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第3章

第26話

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その長身に見合った
しなりとした体躯。
細身だけど決して痩せっぽちではなくて
キリリとした切れ長の目元に
スッと筋の通った鼻筋。
唇は薄めで顔のバランスが整っている。


社長とはまたタイプの違う
イケメンだ。

社長はシトラス香る爽やかなのに対して
彼は冷たく感じるようなクールな印象。


その澄ました顔がいい!
なんてお洋服じゃなくて
彼目当てで買いに来る人もいる。
ってテレビで言ってたけど
実際目の前で見ると納得する。


「あぁ。別にいい。久しぶりだな健斗」


さっきまで冷や汗かいて
焦っていたのに彼が入ってきて
一瞬惚けたあとすぐに立ち上がった私に対して
隣にいる社長は座ったままだったことに
ギョッとしていたら…


(まさかのお知り合い!?)


「君から来てくれるなんて珍しいこともあるんだね。」


そう言って颯爽と前のソファに座ると
私にどうぞ座ってください。と
ニコリと微笑まれた。

微笑んだ表情はクールさを隠して
甘さが出てくる。

きっと社長と出会っていなければ
イケメンに慣れなくて赤面していたと思う。

良くも悪くも毎日社長のご尊顔を拝見
しているといつのまにか耐性が
ついていたのだろう。


なんだか私だけ立ち上がってて
恥ずかしいなと思ってました。

座るタイミングを見失って
どうしようと思っていたので
有り難く座らさせてもらう。


私が座った後すぐに綺麗な女性が
熱いお茶を持って入室してくると
彼の前に置くと一礼してから退室していった。

その仕草も一連の動作も
隙がなく完璧で
異世界なら完全に侍女長だわ。
おそらく上位貴族出あたりかな?
と思考が飛びかけて慌てて元に戻す。


「最近は仕事が忙しくてな。お前も随分活躍してると聞いた。」

「お陰さまで。忙しくさせてもらってるよ。」

「最後に会ったのはいつだったか?本当に久しぶりだな。」

「たしか3年は前じゃない?本当に来てくれて嬉しいよ。」


イケメン二人が和かに
談笑してるのをこんなに間近で
見れるなんて
それもどちらも大富豪…。


(第二王子と公爵家嫡男ぽい)


とまた異世界に飛びかける。
今日はもう私の住む世界と違いすぎて
思考が飛びまくりだ。


なんて思っていると社長が
とんでも発言をかました。


「今日はこいつのパーティ用のドレスの仕立てを頼みに来た。」


そう言って親指で私を指差すものだから
飛んでいた意識が途端に戻される。

そして目の前に座っている
彼も目を丸くして私に視線を向けてくる。

「彼女を?」

驚いたように訝しむように
聞き返すのに対して社長は
即答で返事をした。

「寸胴で顔も悪いがお前の腕でそこそこに仕上げてくれ。」

ちょっと!
聞き捨てならない言葉が
2つほど出ましたけど!

顔は服に関係ないですよね!?


ってそんなことは置いといて!


「しゃ、社長!?わ、私は大丈夫です!」

慌てて彼に断る。

いくら二人が知り合いだからといって
私に仕立てさせるなんて
恐れ多すぎるし社長は一体全体
どうしてそんなことを思い付いたのか
今すぐ話し合いたい。


「まぁー。頑張れば少しでもよくはなるかもだけど…。ちょっと立ってくれる?」


顎に手を当てながらううんと
唸りながら私を観察するように見てくる。

(私のお断り聞いていました?)

茫然としていると
横にいる社長が立ち上がり
私の腕を掴んで立たせた。

立ち上がった私を上から下。下から上。
と視線が上下に見た後クスクス笑われる。

「あぁ。確かに寸胴だね。」

……。


一流の男性はみんな思ったこと
口にするものなの!?


「ああ。ごめん。蓮が女性に対して悪態つくのを見るのが初めてだったものだからつい釣られて。」


そうでしょうね。
社長の周りにはどの女性も
綺麗な方しか集まりませんからね。

私みたいにちんちくりんは
恐れ多くて近寄りませんから。


それはきっと貴方もそうでしょうね。


とやさぐれ気分になっていると
隣から社長が私の肩を抱いて少しだけ不機嫌な口調になって言った。

「こいつをいじめていいのは俺だけだ。お前はいつも通り女には優しくしてろ。」

「おや?あの蓮が独占欲出すなんて明日地球が滅ぶんじゃない?」

クツクツ笑う長谷川さんは
心底面白そうだ。

そんな私は社長の言葉に
少しだけ…いやかなり嬉しくなった。

悪口自体はちっとも嬉しくないけれど
なんだか私だけの特権みたいで。


私は自然と頬が緩んでいたことに
気づいていなくて
そんな私を社長が微笑ましく
見ていたことも知らない。

「ふーん。案外お似合いだね。」


ボソリと長谷川さんが何か言ったけど
聞き取れなくて首をかしげる。


「まぁ素材はそこまで悪くないし。僕に任せて。」


そういうと長谷川さんは
応接室から出ると数分してから
何人かを連れて戻ってきた。



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