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面会1
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「ふぅ……」
鏡に映る自分の姿を見て、沙耶はため息をついた。近頃はことある事にため息をつくのが癖になってしまっていた。
「お気に召しませんか?」
髪を整えてくれていた綾乃がそんな様子の沙耶を気にして手の動きが止まる。
「いえ、そんな事はありません」
沙耶は慌てて否定する。丁寧に編み込んだ髪にビーズ付きのピンを飾ってくれていたところだった。ピンクを基調としたビーズが光を反射してキラキラ輝き、とても綺麗だ。
「今から緊張していたら体がもちませんよ?」
どうやらため息の原因を理解したらしい綾乃が笑いながら作業を再開する。
「それはそうですけど……」
今日はお守りの詳細を知っているという人物に会う約束をしている。指定された時間は午後だが、場所が少し離れているので、もうそろそろ出かけなければならない。
「さあ、できましたよ」
最後のピンを止め終えると、綾乃は沙耶の肩にかけていたケープを外す。沙耶は立ち上がると大きな鏡の前に立って自分の姿を眺めてみる。
今日選んだのは淡いピンクのワンピースだった。これも先日義総に買ってもらったもので、バルーンスカートが気に入って選んでいた。袖が無いのでレースのボレロを羽織り、同系色のパンプスを履く。だいぶヒールのある靴にも慣れて来たから一日履いていてもきっと大丈夫だろう。
「できたか?」
義総の寝室に続くドアが開いてスーツ姿の義総が部屋に入ってきた。何でも着こなす彼はどんな格好していても素敵だ。思わず沙耶は頬を染める。
余程先方は身の回りの安全を気にしているのか、当日となった今でもどんな相手が来るのか詳細が伝わって来ていない。
その苛立ちを義総は表に出さないようにしているつもりらしいが、ここ数日、夜になって沙耶を求める激しさは以前にも増している。相変わらず幸嗣も加わり、夜な夜な沙耶は失神するまで2人に求められるので、翌日は昼を過ぎても起きられない有様だった。だが、さすがに昨夜は今日の面会に支障が出ないように2人とも遠慮してくれていた。
「これを忘れてはいけないな」
あのルビーの首飾りを綾乃から受け取り、義総は沙耶のほっそりした首にかけてくれる。ピアスは常につけているので、お守りに入っていた指輪をはめて身支度が整った。
「さ、どうぞ」
綾乃が上品なバッグを差し出す。昨夜のうちにハンカチ等の小物のほか、大事なお守りも入れて準備を整えていた。
「ありがとうございます」
沙耶がバッグを受け取ると、義総がさっと腕を組ませてエスコートする。
「さ、行こうか」
義総に促され、部屋を出て玄関に向かう。
ちなみに幸嗣はどうしても外せない講義があり、今日は渋々同行を諦めた。綾乃の話によると、大学に出かけるまでブツブツ文句を言っていたらしい。
既に車の準備は整えられていて、塚原と青柳が玄関で待っていた。玄関の重厚な扉を塚原が開けてくれ、外へ出ると雨が降っていた。前線が通過する影響で、昼間は荒れた天気になるらしい。
「さ、お乗りください」
塚原が沙耶の為に車のドアを開けてくれる。車寄せには屋根があるので、雨を気にせず乗り込める。
「ありがとう」
笑顔で塚原に礼を言い、車に乗り込もうとしたその時にひときわ大きな雷が鳴る。
「キャァァァ!」
沙耶の脳裏に雷雨の中、山林を1人彷徨った記憶が甦り、思わず耳を塞いでしゃがみ込む。
「沙耶?」
義総が慌てて近寄り、震える彼女を抱き上げる。塚原もいつも冷静な青柳も血相を変え、更には綾乃も玄関から飛び出してきた。
「どうした?気分が優れないなら今日は取りやめるが……」
「……大丈夫です。すみません、ちょっと……びっくりしただけ」
まだ震えが止まらないが、義総の腕から降りようとする。これで取りやめにしたら、根気強く連絡を待ち続けた義総の苦労が水の泡になってしまう。
「無理はしなくていい」
「いえ、大丈夫です」
きちんと答えたつもりだが、それでも義総に縋る手はまだ震えている。そこへまた雷鳴が轟き、沙耶は義総に縋りつく。
「沙耶? そうか、あの時の……」
義総はようやく沙耶が脅えている理由を理解した。あの時彼女は雷雨の最中、暗い山道を1人彷徨ったのだ。雷に対してトラウマとなっていてもおかしくは無い。今日の外出を本当に取りやめようかと迷ったが、腕の中の少女に優しく声をかける。
「私がついている。大丈夫だ」
義総はしっかりと彼女を抱きしめると、そのまま車に乗り込んだ。面会の日にちを改める事もできるが、今日を逃せばようやく掴みかけた真相への接点を逃す気がした。とにかく目的地に着くまでこうしていればいい。
義総の判断に周囲も素早く対応する。塚原が車のドアを閉めると青柳もすぐさま運転席に乗り込んだ。
「行ってらっしゃいませ」
塚原と綾乃が玄関先で頭を下げる。車は静かに動き始めた。
鏡に映る自分の姿を見て、沙耶はため息をついた。近頃はことある事にため息をつくのが癖になってしまっていた。
「お気に召しませんか?」
髪を整えてくれていた綾乃がそんな様子の沙耶を気にして手の動きが止まる。
「いえ、そんな事はありません」
沙耶は慌てて否定する。丁寧に編み込んだ髪にビーズ付きのピンを飾ってくれていたところだった。ピンクを基調としたビーズが光を反射してキラキラ輝き、とても綺麗だ。
「今から緊張していたら体がもちませんよ?」
どうやらため息の原因を理解したらしい綾乃が笑いながら作業を再開する。
「それはそうですけど……」
今日はお守りの詳細を知っているという人物に会う約束をしている。指定された時間は午後だが、場所が少し離れているので、もうそろそろ出かけなければならない。
「さあ、できましたよ」
最後のピンを止め終えると、綾乃は沙耶の肩にかけていたケープを外す。沙耶は立ち上がると大きな鏡の前に立って自分の姿を眺めてみる。
今日選んだのは淡いピンクのワンピースだった。これも先日義総に買ってもらったもので、バルーンスカートが気に入って選んでいた。袖が無いのでレースのボレロを羽織り、同系色のパンプスを履く。だいぶヒールのある靴にも慣れて来たから一日履いていてもきっと大丈夫だろう。
「できたか?」
義総の寝室に続くドアが開いてスーツ姿の義総が部屋に入ってきた。何でも着こなす彼はどんな格好していても素敵だ。思わず沙耶は頬を染める。
余程先方は身の回りの安全を気にしているのか、当日となった今でもどんな相手が来るのか詳細が伝わって来ていない。
その苛立ちを義総は表に出さないようにしているつもりらしいが、ここ数日、夜になって沙耶を求める激しさは以前にも増している。相変わらず幸嗣も加わり、夜な夜な沙耶は失神するまで2人に求められるので、翌日は昼を過ぎても起きられない有様だった。だが、さすがに昨夜は今日の面会に支障が出ないように2人とも遠慮してくれていた。
「これを忘れてはいけないな」
あのルビーの首飾りを綾乃から受け取り、義総は沙耶のほっそりした首にかけてくれる。ピアスは常につけているので、お守りに入っていた指輪をはめて身支度が整った。
「さ、どうぞ」
綾乃が上品なバッグを差し出す。昨夜のうちにハンカチ等の小物のほか、大事なお守りも入れて準備を整えていた。
「ありがとうございます」
沙耶がバッグを受け取ると、義総がさっと腕を組ませてエスコートする。
「さ、行こうか」
義総に促され、部屋を出て玄関に向かう。
ちなみに幸嗣はどうしても外せない講義があり、今日は渋々同行を諦めた。綾乃の話によると、大学に出かけるまでブツブツ文句を言っていたらしい。
既に車の準備は整えられていて、塚原と青柳が玄関で待っていた。玄関の重厚な扉を塚原が開けてくれ、外へ出ると雨が降っていた。前線が通過する影響で、昼間は荒れた天気になるらしい。
「さ、お乗りください」
塚原が沙耶の為に車のドアを開けてくれる。車寄せには屋根があるので、雨を気にせず乗り込める。
「ありがとう」
笑顔で塚原に礼を言い、車に乗り込もうとしたその時にひときわ大きな雷が鳴る。
「キャァァァ!」
沙耶の脳裏に雷雨の中、山林を1人彷徨った記憶が甦り、思わず耳を塞いでしゃがみ込む。
「沙耶?」
義総が慌てて近寄り、震える彼女を抱き上げる。塚原もいつも冷静な青柳も血相を変え、更には綾乃も玄関から飛び出してきた。
「どうした?気分が優れないなら今日は取りやめるが……」
「……大丈夫です。すみません、ちょっと……びっくりしただけ」
まだ震えが止まらないが、義総の腕から降りようとする。これで取りやめにしたら、根気強く連絡を待ち続けた義総の苦労が水の泡になってしまう。
「無理はしなくていい」
「いえ、大丈夫です」
きちんと答えたつもりだが、それでも義総に縋る手はまだ震えている。そこへまた雷鳴が轟き、沙耶は義総に縋りつく。
「沙耶? そうか、あの時の……」
義総はようやく沙耶が脅えている理由を理解した。あの時彼女は雷雨の最中、暗い山道を1人彷徨ったのだ。雷に対してトラウマとなっていてもおかしくは無い。今日の外出を本当に取りやめようかと迷ったが、腕の中の少女に優しく声をかける。
「私がついている。大丈夫だ」
義総はしっかりと彼女を抱きしめると、そのまま車に乗り込んだ。面会の日にちを改める事もできるが、今日を逃せばようやく掴みかけた真相への接点を逃す気がした。とにかく目的地に着くまでこうしていればいい。
義総の判断に周囲も素早く対応する。塚原が車のドアを閉めると青柳もすぐさま運転席に乗り込んだ。
「行ってらっしゃいませ」
塚原と綾乃が玄関先で頭を下げる。車は静かに動き始めた。
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