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第九章 文化祭に向けて
立派な桜になるために
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優菜さんと別れた後、シロは始終難しい顔をしていてほぼ会話もないまま、私を家まで送って帰っていった。
最初の頃と違い、最近は思ったことは結構何でも口に出すシロにしては珍しいその態度に、戸惑いを隠せなかった。
「怒っているの?」と聞いても、「いや」としか返って来ず、お礼を言っても「ああ」と短く呟くだけ。
歩く速度は私に合わせてくれるけど、心ここにあらずな感じで何かを考えているのは明らかだった。
しかし、どうしたのか尋ねても「どうもしてねぇ」と教えてはくれない。
その日の夜、心にモヤモヤとしたものを抱えたまま、私は姉にメイクの仕方を習っていた。
「桜はコテコテにするより、ナチュラル路線でいったがいいわね。名前に恥じない立派な桜になって観客を魅了するのよ」
話しながら器用に姉は手を動かして、私の顔に綺麗になる魔法をかけていく。
「立派な桜か……名前負けしてるよね、私」
「そう思うなら、今からなればいいのよ。桜はすぐに散っちゃうけどね、それでも毎年輝く一時のために耐えてじっと待ってるの。だから、満開に花開いたその瞬間はどの花よりも美しくて、散りゆく姿さえ人の心を魅了する。長い間蕾のまま止まってたあんたが本気を出せば、きっと綺麗な桜に化けるわよ」
そう言って姉は私の前に鏡を置いた。
そこには、自然にみえて私の魅力を最大限に引き出したメイクが施されていた。
見慣れた顔のはずなのに、いつもより何倍も垢抜けた印象を受けて、自分じゃないみたいだ。
「これが、私……?」
信じられずに姉を見ると、そんな私を見て彼女は満足そうに笑っている。
「最初から綺麗に着飾ってる子は舞台でもそこまで化けないけどね、今までの冴えない桜しか知らない人は、きっとあんたに釘付けになる。だから、あんたが満開の花を咲かせるのは、コンテストの舞台! そのために、今は練習あるのみよ!」
可愛いは作れるってCMで一時期よく聞いてたけど、その言葉を私は信じてなかった。
元々可愛い人がやるから可愛くなるわけであって、元がよくない自分には当てはまらないものだと思っていた。
しかし、可愛いくなろうと努力することで、今までの自分よりは確実に可愛くなれる事を実感した。
「お姉ちゃん、私にこのメイクの仕方教えて!」
「フフ、勿論」
それから基本的なメイクの基礎を習って、半分メイクを落とし、今度は自分で真似をしてやってみる。
眉の形はへんてこで、アイシャドウはむらだらけ。アイラインや口紅ははみ出して中々上手くかけない。
加えて姉の指導はかなり厳しかったけれど、鏡の中で変わっていく自分が楽しくて仕方なかった。
みっちり一時間練習して、今日の所はお開きとなる。
「ここにあるの、あんたに全部あげるから暇なときは練習なさいね」
「え、こんなに貰えないよ!」
目の前には数種類の化粧道具一式が取り揃えてあり、とてもじゃないが無料で貰えるものじゃない。
「いいのいいの、バイト先で全部貰ったものだから。これは棚落ち品で、新作出る度に増える一方だから気にすることないよ。桜がメイクに慣れたら、今度は自分の好きなもの揃えていくといいわ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
がしっと姉の腰に抱きつくと、姉はよしよしと子供をあやすように撫でてくれた。
その時、思い出したかのように姉が尋ねてきた。
「あ、それより桜。最近夜中によくあんたの部屋から話し声が聞こえてくるけど、誰か来てるの?」
「え、いや、誰も!」
「電話にしては、男の人の声まで聞こえるからさ~怪しいと思ってたのよ。で、どっちが来てるの?」
顎に手をあて、うーんと首を捻った後、姉はそう言ってにんまりと笑った。
「ど、どっちって何?」
「それは、コハク君か奏君しかいないでしょ? なに、他にもまだ男が……」
「居ないよ! それにカナちゃんとはそんな関係じゃないよ!」
「ってことは、コハク君か」
「え、いや……」
コハクだけど、コハクじゃない。
これをどう説明したらいいのか戸惑っていると、姉の後ろから眩い光が現れた。
いつかはこうなる日が来るかもしれないとは思っていたが、それが今日だとは思わなかった。
「どうしたの、後ろに誰か居るの?」
姉が振り向いた瞬間、眩い光は人型をとってシロが現れた。
最初の頃と違い、最近は思ったことは結構何でも口に出すシロにしては珍しいその態度に、戸惑いを隠せなかった。
「怒っているの?」と聞いても、「いや」としか返って来ず、お礼を言っても「ああ」と短く呟くだけ。
歩く速度は私に合わせてくれるけど、心ここにあらずな感じで何かを考えているのは明らかだった。
しかし、どうしたのか尋ねても「どうもしてねぇ」と教えてはくれない。
その日の夜、心にモヤモヤとしたものを抱えたまま、私は姉にメイクの仕方を習っていた。
「桜はコテコテにするより、ナチュラル路線でいったがいいわね。名前に恥じない立派な桜になって観客を魅了するのよ」
話しながら器用に姉は手を動かして、私の顔に綺麗になる魔法をかけていく。
「立派な桜か……名前負けしてるよね、私」
「そう思うなら、今からなればいいのよ。桜はすぐに散っちゃうけどね、それでも毎年輝く一時のために耐えてじっと待ってるの。だから、満開に花開いたその瞬間はどの花よりも美しくて、散りゆく姿さえ人の心を魅了する。長い間蕾のまま止まってたあんたが本気を出せば、きっと綺麗な桜に化けるわよ」
そう言って姉は私の前に鏡を置いた。
そこには、自然にみえて私の魅力を最大限に引き出したメイクが施されていた。
見慣れた顔のはずなのに、いつもより何倍も垢抜けた印象を受けて、自分じゃないみたいだ。
「これが、私……?」
信じられずに姉を見ると、そんな私を見て彼女は満足そうに笑っている。
「最初から綺麗に着飾ってる子は舞台でもそこまで化けないけどね、今までの冴えない桜しか知らない人は、きっとあんたに釘付けになる。だから、あんたが満開の花を咲かせるのは、コンテストの舞台! そのために、今は練習あるのみよ!」
可愛いは作れるってCMで一時期よく聞いてたけど、その言葉を私は信じてなかった。
元々可愛い人がやるから可愛くなるわけであって、元がよくない自分には当てはまらないものだと思っていた。
しかし、可愛いくなろうと努力することで、今までの自分よりは確実に可愛くなれる事を実感した。
「お姉ちゃん、私にこのメイクの仕方教えて!」
「フフ、勿論」
それから基本的なメイクの基礎を習って、半分メイクを落とし、今度は自分で真似をしてやってみる。
眉の形はへんてこで、アイシャドウはむらだらけ。アイラインや口紅ははみ出して中々上手くかけない。
加えて姉の指導はかなり厳しかったけれど、鏡の中で変わっていく自分が楽しくて仕方なかった。
みっちり一時間練習して、今日の所はお開きとなる。
「ここにあるの、あんたに全部あげるから暇なときは練習なさいね」
「え、こんなに貰えないよ!」
目の前には数種類の化粧道具一式が取り揃えてあり、とてもじゃないが無料で貰えるものじゃない。
「いいのいいの、バイト先で全部貰ったものだから。これは棚落ち品で、新作出る度に増える一方だから気にすることないよ。桜がメイクに慣れたら、今度は自分の好きなもの揃えていくといいわ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
がしっと姉の腰に抱きつくと、姉はよしよしと子供をあやすように撫でてくれた。
その時、思い出したかのように姉が尋ねてきた。
「あ、それより桜。最近夜中によくあんたの部屋から話し声が聞こえてくるけど、誰か来てるの?」
「え、いや、誰も!」
「電話にしては、男の人の声まで聞こえるからさ~怪しいと思ってたのよ。で、どっちが来てるの?」
顎に手をあて、うーんと首を捻った後、姉はそう言ってにんまりと笑った。
「ど、どっちって何?」
「それは、コハク君か奏君しかいないでしょ? なに、他にもまだ男が……」
「居ないよ! それにカナちゃんとはそんな関係じゃないよ!」
「ってことは、コハク君か」
「え、いや……」
コハクだけど、コハクじゃない。
これをどう説明したらいいのか戸惑っていると、姉の後ろから眩い光が現れた。
いつかはこうなる日が来るかもしれないとは思っていたが、それが今日だとは思わなかった。
「どうしたの、後ろに誰か居るの?」
姉が振り向いた瞬間、眩い光は人型をとってシロが現れた。
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