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悪役は得意
しおりを挟む「話にならない」
荒々しい足音が聞こえリーストファー様が牢屋から出てきた。私は咄嗟に物陰へ隠れた。
リーストファー様が去って行き、私は牢屋の中に入った。
「まだ何か話があるのか」
薄暗い牢屋の中で足音が聞こえ、リーストファー様が戻ってきたとルイス様は勘違いしているよう。
「お久しぶりです」
私の声に背中を見せていたルイス様は振り返った。
「お前か、何か用か。ああ、殺したいなら殺せと言っていたもんな、わざわざ殺されに来たのか?」
ルイス様は笑い出した。
「ここより前には行かないで下さい」
リックは私を手で制した。
「私も馬鹿じゃないわ、同じ間違いはしないわよ」
「貴女は時々馬鹿になるので油断はできません」
「あら失礼ね」
「俺は隊長のように寸止めできるほど優しくもないし器用じゃないので、容赦なく斬りますからそのつもりで」
「分かったわ、気をつけるわ」
ルイス様の手が届かない場所から私はルイス様を見つめる。
「先程の話、聞かせて頂きました」
「盗み聞きか?」
「ええ、夫の不審な行動は妻として気になりますもの、確かめたいと思うのは当然です」
「なら話が早い。レティーをリーストファーの妻にするようにお前からも言ってくれ」
「なぜ?どうして私が?」
「お前はリーストファーと別れても戻る家があるだろ」
「確かに離縁してもお父様は快く迎えてくれるでしょう。
ですが、どうして私が貴方の頼みを聞かないといけないんです?一度殺されかけた貴方の頼みを、どうして私が聞くと?」
「レティーはなりたくて平民になった訳じゃない」
「確かにそうなのかもしれません。ですがそれなりの覚悟を持って平民になったと思いますよ」
「そんなの強がりだ」
「確かに強がりかもしれませんが、そう決めたのはレティアナ様自身です。お腹の子を守る為にご自分の意志で平民になられたのでは?」
「あのくそったれが馬鹿みたいな命令を下さなければ死ななかった…。
責任を取れ」
「確かに命令を下さなければ今も生きていたでしょう。ですが責任を取って離縁するのは話が違います。
それに貴方は大きな勘違いをしています」
「勘違い?俺が何を勘違いしていると言うんだ」
「リーストファー様のご実家、アンセム侯爵家には彼に譲る爵位はありませんでした。本来なら私も彼と婚姻した時点で平民のような暮らしをしていました。旦那様のお給金だけで暮らす、そういう生活です」
「だがリーストファーは伯爵なんだろ」
「リーストファー様は伯爵です。それは私が陛下から慰謝料として領地を頂いたからです。辺境のお隣の元バーチェル国の領地、あの戦場になった元ユミール領。隣国の領地だったあの土地を治めるには地位が必要です。王宮軍副隊長という地位でも申し分ないとは思いますが、それでも爵位が必要だと判断し私が父に頼み、彼は父から爵位を譲り受けました。王都で暮らしている伯爵邸も私が父から相続した邸です。
もし仮に、私がリーストファー様の愛人になったとします。邸は愛人の私の家です。そこで本妻のレティアナ様と一緒に暮らせと?使用人も私の実家の公爵家の使用人、誰もレティアナ様を迎え入れないでしょう。それに私も本妻と一緒に暮らすほど心が広くありません。
私が彼の愛人なので父も目を瞑ったとします。伯爵の爵位はそのままだとしても、領地は私が頂いた地、私の財産です。そこで得られる収入は勿論全部私の財産になります。その収入を本妻に回せと?愛人で、いつ捨てられるか分からない日陰者の私に必要なのはお金です。その大事なお金を本妻に回す馬鹿はいません。
もし、リーストファー様が本妻のレティアナ様を愛したら、愛人の私は捨てられます。私を捨てたリーストファー様を私の父が赦すとでも?父は本気で彼を潰しにかかるでしょう。爵位だけではなく副隊長としての地位も危うくなるでしょう。
アンセム侯爵がエルギール公爵に歯向かってまで息子を擁護するとは思えません。簡単に息子を切り捨てるでしょう。そしたら彼は何も持たないただの平民になります。剣の腕だけで生活する辺境の騎士達と同じです。
どのみちレティアナ様は平民のままです」
「リーストファーがレティーを愛すことはない」
「ルイス様?人の心は分かりませんよ?一緒に暮せば人の心は変わります。友情のままなのか愛情に変わるのかは誰にも分かりません。
ルイス様はどうしてもレティアナ様を貴族にしたいようですが、そもそも私は公爵令嬢、かたやレティアナ様は男爵令嬢。公爵令嬢の私が愛人で男爵令嬢のレティアナ様が本妻?笑わせないで?」
私は『ふふっ』と笑い、真剣な顔でルイス様を見つめた。
「男爵令嬢ごときに本妻を譲る?それは公爵令嬢の矜持が許さないわ。
平民の貴方には分からないかもしれませんが、貴族は縦社会、爵位が物を言うの。そこは男性も女性も同じよ?
公爵令嬢として、意地でも男爵令嬢を本妻にはしません。認める認めないは別としてよくて愛人止まりにしかなりません。
たかが平民の貴方が公爵令嬢を侮らないでくださる?」
私はにっこりと微笑んだ。
じっと私を見つめるルイス様。
「貴方のその目、不愉快だわ」
私はルイス様を見下すように見つめた。
ルイス様は私を睨んでいる。
「悪魔のような女だな」
「あら、褒め言葉として受け取らせてもらうわ」
『ふふっ』と私は微笑んだ。
私は公爵令嬢ならと言っただけで私がどう思っているのかは別。
リーストファー様の愛を他の女性に譲るつもりはない。リーストファー様の愛を独占できるのなら妻だろうと愛人だろうとどちらでもいい。
でもそれは、リーストファー様がそう言ったのならの話。『頼むミシェル』そう言われたら私は甘んじて受け入れる。
私だって本音を言えば妻の座は譲りたくない。それでも妻の座とリーストファー様の愛、どちらかを選ぶのなら、私はリーストファー様の愛を選ぶとすぐに答える。
それでもやっぱり癪じゃない?
ルイス様には負けたくない、だから私は悪魔だろうが悪女だろうが悪役を演じてみせる。
案外得意分野なのよね。
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