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一章 開店直後に客足が伸びない?
15話 新たな提案。
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♢
──そして、火曜日。
満を持して希美と鴨志田は再び『創作和食ダイニング・はれるや』を訪れた。
前までの二回は、到着するやいなや武装をして商店街へ単騎出陣していたが、今日は違う。開店準備が整い終わった営業時間前。希美は阪口に無理を言って、アルバイトを含め従業員全員にホールへ集まってもらっていた。
普段は昼のシフトに携わることのない人にも、可能な限り参加を促した。そうして集まった人数は、総計して十数人ほどだ。中には閉店かと邪推する者もいたが、
「みなさま! 閉店連絡のために集まってもらったのではありません!」
希美はその面前に立って、一言で雑音をシャットアウトした。
「むしろ反対です。この店をもっと盛り上げるために、お声がけさせていただきました。今日は来ていただき、ありがとうございます!」
ほぼ直角に、頭を下げた。従業員らは訳も分かっていない様子で、ばらばらとお辞儀を返す。迫力を込めすぎたかもしれない。
が、決して怖気付かせたかったのではない。
希美が示したかったのは、礼儀を尽くす姿勢だった。そう、今回の件は、示さないと分からないことばかりだったのだ。内に対しても、外に対しても。
「私たちは本気でお店のためになりたいと思っています。ネットの噂は全部デマです。このお店を潰そうとか、首を切ろうとか、全く考えていません!
…………でも、残念ながら本部から閉店話が出たのは本当です。場合によってはそれが今週中になるかもしれません」
従業員らが再びざわめきだす。希美は、腹の底から捻りだすように彼らへ訴えかけた。
「回避するためには今日、今日結果を出すしかありません。だから、どうかお力を貸してください! なにとぞ、よろしくお願いします!」
もう一人の社員だろう店員が、たじろぎ後ずさった。
炎上の件がよぎったのだろう。
けれど、なにも彼だけが責められる話でもない。希美たちがはっきり意志を伝えてこなかったのも、悪かったのだ。言葉にしなければ、立場によって、どうしても認識はずれてしまう。だから、まず内部へ、しっかりと誠意を伝えようと思った。
そしてそのためには、言葉だけでは足りない。希美は、鴨志田にちらりと目線を流す。
彼は、足元に置いていた登山用リュックを大儀そうに机に乗せた。
「こちらは、うちの部で用意した宣伝用具です」
中に詰まっているグッズたちを順番に取り出しはじめる。
説明は、希美の役回りだった。
「まず、チラシです。こちらは私一人で宣伝をしている時にも利用していましたが、少し作り変えさせていただきました」
「なにをどう変えたんですか?」
アルバイトの子から質問が飛んだので、希美は意気揚々と語る。
「前のチラシは、開店セール時の余り物でした。そもそも今回の宣伝の趣旨から外れていたので、一日かけて内容を訂正しました。それから、今回のものはダックスくんのスタンプを押しています!」
「これってたしか会社のゆるキャラの……」
「はい! アヒルのダックスくんです。ちなみに、のぼりもこの子が描かれた、はれるや専用のものを昨日作成してきましたっ!」
本当にそれが改善につながるのか。
そう言わんばかり、場の空気が濁るのを感じる。しかし、この反応は織り込み済みだった。
「ポイントは、ゆるキャラ自体じゃありません。店の印象です。このお店の外観はとても綺麗ですが、白と黒を基調に纏められた外観だと、正直近寄りがたいと思われてしまいます。お客様が寄り付かない原因の一つになっているかと。そこで、少しでもとっつきやすくするためのダックスくんです!」
希美にも、『はれるや』の纏うエレガントさは、一見ウリに思えていた。でもそれは、外の人間にとって、でしかなかったのだ。通行人の目線に立てば、見え方が変わる。
ちょうど春香と希美では、町へのイメージが異なっていたのと同じように。
「なるほどねぇ」
希美の意見に、従業員の一部は理解を示してくれた。ただ、「シックさが特徴だろう」と言う意見も根強い。
希美の言葉が足りなかった分を埋めてくれたのは、鴨志田だった。
「お洒落さを売りにするのは、夜営業であれば正しいかもしれません。でも、自分がランチに行く時を考えてください。より気軽に入れるところを選ぶのでは? それも、ここは銀座ではなく下町である金町の駅前です」
筋道の通った話に、疑問の声は一斉に鎮まる。全員の認識が揃ったところで、希美は話を引き継いだ。
「お客様に来てほしいという意思を示すため、もう一つ提案があります」
「なんでしょうか。できることであれば」
従業員を代表してだろう。阪口がしゃがれた声で言う。
これだけ纏まってくれると、提案する側にとってみれば頼もしい。
──そして、火曜日。
満を持して希美と鴨志田は再び『創作和食ダイニング・はれるや』を訪れた。
前までの二回は、到着するやいなや武装をして商店街へ単騎出陣していたが、今日は違う。開店準備が整い終わった営業時間前。希美は阪口に無理を言って、アルバイトを含め従業員全員にホールへ集まってもらっていた。
普段は昼のシフトに携わることのない人にも、可能な限り参加を促した。そうして集まった人数は、総計して十数人ほどだ。中には閉店かと邪推する者もいたが、
「みなさま! 閉店連絡のために集まってもらったのではありません!」
希美はその面前に立って、一言で雑音をシャットアウトした。
「むしろ反対です。この店をもっと盛り上げるために、お声がけさせていただきました。今日は来ていただき、ありがとうございます!」
ほぼ直角に、頭を下げた。従業員らは訳も分かっていない様子で、ばらばらとお辞儀を返す。迫力を込めすぎたかもしれない。
が、決して怖気付かせたかったのではない。
希美が示したかったのは、礼儀を尽くす姿勢だった。そう、今回の件は、示さないと分からないことばかりだったのだ。内に対しても、外に対しても。
「私たちは本気でお店のためになりたいと思っています。ネットの噂は全部デマです。このお店を潰そうとか、首を切ろうとか、全く考えていません!
…………でも、残念ながら本部から閉店話が出たのは本当です。場合によってはそれが今週中になるかもしれません」
従業員らが再びざわめきだす。希美は、腹の底から捻りだすように彼らへ訴えかけた。
「回避するためには今日、今日結果を出すしかありません。だから、どうかお力を貸してください! なにとぞ、よろしくお願いします!」
もう一人の社員だろう店員が、たじろぎ後ずさった。
炎上の件がよぎったのだろう。
けれど、なにも彼だけが責められる話でもない。希美たちがはっきり意志を伝えてこなかったのも、悪かったのだ。言葉にしなければ、立場によって、どうしても認識はずれてしまう。だから、まず内部へ、しっかりと誠意を伝えようと思った。
そしてそのためには、言葉だけでは足りない。希美は、鴨志田にちらりと目線を流す。
彼は、足元に置いていた登山用リュックを大儀そうに机に乗せた。
「こちらは、うちの部で用意した宣伝用具です」
中に詰まっているグッズたちを順番に取り出しはじめる。
説明は、希美の役回りだった。
「まず、チラシです。こちらは私一人で宣伝をしている時にも利用していましたが、少し作り変えさせていただきました」
「なにをどう変えたんですか?」
アルバイトの子から質問が飛んだので、希美は意気揚々と語る。
「前のチラシは、開店セール時の余り物でした。そもそも今回の宣伝の趣旨から外れていたので、一日かけて内容を訂正しました。それから、今回のものはダックスくんのスタンプを押しています!」
「これってたしか会社のゆるキャラの……」
「はい! アヒルのダックスくんです。ちなみに、のぼりもこの子が描かれた、はれるや専用のものを昨日作成してきましたっ!」
本当にそれが改善につながるのか。
そう言わんばかり、場の空気が濁るのを感じる。しかし、この反応は織り込み済みだった。
「ポイントは、ゆるキャラ自体じゃありません。店の印象です。このお店の外観はとても綺麗ですが、白と黒を基調に纏められた外観だと、正直近寄りがたいと思われてしまいます。お客様が寄り付かない原因の一つになっているかと。そこで、少しでもとっつきやすくするためのダックスくんです!」
希美にも、『はれるや』の纏うエレガントさは、一見ウリに思えていた。でもそれは、外の人間にとって、でしかなかったのだ。通行人の目線に立てば、見え方が変わる。
ちょうど春香と希美では、町へのイメージが異なっていたのと同じように。
「なるほどねぇ」
希美の意見に、従業員の一部は理解を示してくれた。ただ、「シックさが特徴だろう」と言う意見も根強い。
希美の言葉が足りなかった分を埋めてくれたのは、鴨志田だった。
「お洒落さを売りにするのは、夜営業であれば正しいかもしれません。でも、自分がランチに行く時を考えてください。より気軽に入れるところを選ぶのでは? それも、ここは銀座ではなく下町である金町の駅前です」
筋道の通った話に、疑問の声は一斉に鎮まる。全員の認識が揃ったところで、希美は話を引き継いだ。
「お客様に来てほしいという意思を示すため、もう一つ提案があります」
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従業員を代表してだろう。阪口がしゃがれた声で言う。
これだけ纏まってくれると、提案する側にとってみれば頼もしい。
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