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第326話 言わぬが花
しおりを挟む──〝大都市エルクステン〟
路地裏・(現代)──
「──ちょっと待った、誰か来た」
まだ話の途中だが俺はエメレアの話を遮る。
「な、誰よ?」
ここは人があまり訪ねてはこないギルドマスター室でも、私有地である家の中でもない。
強いて言うならあまり一般人は近づかない、暗い路地裏である。招かれざる人が来ても不思議ではない。
数十秒後、こちらに向け、声が投げ掛けられる。
「──ほう、この距離で気づくかね? 流石は大国を一つを落とした、大罪人だ。相変わらず、化け物染みた実力は確かなようだね」
厳格そうな声だ──聞き覚えがある。
バッと、俺はエメレアに自身の巻いていたフード付きマントを被せる、この男から顔が見えないように。
「すこぶる他人行儀だな。つれねぇじゃねぇか、一緒に〝魔王戦争〟を経験した仲だろ? ──なぁ、ガーロック・サカズキン領主様?」
狭い路地裏の左右から、憲兵が俺たちを取り囲む。その先頭に立つは〝大都市エルクステン〟の領主──ガーロック・サカズキンだ。
「君には指名手配書が出ている。そんな人物を私の任されている領地内で君を野放しにしていては示しがつかないのでね」
うん。ぐうの音も出ない正論だ。
そりゃそうだ、コイツは何も悪くない。
日本でだって、指名手配犯が目の前にいれば、警察だって、何だろうが、そいつを捕まえようとする。
「それに一緒にいるのは誰だ? 仲間か?」
「ハッ、何を言うかと思えば。街を歩いてたら、可愛かったから、ちょいっと強引に路地裏にお招きして、少ーしだけやらしいことでもしようとしてただけだ。たった今邪魔が入ったがな。サカズキンちゃん?」
俺はいやらしく話す。犯罪者のように。
エメレアに俺といたという面倒はかけられない。
「要するに拐ってきて、君とは何の関係もないと?」
「受け取り方は自由だ」
「ならば、そうさせてもらおう」
殺気を出し始めたガーロックと、剣を抜き臨戦態勢になる憲兵達──どうやらやる気だ。
サーベルを抜いたガーロックが動いた。
その瞬間、俺はガーロックの方向へ右足の爪先で地面を蹴る。
爪先蹴りで生まれた衝撃波はガーロックを吹き飛ばすには十分な威力だった。
「ガーロック様!」
「おのれ貴様ぁ!」
「油断するな! 金貨10000枚の賞金首だ!」
俺はエメレアをお姫様抱っこし、上に飛ぶ。
足に魔力を纏い、空気を踏み込んでだ。
左右から挟まれてて下は地面。こうなってくりゃぁ、もう後は鳥じゃなくても上に行くしかない。
屋根に出ると、屋根にも憲兵がいた。
──まあ、そりゃそうか!
俺は更に高く空を蹴り上がる。
家屋の3倍ぐらいの高さまで登ると、そのまま斜め上に空を走り城壁の壁の上を目指す。
城壁に人はいるが、100mに2人ずつぐらいの等間隔にいるだけだ。
「なぁ、エメレア、リーダーさんってのは、名前は結局分かったのか?」
「え? ううん。ギルドで調べようと思ったけど……何となく、一度名乗って貰ったのに──隠れてまた調べるような真似は失礼かなって? 次に会えた時に正直に謝って、改めて名前を聞こうかなって思ってる」
そうしたらいっぱいお礼を言うんだ、今度は私が何か美味しい物を皆にいっぱい奢るんだ♪ 楽しみなんだ──と、子供のように無邪気な顔でとても嬉しそうに笑う。
(──俺はミリアの森でミリアと椎茸を墓に刺してる時に、ふとミリアに聞いたことかある……)
『ミリアの父さんのギルドパーティーは名前とかあるのか?』
俺の質問にミリアはこう答えた。
『あ、はい──吟遊詩人です』
ああ、繋がってしまう。
これは悲劇だ。
エメレアはもうリーダーさんとやらに会うことはできない。その〝吟遊詩人〟のリーダーさんと言う人物は十中八九、いや九分九厘──ミリアの父親だ。
エメレアと一番に仲良くしてた、治療術士のシュナという人物もミリアの話では、この世にもういない。
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