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第405話 遠い昔の確かな記憶

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「──俺、心に決めた好きな人がいるんスよ!」

 と、どうした、急に!?
 話が飛んだぞ。すげー飛んだ気がする。

「で、それは誰だ? って、聞けばいいのか?」
「ちょ、マジで言ってるっスか? アリシアさんスよ、アリシアさん! 話の流れで一択っしょ!?」
「あー、なるほど。付き合ってんのか?」

 年も近そうだしな。チャラ男な所に目を瞑ればお似合いなんじゃないか? 性格は悪くないんだし。

「それが萎えぽよな事にフラレタリウムなんスよ」

 萎えぽよ? フラレタリウム??
 ダメだ、言葉がわからん。

「えーと、要するにフラれたってことか?」
「はい。3日に1回フラれてるっス」
「いや、フラれすぎだろ? お前メンタル強いな」

「何回フラれても大好きなんス。でも、あの人の返事は決まって『私何かじゃダメだよ』って言うんスよ」
「……コーヒー。冷めるぞ?」

 恋バナ、つまりは恋愛話。俺は苦手分野だ。
 つまらない人間だと思われるかも知れないが、フラれたと言う人間にかけられる何か粋な言葉も残念ながら俺は持ち合わせていない。
 昔『恋はいいぜぇ、恋はよ──』と、酔った親父は心底楽しそうに俺の頭を撫でながら言っていた。
 親父の座右の銘は『恋無き人生に一片の価値無し』だったな。恋とは人生。恋こそ全て。そんな意味らしい。
 『俺にはよく分からねぇよ』と返す俺に『いつか必ず分かるさ』と満面の笑顔で酒を煽いだ。
 いつか必ず分かる。確かに親父はそう言った。
 そんなが本当に俺にも来るのだろうか? 恋なんて俺の中じゃ御伽噺みたいな遠い遠い存在だ。

「なんスか、なんスか、俺の恋バナには興味ナッシング的な感じすか」
「苦手分野なんだよ。そういうのはよ──それにクレハのオレンジジュースがこれ以上冷えて凍ったらどうしてくれる? シャーベットは注文オーダーされてないぞ」

 我ながら本当に取って付けたような理由だ。
 少し不満そうな顔をしながらチャッチャラーはコーヒーを持って付いてくる。
(さっきは唐突な話で切ってしまったが、実は本当に誰かに聞いてほしい話だったんだろうか?)
 よく考えなくても、3日に1回もフラれてるなんて誰かに話でもしなきゃやってられない状態なのかもしれない。
(ちょっと悪いことしたかな)
 俺は気の利いた事は何も言えないけど、話を聞くことぐらいなら、多分壁よりは上手くできると思う。

 ──さっきの場所に戻るとクレハとアリシアが何やら笑いながら話していた。
 いつの間にか仲良くなった二人は、クレハがアリシアの車椅子を押すぐらいまで距離が縮まっている。
 この短時間で……凄いな。最早スキルだぞ。それ。
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