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第435話 鵬剣vs仙極2

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『──あー……昼間は苦手だな』

 女性の声だ。幼げな声だが背筋がピンとなるような不思議な貫禄がある。

「こちら〝仙極〟ヒルグラム・パンサー。ヴァンドール陛下、陛下がこんな時間にどうなされたので?」
「チャッチャラーでッス、火急っスか?」

『お主ら一緒に居るのか? 珍しいこともあるものだの。一度〝アルカディア〟へ戻れ、王国魔導士団から──一度、今後の方針を纏める会議を開く。残りの王国魔導士団は全員集合じゃ、以上、直ぐ〝アルカディア〟に二人とも戻って来い』

 ぶつん。と、そこで一方的に通信は終わる。チャッチャラーと仙極はバツが悪そうに一瞬だけお互いを見ると互いに無言で己の矛を今は仕舞った。

 *

「あっちの空、って言うか雪雲? 割れてない!?」
「割れたな。チャッチャラーと仙極が戦ってんだろ」

 あのバカ野郎、自分の立場を分かってんのか?
 俺に手助けしたら今の立場じゃいられなくなるぞ。

 これは大問題だぞ?
 警察の上、警視庁、いや──国家公安委員会とかその辺りが犯罪者を擁護したような物だ。
 あいつ、六魔導士を辞める気か!?

「ユキマサ君……」
「ああ、悪い、急ごう。チャッチャラーが折角稼いでくれた時間だ。無駄にはしない」

 ──〝スノーワイトの街〟を無事抜けると、また山だ。この世界は山ばかりだな。
 山、山、街、山、街、山、山、みたいな感じだ。

「〝仙極〟が追ってくる気配は無いな……チャッチャラーめ、無事ならいいが」
「うん、でも、私嬉しいな。ユキマサ君を信じてくれる人が増えて」
「だといいが。クレハ、ありがとな」

 俺は後何回、クレハに礼を言うのだろう。
 こんな俺を信じてくれ、付いてきてくれるクレハに何か返せる物があるのだろうか。

 ──恩返し。いい言葉だと思う。
 ある者は友人に、祖父母に、そして両親に。
 大概の恩返しはこのどれかに当てはまるのではないだろうか? 後ろ二つには孝行こうこうとも言うかも知れない。祖父孝行、祖母孝行、親孝行。

 悲しいかな、俺はもう親孝行と祖母孝行は永遠にできることはない。もしそういうのがまだ間に合う人が居るのならば、俺はこう伝えたい──
 『孝行はしておけ』と。
 気恥ずかしくてとか、もう少し後でいいやとか、そう言う気持ちの人が多いと思う。実際、小さい頃の俺もそうだった。だが、後悔している。

 ──ありがとう。

 そんな一言も俺は言えなかった。
 親父とお袋の葬儀の後、数ヵ月はずっと理沙は泣いていた。生きてる時にお礼を言えなくて、恩を返せなくて──と。
 俺からしてみれば、無愛想で迷惑ばかりかけたバカな俺よりは、いつも笑い、食事の準備を手伝い、肩を叩いていた理沙の方が何倍も親孝行だったと思う。

 残りの希望と言えばクソ爺なのだが、どうしよ。まだ俺、指名手配犯になったって言ってない。ついでに理沙にも。祖父孝行どころか祖父不幸だぞ、これ?

 次あったら、土産のツチノコの丸焼きを渡しながら素直に謝るか……ツチノコで許してくれればいいが。
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