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第382話 檜
しおりを挟む──それから4時間ほど山道を歩いた所で俺たちは足を止める。夜営をする。
異世界の日が沈み、月の光が暗い夜の空を明るく照らし始めた頃だ。
適当な場所に〝アイテムストレージ〟から買ったばかりの家(中古だが)を取り出す。
「本当に便利だよね。今更だけど家を持ち運ぶ何てことをする人は初めて見たよ」
「ハハッ、だろ? 今日は改装もしようと思う」
「改装? お家の?」
「いや、改装ともまた違うか、すまん」
俺は〝アイテムストレージ〟から檜を取り出す。
え? これをどうするのかって?
檜で作るものと言ったらあれしか無いだろ?
──そう、檜風呂だ! 湯壺だよ、湯壺。
この世界に来てからシャワーだけだったからな。
と、まあ時間もないのでテキパキと凹凸を作り、組み立てていく。親父が昔、檜風呂を作っていたのでそれを思い出して作ってみたがなるようになるな。ケセラセラ。
正方形の湯口も作ってみた。ここに〝火の結晶〟と〝水の結晶〟を入れればお湯が出てくる仕組みだ。
──風呂だ、風呂に入れる!
いやシャワーは浴びてたけど、やっぱり風呂は湯壺に入りたいよな。日本人なら。温泉万歳!
俺は〝水の結晶〟から出る水を〝火の結晶〟で温め、お湯を落とし始める。
「ユキマサ君、シャワー室で何やってるの? というかそれ何? でっかい木のお鍋(?)だね。また炊き出しでもやるの?」
清潔感のあるシャワー室の石の床に置かれた檜風呂を見て、クレハが困惑する。うーん、これも一種の異文化なのかね? 異世界交流とも言える。
てか、木のお鍋ってなんだよ。絶対燃えるだろ!
「これはな風呂だ」
「お風呂? シャワーじゃなくて?」
「お湯に浸かるんだよ。そういう文化は無いのか?」
「──!? お湯に入るの!? 湯立っちゃうよ?」
やっぱ無いのか、入浴文化。色々勿体ないね、異世界の文化は。知らずに損してることが多いよホント。
「湯立らないように入るんだよ」
この後俺は一通り風呂の入り方を説明した。
お風呂の温度は41℃。一番風呂は譲ってやるよ。
俺から湯壺の説明を受け、半信半疑で風呂に入るクレハの、しゅるしゅると薄い壁一枚越しの狭い脱衣場から聞こえる服を脱ぐ音が妙に艶かしい。
そういや昔、理沙と母さんと一緒に重曹とクエン酸で手作りの入浴剤を作ってたな。酔った親父がそれを食おうとしてたのを蹴り飛ばして止めた記憶がある。
よく考えたら、何してんだよ親父は。
入浴剤と何を間違えたんだ!?
コーラとめんつゆ、砂糖と塩、似て非なるものは意外とあるが、入浴剤を食おうとしてた親父は一体何と入浴剤を間違えたのだろうか?
いや、普通に酔って入浴剤を食おうとしてただけの可能性も……うん、無い。いや、無いと信じたい。
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