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祝福されし太陽の神子の役目
17 最後の夜 ★
しおりを挟むあくる日もあくる日も宴は続き、そして七日目最後の朝がやってきた。
溜まりに溜まった疲れと興奮のせいか、頭がくらくらする。身体が動かない。まともにものが考えられない。
四日目の朝からはずっと赤くて甘いあの果物とプルケだけを口の中に入れられた。それ以外のものは何も食べていない。朝も昼も夜も曖昧で、しょっちゅうトナティルの意識と同化して、その間もずっとずっとアトラの腕の中で身体の中も外もあらゆる場所を優しく優しく愛され続けた。
自分が起きているのか眠っているのかもわからない。耳の穴をくすぐられただけで甘イキしては精を漏らし、手のひらで胸を覆われて揺らされて、首筋に軽く歯を立てられただけで絶頂する。息も絶え絶えになればあの赤い果実を食べさせられ、プルケを飲まされた。
散々イかされて精も根も尽き果てても、夜が明ければまた身体の深いところで何かが目覚めて朝勃ちまでしている。気持ちも身体もひどく昂っていて、そのくせ疲労は限界を超えていて動けない。
ふと気が付くとすぐ隣にアトラが肘をついて横たわっていて、俺をじっと見つめていた。そしてまだ夢うつつな俺の両足の間にそっと手を差し入れて、長く節だった指でゆるゆると愛撫してくれる。
「あっ、あっ、……っ、っぅ、……んっ」
ああ、気持ちがいい。泣きたくなるくらい気持ちがいい。アトラが俺の上に覆いかぶさって来る。
アトラがさも愛おしいものでも見るように目を細めて、ついばむように口づける。ちゅ、ちゅ、ってかわいい音まで立てて、時々唇を食んで、舌先でくすぐってはまた微笑む。その間もずっと、毎日弄られすぎて腫れたペニスの代わりに後ろの孔をぬるぬると指が出入りしていて、それがあまりにも気持ち良すぎて何も考えられない。
甘やかされている。大事な宝物みたいに可愛がられて、頭も心もふわふわとして。
幸せだ、と思った。こんな幸せ、普通に生きてたら絶対に味わえない。
そうだろう? とトナティルが笑う。
――――それも全部、オレたちが祝福された太陽の神子だから。オレたちが特別だから。
夜の空、夜の風、我らを生かしている者、煙りを吐く黒い鏡。偉大なる神に最高の供物が捧げられるのは五番目の月、そう、明日だ。
その日の夜、《夜の座》の黒の鏡の前に最後の杯を置いたのはアトラだった。祭司長はこの七日間で初めて笑みを浮かべて高らかに声を張り上げる。
「見よ! 祝福されし太陽の神子よ! これで神に捧げる七日間は見事成された! 明日、我らはこの世でもっとも価値のあるものを神に捧げる! そして来る新たな一年を神の祝福と守護の元に生きるのだ!」
石の広場の篝火は今まで以上に大きく燃え上がり、人々はそれを囲んでついに宴が終わることを寿ぎ、祝う。
俺も巨大な黒い鏡の前のいつもの場所に座りながら、外の人たちと一緒に諸手を上げて歓声を上げたかった。やっと、やっとだ。俺の中でトナティルが喜び叫んでいる。待ちに待った最後の日はもう目の前だ! 俺もトナティルと一緒に快哉を上げる。
捧げられた七つの杯の前から立ち上がり、振り向いたアトラが俺を見る。彼の目はやっぱり神の現身と呼ばれる磨き抜かれた黒の鏡によく似ていた。
◇ ◇ ◇
寝台の帳を降ろし、女たちが部屋から出て行く。窓の外では最後の篝火を夜明けまで守るために浮かれ騒ぐ人々の歓声がまだ響いている。その中で俺とアトラは寝台に横たわり、黙って互いの顔を見ていた。疲労は限界を超え、眠くてたまらないはずなのに気持ちがひどく高揚して落ち着かない。
今日で七日間の宴が終わった。明日、ついに最後の祭りの日がやってくる。
「ついに最後の夜だ」
勝手に口が動いてそう言った。そう、最後の夜だ! 俺は思わず起き上がってアトラを見下ろす。
「どうしよう、ドキドキして眠れないんだ。明日、明日なんだろう? 明日になったら、ついに俺は、」
俺は――――一体何をするんだろう? 思わず首を傾げる。
トナティルと同化して、より強く彼を感じるようになって、祭司長の言葉は全部わかるし他にもいろんなことを知っている。だけど明日の祭りのことだけはまだよくわからない。
でも不安や心配はなかった。だって俺が何かヘマをしそうになっても、きっとトナティルが現れて見事に役目を果たすだろう。だってトナティルはずっとずっとその日を楽しみに待っていて、今だって明日が待ちきれなくてこんなにワクワクしているんだから。
トナティルの興奮は俺にも伝染して、昂った気分のままに俺は笑ってアトラに言った。
「アトラ、今までずっとありがとう。俺が失敗しそうになったら庇ってくれただろ? それにずっと俺に優しくしてくれた。それがアトラの役目だからかもしれないけど、それでもやっぱり、ありがとう」
するとアトラが驚いたように瞬きをした。それから切れ長の目がゆっくりと細くなって、端正な顔にじわじわと笑みが広がっていく。それを見て俺はますます嬉しくて幸せな気分になった。
アトラが手を伸ばして俺を上に乗せた。そしてとびっきり甘くて優しいキスをしてくれる。男が男にキスされてこんなに嬉しいとか本気でヤバくないか? と思わなくもないけど幸せなものは幸せなんだからしょうがない。
――――いいぞ、もっと自分に正直になれ。
ほら、トナティルだってそう言ってるじゃないか。
――――太陽の神子は、太陽のように晴れやかで幸福でなければ。世界で一番幸せだからこそオレたちの価値も上がるというものだ。
そうか、そうなのか。
大きな手のひらが夜着の中に這い込んでくる。俺の右の胸を覆ってそのまま動きを止めた。アトラの体温が胸の奥にまで伝わってくるような気がする。アトラに覆いかぶさってもっと、とキスをせがむと、合わさった唇の間からアトラが笑う低い声が不意に聞こえた。めったに聞けない彼の声に心臓がますます高鳴る。揶揄うようにアトラの親指が胸の先端をくすぐってきて、そのまま捏ねるように動き出す。
「っあ、……っ、んっ、んっ」
胸を弄られて馬鹿みたいに気持ちがいい。アトラの太腿に跨って股間を擦りつけながら身体を揺らす。ああ、きもちいい、きもちいい。でももっと。もっと欲しい。
アトラは最後までずっと優しかった。初めてセックスをする初心な女の子にするみたいにずっと俺の呼吸とペースに合わせてくれて。束ねた指でナカを掻き回されて俺がいっぱいいっぱいになると落ち着くまで待ってくれた。奥へ奥へと入ってくる指や舌やいろんなものに俺が急に怖くなって身体を震わせると額や目尻や唇に何度もキスしてくれて、そしてものすごく大きなモノを腹いっぱいに埋め込まれて息ができなくなると背中を撫でてぎゅっと抱きしめてくれた。
「あ、や……っ、ぁあっ、ま……って……っ、ダメ、……ぇっ、あっ」
アトラのかたくてあついのが、おれのなかをいったりきたりしている。
いちばんおくを、ずく、ってついて、それからやさしくゆさぶられる。
きもちよすぎてこえがとまらない。
夢の中でトナティルが歓喜している。
――――さすがはオレが選んだ従者。その磨き抜かれた黒い切っ先は神のために振るわれるのにふさわしい!
結局、アトラがどういう人なのかほとんど知ることはできなかった。
もっと話してみたかったな、とふと思う。彼の名前には何か意味があるのかとか、どんなものが好きでどんなことがしたいかとか。彼の声をもっとたくさん聞いてみたかった。
――――何を言う。オマエはアトラをもっと深いところですでに知ったじゃないか。
にんまりと笑うトナティルはどこか意地悪そうで、そんなところがますます美しい。
トナティルが笑っている。
間もなく夜が明ける。そして最後の祭りが始まる。祭りが終わればまた新たなる一年が始まる。このメシカが神と共にあり、神に守られて栄華を極める一年が!
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