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第3章
第25話
しおりを挟む頑張って1時間以内に身支度をすませると
社長は行くぞといって
そのままマンションを出た。
そしていつものエントランスでは
なく地下に降りていくので
訝しんでいると駐車場についた。
どうやら車で行くらしい。
社長の後ろについていきながら
置かれている車を見ながら唖然とする。
やはりタワマンの駐車場なだけあって
どれもこれも高級車ばかり。
小さいものまで外車である。
そして前を歩く社長がある車を前に
止まるとそこには誰もが憧れるであろう
あの有名な外国車がでーん!と
三列あるど真ん中に鎮座していた。
(ピカピカすぎる!)
まさかこれに乗るつもりでは…
慄いている私なんか
気にもせず社長は平然と
車のキーを開けた。
そしてそこでやっと私に振り返ると
いきなり腰を抱いてくるので
ひゃっ!と思わず声を出して驚く。
「なに驚いてんだ?さっさと乗れ。」
そう言って腰を抱きながら
助手席(もちろん外車なので左ハンドルだ。)の扉をあけて私を車に誘導した。
(ひょえー!馬車に乗り込むみたいじゃん!御者いないけど!)
というかシートの乗り心地が
半端なさすぎる!
うわわぁと感動していたら
社長がいまだにドアを閉めていないことに
気づいて社長の方に振り向くと
私をじっと見つめてくるから
心臓がドキドキしてくる。
(なっなに?)
恥ずかしいのに目が離せなくて
首だけを小さく傾げるとフッと笑って
社長の顔が途端に近づいてくる。
(キッキスされる!?)
どんどんとスローモーションのように
端正な社長の顔が近づいてくるものだから
思わすぎゅっと強く目を閉じた。
キスぐらいなら…。
こんなところだけど…。
…シュッ。
…シュー。
と一向に唇に触れた感触がないな。
なんて思ってたら
耳横で音がしてそのすぐ後に
社長がクスクスと笑いを堪えているのが
聞こえてくる。
そして体に締め付け感を感じて
目を開けるとシートベルトを締められていた。
(あっシートベルト…)
状況を理解した途端
落胆したのもつかの間恥ずかしさで
ボン!ッと顔が赤面していく。
「まさかキスされると思ったの?」
甘く低い声で囁かれて
ドキリとして
つい社長を下から睨みつけてしまう。
「してほしかったか?」
余裕の笑みで微笑まれれば
ムカつくのに何も言えなくなる。
「結構です!」
無意識に頬を膨らませて
睨みつけていたら
社長は今度こそ声を出して
笑うと私のフグみたいに膨れてる
頬に指でツンとつつくと
ドアを閉めた。
好きを自覚してから
社長の行動ひとつひとつに
ときめいてしまって
心臓がもたない。
ほら今隣に乗り込んで
車を走らせてる横顔ですら
キュンと胸が熱くなるんだから。
優しくて穏やかな智さんを
好きだと思っていた。
大人な包容力で包まれているのが
幸せだった。
だけど社長を好きになってからは
心が煩いくらいにドキドキして
一緒にいれば苦しくなる。
それでもずっと一緒に居たいと
思ってしまう。
社長に連れていかれたのは
これまた都内の一等地にある
有名ブランドの事務所だった。
世界で活躍するアパレルブランド
"HASEGAWA"のオフィス。
若手のデザイナーである
長谷川健斗が学生時代に
立ち上げたブランドらしく
その類稀な才能で瞬く間に
業界で人気が出て
新作がでれば即完売は当たり前。
海外の著名人も彼の服を求めて
わざわざ来日しに来ると言われている。
各国のセレブ達は彼に直接仕立ててもらっているとかも耳にするほど
超がつくほどの絶大な人気がある。
私もお金がないから買えないけど
いつもSNSチェックだけは欠かせない。
そのSNSですらお洒落でどの写真も
ほぉと感嘆のため息が出てしまうくらい。
お金なんて気にしなくていいなら
全身HASEGAWAブランドで固めたいほど。
そんな大好きなアパレルブランドの
オフィスの応接室に私は社長と並んで
座ってお茶を飲んでいる。
いやいやいや!
なんなの!?
意味がさっぱりわからない!
そんなすごい場所にのほほんと
お茶を啜ってる場合じゃなくないですか!?
待って!いや待って!
社長!いくら社長でも
足を組んでソファの後ろに腕を置いたりして
何寛いでんの!?
私はただ今背中に冷や汗かいてますけど!
世界を股にかけるアパレルブランドが
まさかのあったかいお茶を出すのも
意外だけどそのギャップがいい!
なんて思う余裕すらないわよ!
…いや今少しだけ思ったけど。
そんな風に一人あたふたしていると
トントンとノックがした後
ガチャリと扉が開いた。
入ってきたのは想像していた通り
その超絶人気を誇る若手デザイナーの
長谷川健斗。ご本人だった。
「待たせてすまなかったね。」
応援ありがとうございます!
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