パンドラベッド
当初、一人称でありながら、どこか俯瞰して自分を見ているようなヒロイン。
彼女の受けてきた有形無形の傷は、自分を大切に思えない彼女自身の感覚がまだ鈍いため、序盤から逆に危うさを忍ばせて見えました。
その傷も自分のものとして、痛みとともに受け入れられたのは、数は少なくとも信頼出来る人たちが身近にいてくれたおかげなのだなと思うと、人は人が救うのだなと教えられます。
拠り所なく過ごしてきたようにも見えて、母や愛ちゃんやリクから持ちよられた思いやりの中に、彼女の居場所はあったのですね。
その思いやりは、彼女が大切に思う人達に、不器用にでも彼女が抱いてきたものでもありました。
人間が人の間と書くように、まさに彼女たちの間に相互に存在した思いが結実してくれて、よかったです。
懊悩する彼女の意識の出口、アウトプットの唯一の道具として与えられている人間の体は、あまりに不完全で裏切りやすく、傷つきやすいものですね。
彼女の内面を知る読者からすると、むしろ素直そうに見えるのに、外からは「何を考えているのかよく分からない」と言われてしまうタイプなのではないでしょうか。
彼女が少しずつ、体を通して頭の中身と周りの世界とを繋げ直していくような過程は、本作の大きな魅力でした。
一方、冒頭部分からしばらくはモノローグというよりはナレーションのようで説明的に感じられ、なかなか感情移入がしにくく、できれば彼女の動作や言動で、もう少し生っぽい読み味が得られると嬉しいかなと思いました。
読者として嬉しかったのは、終盤、パートナであるリクと、読者との、姫乃の過去についての知識が同等になったことです。
「リクがそんなに色々知らないままで、二人は本当に大丈夫か…?」という不安が払拭され、二人の歩く穴だらけの地面が平らかになったような安心感がありました。
最後に彼女は生への渇望を肉体で表現し、体はその切望を叶え、生存に成功したのですね。
痛ましいエピソードながら、彼女がここに至るためのここまでの物語でもあったのだろうなと思います。
面白すぎて結局ラストまで一気読み。
最後は思い切りハラハラさせられましたが、生きるってこういうこと。どこか幽体離脱しているような生き方だったヒメノちゃんが、生にしがみつける「ひと」になれて、本当によかったと思います。愛のある出会いに感謝。
圧倒的な読みやすさと、思わず唸る言葉選びのセンス。夢中になって拝読しました。
心に、私の夜に沁みる作品を本当にありがとうございました。