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第458話 新たなる魔王

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「あれは不味いな」

 ──魔王石を取り出した愧火キビに背中に背負う大剣を抜き、一早く動いたのは第4騎士隊長ラジ・ビーストルグだ。全身鎧姿で外黒内赤のマントを着けている。
 兜で表情までは読めないが、ギルドでも1、2を争う冷静沈着な男である。

「もう遅せぇよ」

 バクッと〝魔王石〟を愧火は呑み込んだ。

 愧火を中心に強い風が吹いた。
 大剣を構え、愧火に向かっていったラジが思わずすくみ、足を止めてしまう程の風だ。

「なによあれ……」
「ラジ坊、下がるんじゃ、比喩じゃなく死ぬぞい」

 愧火を見たヴィエラが冷や汗を流し。
 愧火の近くにいるラジに下がるように命ずるリーゼス。

「さて、問題だ? 〝魔王石〟を食った〝魔族〟はどうなると思う?」

 ニヤリと愧火が怪しく笑い、問いかける。

「──ッ……!? まさか!」

 最悪の事態が頭を過ったティクタスが声を出す。

「時間切れだ。正解は────俺は今日から魔王だ!」

 絶大な魔力が愧火の内側から溢れ出てくる。
 並みの兵士なら腰を抜かし動けなくなるレベルだ。

「嘘じゃろ、魔王が増えるなんて聞いとらんぞ!」
「リーゼスさん、残念ながら事実のようです。我々はもうあの魔王を、魔王になった愧火を相手にしなければならない」

 ティクタスが言う。
 その声には少なくない焦りも見える。

 ティクタス、リーゼス、ヴィエラ、ラジ、ボタン、ルドルフ、エミル、システィア──
 今ある戦力、この8名で魔王とゴライアスの最悪種テリビリスを相手どらなければならない。
 数こそ勝っているもの、総合的な戦力は、この魔王軍相手には心許ない。

 だが、やるしかない! やるしかないのだ!
 騎士隊長8名は其々それぞれに腹をくくった。

「ハハハハハ! 力が湧き出てくるぜぇ!!」

 愧火が高揚したように叫ぶ。
 ただ叫んでる。ただそれだけだ。なのにその余波だけでその場の大気を大きく揺らし、地面や木々を破壊した。

 先程までのであった愧火とは比べ物にならない魔力と力だ。
 ──その名にふさわしい魔力量と力を愧火は手にいれた。

「いいこと教えてやるぜ? どうやら魔族から魔王になると心臓と脳の数は変わらんらしい。それとさっき小さいのに潰された心臓はもう回復してるぜぇ」

 魔族を倒すには心臓と脳を1ずつ破壊する必要がある。
 だが、魔王を倒すには脳が2心臓が2を破壊する必要がある。
 今の発言が正しければ、この特殊な進化を遂げた愧火は通常の魔族の倒し方で倒せることになる。これは朗報だ。少しだけ兆しが見えた。そんな気がした。

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