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第3章 危機
第14話 競技会 その2
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◆Side アイリス◆
「外方脚をそんな中途半端に使ったら、拍車がチクチク当たって気になるわよ。」
「ごめん。」
「謝らなくて良いから。拍車を使うならしっかり使う、使わないなら刺さらないようにすること。」
「はい!」
私はシメイを乗せながら、気になった事を伝えている。
なぜこんな事ができるかというと、リンさん――いつも私に乗る女の人から、自分をそう呼んでくれと言われた――のお陰だ。
今朝、彼女とは次のような会話をした。
「大丈夫よ。あなたが話せることは、誰にも言わないから。」
「すみません。ありがとうございます。」
「いいのよ。それでね、競技会まで、あなたにはシメイをメインで乗せようと思ってるの。」
「それはありがたいですが、良いんですか?」
「ええ。それでね。あなたにはシメイに直接指導してもらいたいのよ。」
「えっ?」
「姿勢とかについての注意は私がするけど、扶助とかはあなたが直接言った方が伝わるでしょう?」
「それはそうですが、私が声を出しても大丈夫なんですか?」
「私が指導しながら、他の人が居ない場所に誘導するわ。そしたら、声を出しても大丈夫よ。」
「ありがとうございます。でも、どうしてそこまで……。」
「シメイには上手くなって欲しいんだけど、馬に遠慮する所がそれを妨げているわ。」
「それは、私も感じます。でも、それがシメイの良い所でもありますよね。」
「あらあら、惚気かしら?」
「いえ、そんなんじゃ……。」
「ふふ。確かに、優しいのは彼の良さだけど、時には厳しさも必要だと思わない?」
「それは、そう思います。」
「でしょう?それでね。私達が注意してもなかなか改善されないし、馬であるあなたから言ってもらえれば、彼も聞くんじゃないかと思うのよ。」
「そうですね。わかりました。」
「ということで、よろしくね。」
そういう訳で、今はシメイを乗せて、彼に扶助等に関する注意をしているのだ。
ちなみに、運動レベルはそこそこ高め。
シメイは、競技会での出場課目を結構高く設定したらしい。
理由は、私の良さをアピールできるようにとか……。
なので、私も厳しめに注意することにした。
ちょっと心苦しいが、シメイのレベルアップのために頑張ろうと思う。
◆Side紫明◆
今日は早速、アイリスには僕が最初から乗った。
林藤先輩は、なぜか僕たちを馬場の奥の方へ連れて行った。
こんな奥の方へ来るのは珍しい。
厩舎から離れると、馬が不安になって集中できないこともあるからだ。
馬場を使っている人が多い時は、邪魔にならないようにこっちの方で乗ることもあるが、今は馬場を使っているのは、自馬会員さん二人だけだ。
そもそも、混雑してる時にアイリスに乗ったりしないし。
なので、なぜこんな所まで来たのか疑問に思っていると、林藤先輩が止まって僕に言った。
「朝言った様に、今日からアイリスに指導してもらってね。私も姿勢なんかは注意するけどね。」
「え?それってどういう……。」
意味が良くわからなくて、混乱していると、今度はアイリスが僕の方に向いて言った。
「あの人は、私がしゃべるのを聞いたらしいの。」
「そうなの!?」
僕は冷や汗が出るのを感じた。
「そうよ。だから、私しかいない時には会話して良いわよ。」
「えーと……。このことは……。」
「誰にも言わないわ。あなた達が隠したいのは、よくわかるから。」
「あ、ありがとうございます。」
「良いのよ。その代わり、私が乗る時もアイリスに指導してもらって良いかしら?」
「はい。私で良ければ……。」
僕の代わりに、アイリスがそう答えた。
実際やってみると、乗っている馬に指導されるというのは、凄く違和感を感じた。
アイリス、かなり厳しかったし……。
でも、無茶苦茶わかりやすい。
他の人が知ったら、羨ましがるだろう。
林藤先輩からの注意はほとんどなかったが、姿勢について普段からよく言われる事を何回か言われた。
同じことを注意されるというのは、それを直そうという気持ちが足りないからだと思う。
直さないといけないとは思いつつ、どこかで『直してもそんなに影響無いのではないか』と思っているのだろう。
しかし、それによってアイリスがどう感じるのかを同時に聞いて、矢張り直さないといけないなとしっかり意識した。
後で先輩に「アイリスの言う事は聞くのね。」と嫌みを言われたけど……。
「外方脚をそんな中途半端に使ったら、拍車がチクチク当たって気になるわよ。」
「ごめん。」
「謝らなくて良いから。拍車を使うならしっかり使う、使わないなら刺さらないようにすること。」
「はい!」
私はシメイを乗せながら、気になった事を伝えている。
なぜこんな事ができるかというと、リンさん――いつも私に乗る女の人から、自分をそう呼んでくれと言われた――のお陰だ。
今朝、彼女とは次のような会話をした。
「大丈夫よ。あなたが話せることは、誰にも言わないから。」
「すみません。ありがとうございます。」
「いいのよ。それでね、競技会まで、あなたにはシメイをメインで乗せようと思ってるの。」
「それはありがたいですが、良いんですか?」
「ええ。それでね。あなたにはシメイに直接指導してもらいたいのよ。」
「えっ?」
「姿勢とかについての注意は私がするけど、扶助とかはあなたが直接言った方が伝わるでしょう?」
「それはそうですが、私が声を出しても大丈夫なんですか?」
「私が指導しながら、他の人が居ない場所に誘導するわ。そしたら、声を出しても大丈夫よ。」
「ありがとうございます。でも、どうしてそこまで……。」
「シメイには上手くなって欲しいんだけど、馬に遠慮する所がそれを妨げているわ。」
「それは、私も感じます。でも、それがシメイの良い所でもありますよね。」
「あらあら、惚気かしら?」
「いえ、そんなんじゃ……。」
「ふふ。確かに、優しいのは彼の良さだけど、時には厳しさも必要だと思わない?」
「それは、そう思います。」
「でしょう?それでね。私達が注意してもなかなか改善されないし、馬であるあなたから言ってもらえれば、彼も聞くんじゃないかと思うのよ。」
「そうですね。わかりました。」
「ということで、よろしくね。」
そういう訳で、今はシメイを乗せて、彼に扶助等に関する注意をしているのだ。
ちなみに、運動レベルはそこそこ高め。
シメイは、競技会での出場課目を結構高く設定したらしい。
理由は、私の良さをアピールできるようにとか……。
なので、私も厳しめに注意することにした。
ちょっと心苦しいが、シメイのレベルアップのために頑張ろうと思う。
◆Side紫明◆
今日は早速、アイリスには僕が最初から乗った。
林藤先輩は、なぜか僕たちを馬場の奥の方へ連れて行った。
こんな奥の方へ来るのは珍しい。
厩舎から離れると、馬が不安になって集中できないこともあるからだ。
馬場を使っている人が多い時は、邪魔にならないようにこっちの方で乗ることもあるが、今は馬場を使っているのは、自馬会員さん二人だけだ。
そもそも、混雑してる時にアイリスに乗ったりしないし。
なので、なぜこんな所まで来たのか疑問に思っていると、林藤先輩が止まって僕に言った。
「朝言った様に、今日からアイリスに指導してもらってね。私も姿勢なんかは注意するけどね。」
「え?それってどういう……。」
意味が良くわからなくて、混乱していると、今度はアイリスが僕の方に向いて言った。
「あの人は、私がしゃべるのを聞いたらしいの。」
「そうなの!?」
僕は冷や汗が出るのを感じた。
「そうよ。だから、私しかいない時には会話して良いわよ。」
「えーと……。このことは……。」
「誰にも言わないわ。あなた達が隠したいのは、よくわかるから。」
「あ、ありがとうございます。」
「良いのよ。その代わり、私が乗る時もアイリスに指導してもらって良いかしら?」
「はい。私で良ければ……。」
僕の代わりに、アイリスがそう答えた。
実際やってみると、乗っている馬に指導されるというのは、凄く違和感を感じた。
アイリス、かなり厳しかったし……。
でも、無茶苦茶わかりやすい。
他の人が知ったら、羨ましがるだろう。
林藤先輩からの注意はほとんどなかったが、姿勢について普段からよく言われる事を何回か言われた。
同じことを注意されるというのは、それを直そうという気持ちが足りないからだと思う。
直さないといけないとは思いつつ、どこかで『直してもそんなに影響無いのではないか』と思っているのだろう。
しかし、それによってアイリスがどう感じるのかを同時に聞いて、矢張り直さないといけないなとしっかり意識した。
後で先輩に「アイリスの言う事は聞くのね。」と嫌みを言われたけど……。
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