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第466話 お伽噺の夢
しおりを挟む──〝大都市エルクステン〟
武器屋・プレーナ
何の因果か〝剣斎〟エルルカ・アーレヤストは、偶然にも、今その街にいた。
「し、師匠!? いついらしたんですか!?」
武器屋のレノンが見たのは、いつもの丈の長い黒のドレスローブに更に麻布のローブを羽織っており、大きめの黒いリュックを片方の肩だけに背負っている。
どこか、旅人や風来坊をイメージさせる格好だ。
「来たのは今朝よ。まさかそれがこんな日になるとはね」
「今朝と言うことは魔王の現れる前ですか?」
「というと元魔族の愧火ね。時間的にはそうなるわ」
「し、師匠──六魔導士を辞めたと聞きましたが、本当なんですか!?」
「ええ、辞めたわ。綺麗さっぱりね」
バイトを辞めたぐらいの軽さでエルルカは言う。対するレノンは目玉が飛び出そうなぐらい驚く。
「愚痴、付き合ってくれる?」
「はい、師匠の話ならいつでも聞きますよ」
「私ね、勇者になりたかったの。正義の味方中の味方、大ヒーロー。お伽噺の中の、あの勇者に──」
「初耳です。でも、素敵だと思います」
「あら、ありがとう。私が勇者みたいな存在になるには〝王国魔導士団〟が一番の近道だと思っていたわ」
店内の椅子に腰をかけ、エルルカは言う。
「でも違った。あの場所は私が望む場所に私を連れてってくれない。だから辞めた。人を陥れるバカな権力の戦力になるのは私はごめんよ。私はもう戻らない」
「師匠……ユキマサ様の件ですか?」
「そうね、そうなるわ。あの件が無ければこの魔王戦争だってユキマサは今この都市にいて、あんな魔王ぐらい直ぐにやっつけてくれた筈だわ」
彼女にしては珍しく拗ねた様子だ。
でも、話は続ける。
誰かに話を、愚痴を聞いて貰いたかっただけのかもしれない。
友達の少ないエルルカなのだが、真面目に話を聞いてくれそうな相手がレノンしかいなく〝大都市エルクステン〟にこうしてわざわざ訪れたのかも知れない。
先日の〝三王〟の一人──ヴァンドール・ブラッディナイトとの対談は上手くいかなかった。
交渉と苦情は決裂。ユキマサの指名手配は変わらなかった。
話して分かったがこれはヴァンドールがいけないのではないとエルルカは思った。強いて言うなら積み上げてきた、最高貴族を野放しにした歴史が悪いと。
結果、エルルカは〝王国魔導士団〟を辞めた。
最後の最後まで引き留めてくれたシラセには悪いことをしたと、もやもやとした罪悪感が残っている。
そんな自分をエルルカは無性に腹立たしく思った。
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