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エルギール公爵家の夜会

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2週間が過ぎ今日は公爵家の夜会。お互い準備をしリーストファー様は私の部屋に入ってきた。


「綺麗だ…」


ポツリ呟いたリーストファー様は照れた顔を背けた。


「リーストファー様?」

「どこの女神が舞い降りたかと思った」

「ふふ、リーストファー様の女神ですよ?」

「揶揄うな」


リーストファー様は私を優しく抱きしめた。


「旦那様そのくらいで、化粧が崩れます」


ニーナから止められたリーストファー様は私の首筋に口づけした。

そうね、唇に口づけすればまた紅をささないといけない。

リーストファー様にエスコートをされて馬車に乗り込み公爵邸へ向かう。


「なあ、貴族に知り合いがいないんだが、どうすればいい。それに夜会なんて初めて出席する」


王宮軍の騎士は他国への警備が主。王宮の夜会の時も別行動で警備はしない。

私も友人と呼べる人はいない。王子の婚約者というのは良くも悪くも人が寄ってくる。だから私は友を作らなかった。皆を平等に接しないといけないから。

でも今は殿下の婚約者でない以上、人が寄ってくることはない。


「私も友人と呼べる人はいません。今日は夜会の雰囲気に慣れれば良いと思います。今日は私の側にいて下さいね?」

「一緒にいてくれると助かる」


馬車が止まり、リーストファー様のエスコートで公爵邸へ入っていく。


「招待状を確認致します」


リーストファー様は胸元から招待状を取り出し手渡した。

招待状を確認し、


「ホーゲル伯爵ご夫妻ですね、確認致しました。どうぞお進み下さい」


リーストファー様のエスコートで夜会会場へ入り、先にお父様とお母様に挨拶をしてリーストファー様はワインを、私は果樹水を手に取り壁際へ来た。

お父様に呼ばれれば『私にももう一人可愛い息子が増えましてね』と当主達にリーストファー様を紹介し、お母様に呼ばれれば『私にも愛しい息子が増えたの、紹介するわ』とご婦人方にリーストファー様を紹介した。

これが目的だったのね。公爵のお父様と公爵夫人のお母様が可愛がり愛しいと思うリーストファー様に誰も表立って何も言えなくした。

良好な関係だとお父様とお母様は皆に示した。

謁見の間の出来事は皆が知る。私の意思とはいえ、傍から見れば王太子から私を奪い妻にした。本人が目の前にいれば責めたくなるのが人。あの場では誰もできなくてもこの場ではそれも可能。

あの謁見の間以来、私達は社交から消えた。一切社交の場に現れない私達が今日初めて現れた。

リーストファー様は格好の餌食。

今日はリーストファー様から離れない方が良いわね。離れるつもりはないけど、それでもお化粧直しも付き添ってもらわないと。本来男性は付き合わないけど、お父様やお母様が牽制してもそれでも本人に一言言いたいと思う人はいる。私がいない間に誰が何を言うのか、きっとリーストファー様は何か言われても耐えてくれる。それでも今まで社交をしてこなかったリーストファー様は誰がが分からない。分からなければ公爵家の夜会を濁したと注意する事も出来ない。

確かに褒美で賜るものは爵位や領地。それは前もって陛下に謁見し決まる。それを貴族の当主が見守る中謁見の間で陛下が授与するだけの事。

でもリーストファー様は戦場から帰り、そのまま軍医のもとで治療を受けていて、陛下と謁見する時間が取れなかった。というより動けなかった。陛下は王宮軍の騎士達が帰って来た時に王宮軍の宿舎へ出向き慰問をした。でも多分その時のリーストファー様は話せる状態ではなかった。

褒美は授与される側がお伺いという形で陛下に伝える。陛下が相応だと思えばそれが通り、不相応だと思えば譲歩するように促す。

リーストファー様の状態、殿下の悪行もあり陛下はあの場でリーストファー様が示すものを与えようと思った。それが私だったんだけど、貴族の中には殿下から奪ったと捉える者はいる。でも私の意思で受け入れると言った以上奪った事にはならない。

でも誰かから奪えばそれは悪者。

それは私もね…。


「ふぅ」

「どうした?」


リーストファー様は壁に寄りかかっていた体を起こし、私の顔を覗き込む。


「また調子が悪くなったのか?もしそうならお義父上に伝えて先に帰らせてもらおう」

「体は大丈夫です。ただ久しぶりの夜会で疲れただけです。だって夜会って楽しくないもの」

「そうなのか?賑やかで皆楽しそうだぞ?」

「あの笑顔の下に何を隠しているか分からないんですよ?笑っていても心の中では文句を言っているかもしれないし、馬鹿にしてるかもしれないし、嘲笑ってるのかもしれません」

「そうなのか?」

「貴族ってそうなんです。さっきだってお父様はにこにこしてたけど、リーストファー様に何か言ってみろ分かってるよな?って牽制してたんですよ?」

「まあ、俺は可愛いって柄じゃないしな」

「そこは本当です。可愛がるって意味ですが。私達が伯爵な以上社交は付き物です。お父様とお母様の牽制で今後のリーストファー様を守ってくれました」

「そうか、お義父上にもお義母上にも感謝しないとな」

「それでも口さがない人はどこにでもいます。今後リーストファー様が嫌な事を言われるのには変わりません」

「それも仕方がないさ。俺はこんな綺麗な妻を得たんだ」


そう言って私の肩を抱き寄せたリーストファー様。そして私の頭に頭を重ねた。




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