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12 娼婦ハンナ ②
しおりを挟む私は木の陰から幸せな家族を見ている。
この絶望は計り知れない。目の前が暗闇になっていく。そして私の内も黒く塗りつぶされていく。
お母様は私をいない者としてまた新たな家族を作った。
新たな夫と新たな子供
そしてその家族の中で幸せを掴み生きている。
「やっぱり自分の娘は可愛いな」
「ふふっ、そうね。でもシャーリーだけ?ライルは可愛くないの?」
「勿論ライルも可愛い。年をとってから出来た子供達だから尚更かもしれないが愛しいエイミーと俺の子供だから余計に可愛い」
リクルさんは自分の子供じゃない私を受け入れられなかった。だから他の男の子供の私を一緒に連れて行かなかった。
ふっ、リクルさんにとって私は邪魔者。
私も今更お母様と一緒に暮らしたいとは思っていない。この幸せな家族の一員になりたいとは思わない。
そこは私の場所だった。でも疾うの昔に失った場所。
貴族令嬢だった私が今や平民。それも娼婦まで落ちぶれた。お父様、お母様、フェイン、ワンスさん、皆を信じて裏切られた。
この先の私の人生、
もうどうでもいいわ
私は来た道を帰り娼館まで戻った。
誰を憎めばいいか、誰を恨めばいいか、でも結局自分自身を憎み恨んでしまう。
この世に誕生した事が不運
何もしないお母様を私が捨てれば良かった。
お祖父様に伯父様に取り入って私だけ王都に残れば良かった。私が使える駒だと分かればあのお祖父様なら私を容赦なく使う。そしたら今も貴族として何不自由ない生活が送れていたかもしれない。
それにフェインが王都に行った時に一緒に付いていけば良かった。そしたらフェインは他の女なんか作らず今も一緒に幸せに暮らせていたかもしれない。
そしたらワンスさんと結婚なんかせず自由を手にできていたかもしれない。
でも実際はお母様を捨てられなかった。お母様の愛をもう一度欲したから。いつかを夢見てお母様の側から離れる事が出来なかった。だから私は領地に残る選択をした。そしてお母様とフェインに捨てられてワンスさんに愛を求めたの。結婚すれば愛してもらえると子供が出来たらもう捨てられないと、そう思ったから…。
私も愛されたい
もう捨てられるのは嫌だ
もう置いていかれるのは嫌だ
もう、一人は、嫌だ……
「ハンナ!」
娼館の前でマダムが待っていた。
「ハンナ」
マダムは私を抱きしめた。男性に抱かれても温もりなんて感じなかった。
でもマダムの体温が私の冷めきった体を温めた。
「ふふっ、あったかい……」
「馬鹿だね、人はあったかいんだよ」
「ふ、ふ、ふっ、ふふっ……」
マダムのゆっくり背中を撫でる手に、私はマダムの体に顔を埋めて涙を流した…。
「馬鹿な子だね、こんなに冷えて……」
マダムは泣いてる私に気付かないふりをしてくれた。
マダムと一緒に娼館へ入った。ここが今の私の居場所。
「ハンナ、あんた危なっかしくて見てられないよ。マダム、ハンナを私付きにしてくれない?」
「リズ姉さん…」
「ハンナ、あんたが華になるか蕾のままか、それは誰も分からない。それはあんたが決める事だよ。固く閉じた蕾のままでいいならそれでもいい。無理矢理こじ開けても綺麗な華は咲かない。
でもね、あんただけじゃない。苦しいのも辛いのもあんただけじゃない。ここにはあんたの気持ちが分かる人しかいない。私だって通った道だ。誰を憎んだって誰を恨んだって結局自分の運の無さを憎み恨むんだ。誰だって好き好んで娼婦になった子はいない。でも私達はここで生きていくしかないんだ。
ハンナ、綺麗な大輪の華を咲かせて見返してやればいい。幸せは自分で掴めばいい。その為にはまず今の自分を自分が認めてあげるんだ。そして自分自身を愛しな。
そしたら自分の体を大事にする。無体を働く男達の言いなりになんかならない。どう交わしどう接するか私を見て学びな」
「分かった。ハンナ、あんた今日からリズ付きになりな」
それから半年、私はリズ姉さん付きになり姉さんが男性と情事している時、カーテンの後ろで控えている。
ほとんどの人は私の存在を気にせず姉さんと楽しんでいるけど中には私を呼び見てほしい人もいる。そういう人の時、姉さんは手練手管を私に見せる。手でしたり口でしたり、私には未知の世界だった。
また違う人は私に触れようとした。
「この子に触るんじゃないよ。あんたの相手は私じゃないのかい?私だけで満足出来ないならもうあんたの相手はしないよ。さっさと帰りな」
「悪かったリズ、機嫌直してくれないか」
「ならあんたの相手は誰だい?」
「リズだ」
「なら余所見しないでおくれよ」
そう言うとリズ姉さんは男性に甘い声でしなだれかかった。
まるで飴と鞭を使い分けているよう
娼婦は媚びるだけだと思っていた。でもマダムも言っていた。主導権は男性ではなく娼婦。そしてリズ姉さんは男性を自分の虜にするように体を使い声を変え完全に虜にした。
さっきまで私に触れようとしていた男性が今は私の存在なんか目に入っていない。男性の目に映っているのは姉さんだけ。そして姉さんの体を大事に大切に扱っている。
私が相手した男性は自分本位だった。好きなように出し入れし果てた。苦痛しか残らない行為。姉さんのように甘い喘ぎ声も何一つ出なかった。
これが娼婦
泡沫の恋を売り夢を売る館
どんな華が咲くか私も分からない。
でも私は、娼婦ハンナ
自分を好きになろう。自分の体を大事にしよう。
娼婦ハンナとしてこれから生きていく為に。
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