほぼ頂上にあるエストレイヤ家に到着した。
めっちゃデカい門を抜け、家の前で馬車を降りると、父上の執事であるセバッサンが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。アシュト様、シェリー様」
「ただいま。セバッサン」
「ただいまー! リュウ兄いる?」
「ええ。ご主人様と一緒にいます。すぐにご案内いたします」
「ああ。よろしく……と、ウッド、庭の日当たりがいい場所で根を張っていいぞ」
『クァァ~……ワカッター』
ウッドは大きな欠伸をして、中庭へ。
うーむ。連れてこない方がよかったかな。上空が寒かったせいか、ウッドの元気がない。
肌寒いけど日当たりはいいし、日光浴で元気になるといいな。
荷物を全て任せ、俺たちは兄さんたちのいる客間へ向かった。
セバッサンが客間のドアをノックする。
「失礼いたします。アシュト様たちがお見えになりました」
『おお!! 入れ入れ』
父上の声が聞こえた。
セバッサンがドアを開け、部屋に入ると……。
「帰ったか、アシュト、シェリー」
「おかえり。さぁ、座って休め」
父上と兄さんがソファに座っていた。
「久しぶりだな、ミュディ」
「お姉さま、お久しぶりです」
兄さんの隣にはルナマリア義姉さんが座っている。
そして、驚いたことにヒュンケル兄もいた。席に座らず壁に寄りかかり、俺と目が合うなり片手を軽く上げる。
そして……小さな子供が二人いた。
「ふぁー……いっぱい」
「まま、だれー?」
2~3歳くらいの男の子、女の子だ。名前はスサノオとエクレール。
前に見たときは赤ん坊だったのに、身体も大きくなり髪も伸びている。
男の子はシェリーと同じ銀髪で、女の子は金髪だ。赤ん坊だったころは髪の色なんてわからなかったけど……こうしてみると、スサノオはルナマリア義姉さん、エクレールはリュドガ兄さんに似てるかも。
兄さんは微笑み、俺たちを紹介する。
「スサノオ、エクレール。この二人は父の弟と妹だ。つまり、お前たちの叔父と叔母に当たる」
「おじさま……」
「おばさま……」
エクレールが俺を、スサノオがシェリーを見る。
シェリーはスサノオに近づいてしゃがみ、自分のツインテールをひと房掴んでスサノオと見比べた。
「あたしはシェリーよ。ふふ、あなたの髪、あたしと同じ色ね。リュウ兄やルナマリアさんじゃなくて、あたしやお母さんに似たのかも」
「ほんとだ。えへへ、きれいな色です」
「そうね。あたしも嬉しいわ」
そして、エクレール。
「おじさま、おじさまはパパ……ちちうえの弟なのですか?」
「そうだよ」
「……なんか、あまりにてないのです」
「ぐっ……そ、そうだね」
ちょっとグサッときました。
まぁそうだよな……俺と兄さん、あんまり似てない。
エクレールを撫でると、エクレールはミュアちゃんとルミナを見た。
「ねこ……」
「にゃあ。ミュアだよ」
「……ふん、あたいはどうでもいい」
「ねこみみ、しっぽ……さわっていい?」
「いいよー」
「あたいはヤダ」
ミュアちゃんはエクレールをなでなでし、なぜかリュドガ兄さんの隣にエクレールと座り、尻尾をユラユラさせたりネコミミを触らせて遊び始めた。
ルミナはソファの後ろに座り、持参した本を読み始める。
俺たちもソファに座り、メイドが淹れてくれた紅茶を飲んで一息入れた。
すると、父上が言う。
「さてアシュトよ。何やら大事な話があるとか」
「あ、はい。その、何と言っていいのか……俺とシェリーとミュディの、今後に関わることなんです。実感がないので放置していたんですが、父上や家族たちにはきちんと説明しておこうと思いまして」
「ふむ?……何やら大事なことのようだの」
「はい。できればその、母上にも聞いていただきたいのですが……」
「……一応、呼んでいる」
父上は大きくため息を吐いた。
兄さんは小さく息を吐き、ルナマリア義姉さんは諦めたような表情になる。
すると、兄さんが言う。
「母上は、もう一年以上姿を見ていない」
「うむ……別宅に引きこもって出てこないのだ。わしですら数日に一度くらいしか見ていない」
「な、何ででしょうか?」
兄さんにしては珍しくどうでもよさそうだった。
「恐らく、今さらここに入ることなどプライドが許さないのだろう。ずっと我が子を放置し、結果しか見ようとせず、生まれた孫すら抱こうとしない……母は「リュドガ……」
ルナマリア義姉さんが止めた。
兄さんは口をつぐみ、父上が続ける。
「……今日、必ず顔を出すように伝えた。プライド云々ではない、家族の話すら聞けぬようならば……わしも考えなければならんだろう」
「……お父さん」
シェリーが察したのか、ため息を吐く。
もう、愛情なんてないのかな……正直、俺は顔もほとんど覚えていない。
すると、黙っていたヒュンケル兄が言う。
「……アシュト、どうする?」
「……うん、お願い」
「わかった。おいクロネコ少女、ミュア、スサノオとエクレール。あっちで菓子を準備しているから行こうぜ」
「にゃ! たべる!」
「ん……お腹減った」
「わーい!」
「おかしー!」
ヒュンケル兄は、子供たちを連れて出ていった……って、なんで全員が俺を見る?
リュドガ兄さんが言う。
「……アシュト、その、ヒュンケルの「どうする?」がなぜ子供たちを連れていくことにつながるんだ?」
「え? いや、「これから大事な話をするなら、子供はどうする?」って意味で、俺は「じゃあお願い」って……あれ、わからなかった?」
「お兄ちゃん、熟練夫婦じゃないんだから……」
「うむむ……ヒュンケルとアシュトがここまで通じ合っていたとは。なぁリュドガ、私もお前と心で会話してみたいものだ」
「確かに……なぁアシュト、どうすればいい?」
「いや、普通に……」
ちょっとドン引きレベルの会話だったらしい。
ヒュンケル兄とは子供のころからの馴染みだからこれくらい普通なんだよなぁ。
しばし談笑していると、部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします。奥様をお連れしました」
「……入れ」
父上の声が硬くなった。
セバッサンに連れられ母上が入ってきた。
「…………お久しぶりね、シェリー……そして、アシュト」
「お母さん……久しぶり」
「母上……」
厚手のドレス、シェリーやスサノオと同じ銀髪、手には大きな扇を持ち顔を隠して眼だけをのぞかせている。
兄さんは何も言わず、ルナマリア義姉さんやミュディも何も言わない。
ふと、俺は違和感を感じ取った。
「……アリューシア、こっちに来て座れ。茶を淹れよう」
「ここでけっこう。大事な話があるのなら早く始めてちょうだい。私も暇じゃないので」
母上は、扇で顔を隠したまま……座ることなく立ったまま言った。
これには兄さんが怒る。
「母上。久しぶりに顔を見せた我が子の話が、それほど退屈でしょうか?」
「…………」
「本当に、あなたは「リュドガ……」
またもやルナマリア義姉さんが止める。
母上の登場で一気に不穏な空気になってしまった。
父上はまたもやため息を吐き、俺に言う。
「アシュト、話を始めなさい」
「…………」
「アシュト?」
俺は、母上から目が離せなかった。
リュドガ兄さん、ルナマリア義姉さん、ミュディとシェリー、父上が首を傾げる。
母上も、俺の視線が気になったようだ。
「何か? 母の顔がそれほど懐かしいのかしら?」
「…………母上」
「何? 話があるならさっさと───」
俺は立ち上がり、母上の元へ。
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「アシュト!?」
「お、おい!?」
シェリー、兄さん、父上が驚きの声を上げる。
一番驚いていたのは、間違いなく母上だ。
俺は母上の手を掴む。
扇が落ち、顔があらわになる。
「な、なにを」
「…………」
厚い化粧をしていた。
香水も付けている。
だが……俺は誤魔化されなかった。
「母上、いつからですか……」
「…………」
「…………なんてこった」
顔は化粧で誤魔化しても、この手の細さは誤魔化せない。
それに……俺は薬師だ。怪我人や病人は山のように診てきた。
俺は、確認するように言った。
「母上、あなた……かなり深刻な病気を患ってますね」
「「「「「!?」」」」」
「…………」
全員が驚愕し、俺は父上に言う。
「父上、エリクシールの準備を」
「お、おお……」
「手遅れになる前でよかった。白目が黄色くなっているのがどうも気になってたんです。母上、化粧で誤魔化してますけど、顔の皮膚も黄色くなり始めてボロボロだったんじゃないですか? それに、爪も不自然に反り返っている……人前に出なかったのは病気だったからですね?」
「…………そうよ」
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