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褒美にはなりませんよ
しおりを挟む私が暮しているエーネ国は長きに渡り隣国バーチェル国と戦が続いている。辺境では怪我人も出ていて天に召された人達も大勢いる。騎士兵士達は満身創痍の戦いをしている。
私はミシェル・エルギール、エルギール公爵家の長女。そして3歳年上のジークライド王太子殿下の婚約者。
婚約者になったのは10歳の時。
『チッ、あの狸め、王命を出しやがって。
ミシェル、お前はあの狸の息子の婚約者候補になった。今度顔合わせをするから質素なドレスを作りなさい』
お父様はそう言った。
質素なドレス?会うのは王子殿下なのよね?そう思ったわ。でもお父様の顔は何かを企んでいるように笑っていたから、きっと言う事を聞くのが一番だと思って質素なドレスを作ってもらいそのドレスでジークライド殿下と初顔合わせをした。
陛下とジークライド殿下が待つ庭園までお父様は私を抱き抱えて行った。10歳なのにまだ親に抱き抱えられている子なんて思われたら恥ずかしいし、それに失礼にあたると思ったん、だけど…、お父様に何度言ってもお父様は私を下ろしてくれなかった。抱き抱えられたまま挨拶をして、ジークライド殿下も呆気にとられていたわ。
この婚約の話はなくなる、そう子供でも分かった。それなのになぜか婚約者になっちゃったのよね。
エーネ国では婚約の証書を交わす時は女性は質素な白のドレスと決まっていて男性も質素な白の正装を着る。お互い証書にサインをして無事私はジークライド殿下の正式な婚約者になった。
婚約者になり6年。
バーチェル国とはもう何十年と小競り合いを繰り返してきた。バーチェル国だけじゃない周辺諸国とも小競り合いを繰り返してきた。エーネ国だけじゃなく隣り合う国同士どの国も小競り合いを繰り返している。
バーチェル国と本格的な戦になったのは5年前。5年間、戦、休戦を繰り返してきた。国土を広げる為に互いの領地への侵攻は両国の王にとっての大義。
別にそれを責めるつもりはない。攻められれば守る。大勢の人の死にこちらも報復をする為に攻める。守りばかりではこちらの民が命を落とす。やられたらやり返すではないけど双方共に大勢の命が天に召され大勢の心に痛みを残している。もう今更引くに引けない、両国共に…。
5年続いた争いについに終止符が打たれた。
相手の敵将を倒し終戦した。
私はジークライド王太子殿下の婚約者として謁見の間で王太子殿下の横で立っている。
コツンコツンと杖をつきながらゆっくりと謁見の間に入ってきたのは次期王宮軍騎士隊長になると噂されているアンセム侯爵家次男リーストファー副隊長。
相手の敵将の首を討ち取った功労者。
酷い怪我をしたと聞いた。それでも目の前の彼は痛みを我慢し杖をついているとはいえ自力で歩いている。額から流れる一筋の汗、相当な痛みを耐えているのは分かる。
陛下の御前でも膝を折る事が出来ず立っている。
それでも凛と立つ立ち姿は美しい。
私はその姿を横から見ている。だから分かった。陛下を睨むその視線に。
「此度の功績に対し騎士皆に功労金を払う」
「ありがたく」
「お主は敵将の首を討ち取った。終戦になったのはお主のおかげだ。
お主に褒美を授与する。何が良いか申してみよ」
リーストファー副隊長はジークライド王太子殿下をキッと横目で睨んだ。視線を外さず言った。
「では王太子殿下の婚約者を私の妻に賜りたく」
そして私と視線がぶつかった。
え?私?
褒美ならもっと良い物を…、爵位とか領地とか色々あるわよ?
両国を和睦に導いたのはリーストファー副隊長が敵将の首を討ち取ったから。それで長きに渡る戦が終戦を迎えた。
その褒美が私?
私に褒美の価値なんてないわ。
26歳のリーストファー副隊長と話した事は一度もない。噂話は耳に入っても実際どんなお方なのか顔さえも知らなかった。
アンセム侯爵家の次男で婚約者はいない。勿論妻もいない。騎士道を歩み剣と共に生きる人。己の剣の腕を磨き若くして王宮軍副隊長に任命されたと聞いた。
幼い頃から騎士として生きると親元を離れ辺境で育ち間近で小競り合いも見てきた。15歳の時辺境伯から叙任を受け騎士として辺境の第一線で剣を振るい、20歳で王宮軍に引き抜かれバーチェル国との戦を前に21歳の若さで副隊長に任命された。
その噂を聞いて勝手に描いていた像は大柄で熊のようなお方だと思っていた。
目の前の副隊長は背が高く細くはないけど熊ではない。凛々しい顔立ちは女性に人気だと分かる。彼は剣と生きる人、令嬢達の間で言い伝えられている。何十人の令嬢達の心を奪い何十人の令嬢達が失恋したか…。
婚約者の座を射止める為に侯爵家へ打診しても侯爵家は丁重にお断りをしてきた。
その座が私?
それも婚約者ではなく妻?
これは現実に今起こってる事なの?
それとも夢?
例え褒美としても今まで褒美で人を賜った人はいない。そもそも人を賜る人がいないから。皆爵位や領地、金子を賜るわ。
そもそも陛下が褒美は何が良いとこの場で本人には聞かない。
今回は異例なの。
応援ありがとうございます!
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